運動の現象の奥底には運動の法則がひそんでいます。現象を記載するだけでなく、本質を追究します。〈仮説→検証→予測〉という方法が有用です。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』 2019年3月号の Newton Special では「なるほど!! 物理入門」と題して、高校物理の内容をわかりやすく解説しています。その PART 1 は「力と運動」です。
うごいている物体は、周囲から力がくわわらない場合、おなじ速さでまっすぐうごきつづけます(等速直線運動をします)。これを「慣性の法則」あるいは「運動の第一法則」といいます。静止している物体は、周囲から力がくわわらない場合、静止しつづけます。
地球上では、摩擦力や空気抵抗などに邪魔されて、物体がまっすぐうごきつづける現象をみることはできませんが、宇宙空間のような「理想的な状況」を想定すると「現象の本質」が理解できます。
つぎに物体に力がくわわった場合をかんがえると、たとえば自動車のアクセルをふんで自動車に力をくわえたとき、くわわる力が一定だと、速度は、ある時間がたつたびに一定間隔ではやくなっていきます。一定時間でのこのような速度の変化量のことを「加速度」といいます。
またたくさんの人がのった自動車ではいつもよりも加速しずらいと感じます。この現象は、「質量の大きな物体ほど加速しずらい」ことを意味しており、「質量と加速度は反比例」することをしめしています。一方、おなじ物体にくわわる力が大きいほど加速度は大きくなり、「力と加速度は比例」します。
これらの関係をまとめるとつぎのような式になります。
この式は「運動方程式」とよばれ、「運動の第二法則」をあらわします。この式により、ある質量をもった物体に、ある力をくわえた場合、どんなふうに加速するが計算によりわかります。すなわち質量と力がわかれば、その物体の運動を「予測」できることになります。
物体に力をくわえたときには、その力とまったくおなじつよさの反対向きの力が、力をくわえた側にもはたらきます。これを、「作用・反作用の法則」あるいは「運動の第三法則」とよびます。
物体の「質量 × 速度」であらわされる「運動の勢い」のことを「運動量」といい、この現象は、「2つの物体の運動量の合計はつねに一定である」ことをしめし、これを「運動量保存の法則」といいます。バスケットボールをなげるまえの運動量はゼロです。つぎにボールをなげると、ボールがとんでいく前向きの運動量の分だけ、おなじ大きさの運動量が後ろ向きに発生し、運動量の合計は、ボールをなげるまえとおなじゼロになり、すなわち運動量は保存されています。たとえば JAXA の探査機「はやぶさ2」は、イオンエンジンをつかってキセノンイオンを後ろに噴射することで、前向きの運動量をえて、加速してすすんでいきます。ここでも運動量保存の法則がつかわれています。
ボールがもつエネルギーは、ボールの運動の速さできまる「運動エネルギー」と、ボールの位置の高さできまる「位置エネルギー」の2種類です。
たとえば斜め上にうったボールは、重力により減速し「運動エネルギー」はへります。しかし高い位置へあがるので「位置エネルギー」はふえます。運動エネルギーの減少分は、位置エネルギーの増加分とひとしく、すなわち運動エネルギーと位置エネルギーの総量はつねに一定になります。これを、「力学的エネルギー保存の法則」といいます。
ボールは、うった瞬間は、どの角度にうったボールであっても、おなじ運動エネルギーをもち、またおなじ高さにあるため、おなじ位置エネルギーをもちます。
つぎに着地寸前のボールをみると、どのボールもおなじ高さにあります(おなじ位置エネルギーをもちます)。力学的エネルギー保存の法則から、位置エネルギーと運動エネルギーの総量はつねに一定であるため、どのボールもおなじ運動エネルギーをもつことになり、どのボールもおなじ速さになります。
エネルギーには、熱エネルギーや光エネルギーや電気エネルギーなど、いろいろな種類があり、さまざまな現象によってエネルギーが変換されます。変換がおきても、エネルギーの総量はつねに一定です。これを、「エネルギー保存の法則」といいます。
惑星探査機の運動、自動車の運動、水泳選手の運動、ボールの運動など、わたしたちはさまざまな運動を観察(観測)することができます。それらの運動の様子を記載し記録するすることはすぐにできます。しかしその先にすすむのが物理学です。現象の奥底にはどんな本質があるのだろうか?
