自然現象にはゆらぎがあります。気象予測は完璧ではありません。直観もはたらかせてはやめはやめに判断し避難します。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2019年2月号では「超図解でよくわかる! 天気と気象の教科書」を特集しています。



「台風」の正体は、多くの積乱雲が集まって渦をつくったものです。赤道に近い低緯度の海域は海水温が高く、風のぶつかりあいなどにおって上昇気流が生じやすくなっており、次々と積乱雲が発達します。この熱帯の海でできた積乱雲が、台風の “種” となります。


熱帯の海でつぎつぎに発達した積乱雲はやがて集団をつくり、「熱帯低気圧」になります。そして中心付近の最大風速が秒速約17メートルよりもつよくなると「台風」とよばれます。

台風の中心部は台風の「」とよばれ、雲がほとんどありません。これは、台風にふきこむ猛烈な風が反時計まわりに回転し、その遠心力によって中心部まで雲がはいれないことなどによります。目のまわりには、壁のようにたかくそびえる積乱雲(壁雲、アイウォール)ができ、はげしい暴風雨をもたらします。また目のなかには、下降気流などによって、周囲よりも10℃以上も暖かく軽い空気のかたまり「ウォームコア(暖気核)」でき、地上の気圧を低下させ、周囲からさらに風がふきこむようになります。こうして、周囲から水蒸気をあつめて台風は発達し、猛烈な風や雨をもたらします。


台風の進路を決める大きな要因は、夏場に日本の東の海上にいすわる「太平洋高気圧」がつくる風と、「貿易風」、そして「偏西風」です。

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赤道から緯度30度以下の地域には、1年を通して東から西に向かって「貿易風」が吹いています。そのため熱帯の海上で発生した台風は西へすすみます。夏場にいすわる「太平洋高気圧」からは時計まわりに風がふきだしているため、台風は、高気圧の南側から西側をまわるように北上します。そして日本付近にやってきた台風は「偏西風」の影響をうけて進路を東よりにかえ、北東にすすむようになります。こうして日本列島を縦断するような進路をとることがおおくなります。


せまい範囲に数時間にわたって100〜数百ミリもの大雨が降るのが「集中豪雨」です。


大雨をふらせるのはやはり積乱雲です。複数の積乱雲が発生しつづけるメカニズムのひとつが「バックビルディング」とよばれる現象です。上空に適度な風のながれがある状況では、積乱雲がうまれては ながされることをくりかえして、おなじ場所に積乱雲の列ができることがあります。こうした積乱雲の列は「線状降水帯」とよばれ、集中豪雨をもたらします。「平成30年7月豪雨」でもこれが生じていました。

また「ゲリラ豪雨」とは、せまい範囲で突発発生する予測のむずかしい「局地的大雨」です。「大気の状態が不安定」な状況で積乱雲が急速に発達して発生します。都市では、「都市型水害」の原因となります。




過去100年間で、地球全体の平均気温は約0.7℃上昇しました。南極の氷がとけるなどして、おなじ期間に、海面の高さは20センチメートルちかく上昇したと見積もられています。21世紀末には、地球全体では以下のような変化がおきると予測されています。


地球全体への温暖化の影響
  • 年平均気温が2.6〜4.8℃上昇する
  • 平均海面水位が0.45〜0.82メートル上昇する
  • 極端に暑い日がふえ、極端に寒い日が減る
  • 熱波の発生回数がふえ、しかも長くつづく
  • 北半球の氷や雪が減る
  • 湿潤地域で極端な大雨がふえる一方で、乾燥地域で降水量が減る(地域差がおおきくなる)
  • 熱帯低気圧(台風など)の最大風速が強くなる
 (出展:IPCC 第5次報告書)


21世紀末に日本でおきる気温と雨の降り方、雪の変化はつぎのように予測されています。


日本での気温
  • 年平均気温は全国で4.5℃上昇する
  • 最高気温30℃の真夏日が増加する
  • 最低気温0℃未満の冬日が減少する

日本での雨の降り方
  • 降水量は変わらないが、年変動の幅が大きくなる
  • 大雨の降る回数が増加する
  • 短時間の強い雨が降る回数が増加する

日本での雪の降り方
  • 降雪量はほとんどの地域で減少する
  • 積雪の深さも減少する
  • ドカ雪が降る回数がふえる
 (出展:気象庁・地球温暖化予測情報 第9巻)


