自然選択説、進化の総合説、分子進化の中立説、断続平衡説などの仮説が提唱されています。観察をしてデータを蓄積し、仮説をたてて検証することが大事です。
『ダーウィン進化論』(ニュートンムック)の第5章では、どのようにして進化はおこるのか? 進化のメカニズムを解説しています。さまざまな仮説がこれまでに提唱されてきました。
1859年、ダーウィンは『種の起源』を出版し、「自然選択説」を提唱しました。しかしダーウィンの時代には遺伝学がなかったため、遺伝的変異がいかにしておき、子孫につたわるかはわかりませんでした。
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▼ 参考文献
『生誕200周年、『種の起源』150周年 ダーウィン進化論』(ニュートンムック)ニュートンプレス、2009年3月10日
1859年、ダーウィンは『種の起源』を出版し、「自然選択説」を提唱しました。しかしダーウィンの時代には遺伝学がなかったため、遺伝的変異がいかにしておき、子孫につたわるかはわかりませんでした。
1865年、メンデルが遺伝法則を発表しました。しかしほとんど当時は注目されず、1920年代になってから遺伝子の突然変異がようやくたしかめられました。
初期の遺伝学者たちがとりくんだエンドウマメなどの研究は、非常にはっきりちがいのあらわれる遺伝的変異だったため、「大きなちがいを生じる突然変異により、一瞬にして進化がおこり、新しい種ができる」という仮説が提唱され、20世紀初頭にはこれが正当とされました。
しかしその後、ショウジョウバエの研究がすすむにつれて、非常にちいさな突然変異があることがわかってきました。また集団遺伝学という研究分野がおこり遺伝の研究がすすみました。集団遺伝学とは、突然変異を生じた遺伝子が集団のなかでどのように行動するかなどを研究する学問です。こられの研究成果をふまえて、「生存につごうのよい小さな突然変異が、自然選択によって集団に蓄積していき、集団の新しい性質となる」という仮説がとなえられ、自然選択説が進化論の本流になりました。これは、「進化の総合説」あるいは「ネオダーウィニズム」とよばれます。
集団のなかで、突然変異を生じた遺伝子の割合が、偶然によってふえたりへったりする現象を「遺伝的浮動」とよびます。生存のために都合がよくもわるくもない突然変異、つまり中立な変異は、集団のおおきさに関係なく遺伝的浮動の効果がおおきくあらわれます。中立的な突然変異をおこした遺伝子のほとんどはその集団から消えてしまいますが、運のよいものは偶然によって集団全体にひろがり、集団の性質となることができます。
1950年代になると分子生物学がはじまり、遺伝子の構造、タンパク質がつくられるメカニズムなどがあきらかになり、遺伝子の暗号も解読されていきました。
1968年、国立遺伝学研究所の木村資生は、集団遺伝学の数学理論と分子生物学をあわせて「分子進化の中立説」を発表しました。これは、「タンパク質などの分子のレベルでは、生存につごうがよくも悪くもない中立な突然変異がおこり、その中には、運がよくて種の中に偶然に広がるものがある。やがて、それが種の性質となり、分子の進化がおこる」というものでした。生存のために都合がよくもわるくもない中立な突然変異をおこす遺伝子を想定したところにポイントがあり、それが、遺伝的浮動で集団にひろがって進化がおこるということです。
分子進化の中立説によれば、生存にとって都合がよい遺伝子がいきのこってひろがり、生存にとって都合がわるい遺伝子がとりのぞかれてきえていくという二者択一的な仕組みが否定されます。遺伝子の世界は、必要なものだけでできているのではなく、必要のないものもあり余裕があるということです。自然選択だけで進化を説明することはできません。
他方、古生物学者のナイルズ=エルドリッジとスティーヴン=ジェイ=グールドは、1972年、化石の研究にもとづいて、「断続平衡説」(区切り平衡説)を発表しました。「生物は、急激に変化する期間と、ほとんど変化しない静止(平衡、停滞)期間をもち、徐々に進化するのでなく、区切りごとに突発的に進化する」という仮説です。進化は、均一な速度ですすむのではなく、比較的短期間に爆発的な種分化がおこり、それ以外のかなりながい期間は種は安定期(平衡状態)にあるということを化石資料の膨大なデータからしめしました。彼らは、自然選択による漸進的な進化を主張する正統派進化論者とは対立しました。
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以上のように、進化に関する仮説には変遷があり、さまざまです。
大事なことは、本にどう書いてあったかとか、えらい人がどう言ったかということではなく、対象を観察してデータを蓄積し、仮説をたてて検証するということです。進化論の歴史をみれば科学のこの方法が重要なことがよくわかります。
またこの方法をまなぶことなく進化論を誤解・曲解し、人間社会にあてはめてしまうのはもっともいけないことです。ヒト(ホモ・サピエンス)には種のちがいはそもそもないのに、「生存競争」と「適者生存」を根拠にして人種差別をしたり、異民族の虐殺をしたりすることはあってはなりません。
ダーウィンは、聖書の記述から独立して、生物は進化していることを科学的に証明し、ヒトとサルが共通の祖先をもつことをあきらかにしましたが、一方で、侵略者・権力者らによって曲解され、悪用もされてきた歴史があります。あらためて進化論の基本を誰もが確認し、おなじあやまちをくりかえさないようにしなければなりません。
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『生誕200周年、『種の起源』150周年 ダーウィン進化論』(ニュートンムック)ニュートンプレス、2009年3月10日