現象は直接みることができますが、現象の本質はみることはできません。本質の追究は、現象をみて、「・・・ではないだろうか?」とかんがえるところからはじまります。仮説をまずたてるといってもよいでしょう。そのときに、こまごまとしたことはさておき、理想的な状況(前提)を想定すると仮説がたてやすくなります。そして物理学では方程式で仮説を表現します(数理モデルということもあります)。
ひとたび仮説がたてられると、つぎに、仮説を検証する作業にはいります。実験(観測)をくりかえしてあらたなデータをえて、それらが仮説にあてはまるかどうかを確認します。どのデータも仮説にあてはまれば仮説は実証されたことになり、あてはまらなければ仮説をたてなおします。
誰がやっても、どこでやっても、実験によってえられるデータが仮説にあてはまる場合、その仮説は、「法則(ルール)」といってもよいでしょう。
こうして法則が確立すると、今度は、それをあらわす方程式に、特定の数値を代入して計算することによって、運動の予測ができます。運動の実験をやる前に、その結果が予見できます。
そしてふたたび実験(あるいは観測)をやってみてその結果がたしかめられたなら、法則の蓋然性はさらにたかまるということになります。
このように、現象を観察して仮説をたて、実験によって仮説を検証し、法則を確立して現象を予測するという一連の方法がここにはみとめられます。
現象を観察して仮説をたてる方法は「仮説発想法」(あるいは仮説法、発想法)、実験(観測)によってえられる個別のデータから仮説を検証する方法は「帰納法」、法則(をあらわす方程式)から予測をする方法は「演繹法」とよばれることもあります。
このような方法は、物理学にとどまらず、自然科学のあらゆる分野でつかわれており、それどころか人間界のあらゆる課題につかうことができます。
▼ 参考文献
『Newton』(2019年3月号)ニュートンプレス、2019年
1977年、ボイジャー1号とボイジャー2号が打ち上げられました。2機はことなる軌道で木星や土星を観測したあと、太陽系の外へ向かって今も慣性の法則にしたがって飛行中です。ボイジャー1号は地球から最も遠くにある人工物であり、その記録を今も更新しつづけています。
うごいている物体は、周囲から力がくわわらない場合、おなじ速さでまっすぐうごきつづけます(等速直線運動をします)。これを「慣性の法則」あるいは「運動の第一法則」といいます。静止している物体は、周囲から力がくわわらない場合、静止しつづけます。
地球上では、摩擦力や空気抵抗などに邪魔されて、物体がまっすぐうごきつづける現象をみることはできませんが、宇宙空間のような「理想的な状況」を想定すると「現象の本質」が理解できます。
つぎに物体に力がくわわった場合をかんがえると、たとえば自動車のアクセルをふんで自動車に力をくわえたとき、くわわる力が一定だと、速度は、ある時間がたつたびに一定間隔ではやくなっていきます。一定時間でのこのような速度の変化量のことを「加速度」といいます。
またたくさんの人がのった自動車ではいつもよりも加速しずらいと感じます。この現象は、「質量の大きな物体ほど加速しずらい」ことを意味しており、「質量と加速度は反比例」することをしめしています。一方、おなじ物体にくわわる力が大きいほど加速度は大きくなり、「力と加速度は比例」します。
これらの関係をまとめるとつぎのような式になります。
力(F)= 質量(m)× 加速度(a)
この式は「運動方程式」とよばれ、「運動の第二法則」をあらわします。この式により、ある質量をもった物体に、ある力をくわえた場合、どんなふうに加速するが計算によりわかります。すなわち質量と力がわかれば、その物体の運動を「予測」できることになります。
水泳選手は、壁を勢いよくけることで力強いターンを決めます。このとき水泳選手の進む方向を変えて、加速させている力は何でしょうか? 水泳選手は壁をけっているので、壁には力がかかります。しかし、水泳選手自身にも力がくわわらなければ、水泳選手はターンができないはずです。
物体に力をくわえたときには、その力とまったくおなじつよさの反対向きの力が、力をくわえた側にもはたらきます。これを、「作用・反作用の法則」あるいは「運動の第三法則」とよびます。
キャスターつきのいすに座って足を床からはなし、勢いよくバスケットボールを投げることを考えてみましょう。ボールを投げた瞬間、いすは “反動”(ボールに加えた力の反作用)によってボールとは反対の方向に動き出します。
