IMG_7684_5
多様性の実例:オオジロ科
(平行法で立体視ができます)
人間をふくむあらゆる生物は細胞からできており、DNA をもっています。種分化や進化によって多様性がうまれます。
国立科学博物館・地球館1階の第3展示室では、生命のしくみ、生物多様性の由来について展示・解説しています(注)。

ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -



生命とは何か

DSCF9424ab
細胞の模型とそのしくみ


あらゆる生物の体は細胞からできており、細胞は、「細胞膜」で外界とへだてられ、遺伝情報(生命の設計図)を記録している「DNA」という物質をもち、遺伝情報のセットである「ゲノム」をそなえています。

細胞膜は、ちいさい脂質の粒がならんで2重の層をつくったものであり、これによって内側と外界との区別が生じます。内側と外界をへだてることは生物にとって必須のことであり、こうして、必要なものを中にとりいれ、必要でないものなどを外へだすしくみも発生しました。生物が、必要なエネルギーや物質を体内にとりいれ、生命維持のための化学反応をおこし、不要になった物質を体外に排出することを「代謝」といいます。

遺伝情報を記録している物質である DNA は、アデニン(A)・グアニン(G)・シトシン(C)・チミン(T) というわずか4種類の物質からなり、細胞分裂によって細胞がふえるときには DNA がコピーされます。

また細胞は、DNA にもとづいてタンパク質をつくります。タンパク質の役割は多様であり、体をつくることにはじまり、物質の運搬・輸送、酵素としてのはたらきがあります。タンパク質はあらゆる生命活動に関与しており、その種類は膨大です。

  • 細胞膜
  • 代謝
  • DNA
  • タンパク質

わたしたち人間もふくむ地球上のあらゆる生物はこのような細胞でできており、ただひとつの共通のしくみをもちます。現在みられる生物の多様性は、この共通性にもとづいて、もとひとつのものが分化して生じてきました。





種とは何か

種とは、生態的地位と生殖によるまとまりです。小鳥は、春になれば種ごとにつがいをつくって子育てをします。これは生殖によるまとまりです。またそれぞれの種には、特有の餌のとりかたがあるので、もし、たがいに交雑して雑種ができたとしても効率的に餌をとることはできず、いきのこることはむずかしくなります。つまり生態的地位によるまとまりが必要です。このような生殖によるまとまりと生態的地位によるまとまりによって種は維持されます。

  • 生殖によるまとまり
  • 生態的地位によるまとまり

なお種の識別は、姿かたちだけではむずかしいことがよくあります。観察にくわえて分析が必要です。

IMG_7651_2
みかけはおなじ、でもちがう種





種分化による多様化

オキナワルリチラシは、鱗翅目(チョウ目)マダラガ科に属するうつくしい蛾であり、日本から東南アジアをへてスリランカまでひろく分布します。多数の亜種にわかれており、それぞれの亜種は斑紋などの外見がことなります。さらに日本国内および周辺の亜種間では、成虫が発生する回数、休眠性の有無とその条件、繁殖行動の時間帯など、生態にもおおきなちがいがみられます。

このような種分化は、オキナワルリチラシが北方へ分布をひろげていくなかで、島ごとに集団が隔離されたために生じたとかんがえられています。


IMG_7669_70ab
オキナワルリチラシの亜種の分布
 




進化による多様化

ハツカネズミの毛色は DNA の配列がひとつおきかわっただけでおおきく変化することがわかっています。

遺伝子にみられるさまざまな変異と環境への適応とがつみかさなって進化がおこるとかんがえられています。





多様化の実例

たとえばオオジロ科(脊索動物門 鳥綱)は500種以上からなり、種数において鳥類最大の科であり、新大陸を中心にひろく分布します。果実食や昆虫食のものは新大陸の熱帯域周辺で多様化し、種子食のものは草原にでて、ユーラシア大陸やアフリカ大陸にも分布をひろげながら多様化しました。なお最新の研究により、オオジロ科は、オオジロ科・フウキンチョウ科・ツメナガホオジロ科・ショウジョウコウカンチョウ科の4つの科に現在ではわけられています。 






あらゆる生物は細胞でできており、細胞は、細胞膜によって外とへだてられているということは重要な知見です。中と外とをへだてるという構造が、生物と環境を区分することにつらなっていきます。

細胞膜ができたということは、そのときに中と外が同時に生じたのですから、最初の生物がうまれたときに生物と環境が同時に発生したということになります。生物だけが単独で発生したということはありえず、生物が先で環境が後というわけでもなく、環境が先で生物が後というわけでもありません。そもそも環境とは、生物(主体)があってはじめてなりたつ概念です。

このように生物と環境は同時に発生したのであり、生物と環境は同等であり、生物と環境は一体になってひとつのシステムをつくったとかんがえたほうがよいでしょう。

このシステムにおいて、生物は、エネルギーや物質を環境からとりいれ、内部で化学反応をおこし、不要になったものやあまったものは環境へ放出します。これが代謝であり、このしくみを理解するためには、生物とともに、環境とその変化についてもしらべなければなりません。

このようなことから、生物と環境の相互作用あるいは〈生物-環境〉システムの運動・変化が自然の多様性をうみだしてきたのではないだろうかという仮説がたてられます。 

190121 生物-環境
〈生物-環境〉システムのモデル



▼ 関連記事
国立科学博物館・地球館を概観する - 自然との共存をめざして -

▼ 注
国立科学博物館 地球館1階