牧場とピューマが共存するためにはどうすればよいか、模索がつづきます。地域全体のバランスが必要です。
南米チリのパタゴニア地方では、保護されたピューマが牧場の羊をたべてしまいます。



今月初め、400頭の羊を売る商談をまとめました。でも5日後には370頭に減っていました。一晩で30頭がピューマにおそわれたのです。

2018-12-13 20.27.40


ピューマ(学名 Puma concolor)は、アラスカ南部からチリ南部まで、西半球でもっとも生息範囲のひろい陸生哺乳類です。なかでも、生息数がもっとも密集しているとみられているのが、チリ南部にひろがるトーレス・デル・パイネ国立公園とその周辺です。ピューマは公園内で保護され、グアナコ(リャマの仲間)などの獲物もたくさんいるうえ、オオカミのようなライバルもいません。

この地域の牧場主たちは100年以上にわたって、この地域のピューマがふえすぎるのをおさえてきました。しかし1970年代に国立公園が設立されてピューマとグアナコの狩猟が禁止され、両者の数はいちじるしくふえ、公園外の私有地に食料をもとめて姿をあらわすようになりました。ピューマのなかには牧場の羊をおそうものがおり、公園の設立以来、ピューマにおそわれた羊の数は約3万頭にのぼり、羊毛と羊肉のうりあげにおおきな損失がでています。

そんななかでゴイック兄弟は2015年、彼らの牧場を観光客に開放して、今では、年間800人ほどの観光客をうけいれ、約60平方キロの敷地内でツアーをおこなって結構な収入をえています。ピューマにあうこともできます。

牧場主のなかには、誇りたかき人間であるために観光なんかやってられるかという人もいますが、ピューマによる損失を観光収入がおぎなってくれる可能性があります。

またピューマは、獲物となる動物の数を抑制し、広大な地域の生態系のバランスをたもつ役割をはたしていることもわすれてはなりません。

全体的なバランスを視野にいれた解決策が必要です。エコツーリズムをすすめる場合にも、目前の現象を観察するだけでなく、地域を大観する高次元な能力がもとめられます。


▼ 参考文献
『ナショナル ジオグラフィック日本版』(2018年12月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2018年