物体の「質量 × 速度」であらわされる「運動の勢い」のことを「運動量」といい、この現象は、「2つの物体の運動量の合計はつねに一定である」ことをしめし、これを「運動量保存の法則」といいます。バスケットボールをなげるまえの運動量はゼロです。つぎにボールをなげると、ボールがとんでいく前向きの運動量の分だけ、おなじ大きさの運動量が後ろ向きに発生し、運動量の合計は、ボールをなげるまえとおなじゼロになり、すなわち運動量は保存されています。たとえば JAXA の探査機「はやぶさ2」は、イオンエンジンをつかってキセノンイオンを後ろに噴射することで、前向きの運動量をえて、加速してすすんでいきます。ここでも運動量保存の法則がつかわれています。
高台からテニスのラケットでサーブを打ったとしましょう。ことなる角度に同じ速さでサーブを打ったら、着地寸前のテニスボールの速さはどの場合が最も速くなるでしょうか(空気抵抗は無視します)。![]()
ボールがもつエネルギーは、ボールの運動の速さできまる「運動エネルギー」と、ボールの位置の高さできまる「位置エネルギー」の2種類です。
- 運動エネルギー
- 位置エネルギー
たとえば斜め上にうったボールは、重力により減速し「運動エネルギー」はへります。しかし高い位置へあがるので「位置エネルギー」はふえます。運動エネルギーの減少分は、位置エネルギーの増加分とひとしく、すなわち運動エネルギーと位置エネルギーの総量はつねに一定になります。これを、「力学的エネルギー保存の法則」といいます。
ボールは、うった瞬間は、どの角度にうったボールであっても、おなじ運動エネルギーをもち、またおなじ高さにあるため、おなじ位置エネルギーをもちます。
つぎに着地寸前のボールをみると、どのボールもおなじ高さにあります(おなじ位置エネルギーをもちます)。力学的エネルギー保存の法則から、位置エネルギーと運動エネルギーの総量はつねに一定であるため、どのボールもおなじ運動エネルギーをもつことになり、どのボールもおなじ速さになります。
エネルギーには、熱エネルギーや光エネルギーや電気エネルギーなど、いろいろな種類があり、さまざまな現象によってエネルギーが変換されます。変換がおきても、エネルギーの総量はつねに一定です。これを、「エネルギー保存の法則」といいます。
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惑星探査機の運動、自動車の運動、水泳選手の運動、ボールの運動など、わたしたちはさまざまな運動を観察(観測)することができます。それらの運動の様子を記載し記録するすることはすぐにできます。しかしその先にすすむのが物理学です。現象の奥底にはどんな本質があるのだろうか?
現象は直接みることができますが、現象の本質はみることはできません。本質の追究は、現象をみて、「・・・ではないだろうか?」とかんがえるところからはじまります。仮説をまずたてるといってもよいでしょう。そのときに、こまごまとしたことはさておき、理想的な状況(前提)を想定すると仮説がたてやすくなります。そして物理学では方程式で仮説を表現します(数理モデルということもあります)。
ひとたび仮説がたてられると、つぎに、仮説を検証する作業にはいります。実験(観測)をくりかえしてあらたなデータをえて、それらが仮説にあてはまるかどうかを確認します。どのデータも仮説にあてはまれば仮説は実証されたことになり、あてはまらなければ仮説をたてなおします。
誰がやっても、どこでやっても、実験によってえられるデータが仮説にあてはまる場合、その仮説は、「法則(ルール)」といってもよいでしょう。
こうして法則が確立すると、今度は、それをあらわす方程式に、特定の数値を代入して計算することによって、運動の予測ができます。運動の実験をやる前に、その結果が予見できます。
そしてふたたび実験(あるいは観測)をやってみてその結果がたしかめられたなら、法則の蓋然性はさらにたかまるということになります。
このように、現象を観察して仮説をたて、実験によって仮説を検証し、法則を確立して現象を予測するという一連の方法がここにはみとめられます。
仮説→検証→予測
現象を観察して仮説をたてる方法は「仮説発想法」(あるいは仮説法、発想法)、実験(観測)によってえられる個別のデータから仮説を検証する方法は「帰納法」、法則(をあらわす方程式)から予測をする方法は「演繹法」とよばれることもあります。
このような方法は、物理学にとどまらず、自然科学のあらゆる分野でつかわれており、それどころか人間界のあらゆる課題につかうことができます。
▼ 参考文献
『Newton』(2019年3月号)ニュートンプレス、2019年