実際には、地球温暖化だけで異常気象がおきるわけではなく、地球の気候システムの「ゆらぎ」によってもおこります。大気のながれや海流は大局的・基本的には毎年おなじでもいくらかの変動があります。

いずれにしても気象災害の発生が今後ふえていくと予測されます。近年おこっているような大規模な災害が毎年のようにおそってくる可能性がたかいです。今から十分にそなえておかなければなりません。

たとえば2018年には台風が29個発生し、平均の26.6個にくらべてこれは多いです。発生数が多くなった原因として、台風が発生する海域の海面水温が平年よりも高かったことなどがあげられています。


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このような気象災害にそなえるためには天気予報をこまめにチェックしたり、気象庁その他の気象情報サイトを頻繁にみるようします。はやめの避難が必要です。

近年の天気予報は、スーパーコンピューターの開発によって あたる確率がしだいにたかくなってきており、国民に提供される情報もこまかく親切になってきています。

気象学は地球物理学の一分野であり、力学と熱力学にもとづいてなりたっています。気象学者は、力学と熱力学の法則にもとづいて、複数の微分方程式をくみあわせて気象現象をあらわす数学的モデルをつくり、このモデルに、実際の膨大な観測データをあてはめ、統計学・確率論をつかって(コンピューターをつかって)現象の傾向を抽出し、気象を予測します(注1)。

モデル→データ→予測


近年の観測技術と数学・コンピューターの発達はいちじるしく、気象予測をおおきく進歩させました。

しかしながらこれだけ科学が発達したにもかかわらず、はずれることがやっぱりあるなとおもっている人がおおいのではないでしょうか。それは、自然現象には「ゆらぎ」があるからです。気象学にも限界があり、ゆらぎまでは正確に予測できません。このゆらぎの存在に気がつかなければなりません。

自然界にはゆらぎがある以上、観測技術と数学・コンピューターがどれだけ発達しても、まったく正確な予測(予知)はできないということになります。そもそも地球は「複雑系」(カオス)であるため一筋縄ではいきません。

それではどうすればよいか。「何だか気にかかる」という気持ちを大事にしてください。動物的な勘あるいは直観をはたらかせるといってもよいでしょう。何だか気にかかるという気持ちが生じたら、それを放置せずにあらたな情報収集をはじめてください。

たとえばわたしが、ネパール・ヒマラヤの山村をフィールドワークしていたとき、山岳の急斜面に家をたててくらしている人たちがいました。「谷むかいにはもっと緩傾斜な斜面があるのに、なんでむこうにすまないのですか?」とたずねたら、「何だか気にかかるんだ。あっちは居心地がわるいんだ」とこたえました。わたしがそこにいって地質調査をしたところ、そこは地滑りが発生しやすい土地であることがわかりました。その村人たちは地質学も気象学もしらず、天気予報もないところでくらしていましたが、「何だか気にかかる」ところにはすまないようにしていたのです。

日本でも、何だか気にかかるようでしたら、役所にいってきいてみる、専門家をまねいて調査してもらうなどしてみてください。場合によっては、毎年のように気象災害がおそってくるという前提にたって、別の土地に引っ越すという重大な決断が必要になるかもしれません。

そもそも積乱雲も台風も前線も、本来は安定していた大気がいちじるしく不安定になった状態です。それ自体が大規模なゆらぎです。自然にはゆらぎがあることをしり、科学は万能ではないことをしり、ゆらぎをとらえて、はやめはやめに判断し行動していくことがもとめられます。 科学の分析・論理・理性だけでは命と財産をまもりきれません。


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▼ 注1
この方法は帰納法とよばれることもあります。

▼ 参考文献
『Newton』2019年2月号、ニュートンプレス、2019年

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