保護か開発か、米国西部で対立がつづいています。しかし時代の潮流は保護にながれています。
『ナショナルジオグラフィック』2018年12月号では、米国西部の保護区における対立について報告しています。



ベアーズ・イアーズ国立モニュメントに残る幅7メートル近い岩絵。少なくとも1000年前のもので、人間らしき姿が190体ほど四方から集まる様子が描かれている。米国ユタ州南部では、1万2000年以上にわたってさまざまな文化が花開いた。(中略)

2017年12月、ドナルド・トランプ大統領は約55万ヘクタールだった国立モニュメントの面積を約85%も縮小し、インディアン・クリーク地域とシャシュ・ジャア地域に分割して、それぞれを国立モニュメントにした。さらに大統領は、同じユタ州にあるグランド・ステアケース=エスカランテ国立モニュメントも約46%縮小。この決定に対して、合法性を問う訴訟が5件起こされたが、いずれも係争中で結論は出ていない。

2018-12-13 15.03.21


1906年、米連邦議会は遺跡保存法を成立させ、この法律により、連邦所有地内の「史跡や歴史的価値、科学的価値のある遺物」を保護する裁量権が大統領にみとめられ、大統領は、「国立モニュメント」を制定できるようになりました。ベアーズ・イアーズ国立モニュメントもそのひとつであり、オバマ前大統領が制定しました。

しかしトランプ大統領は、オバマ前大統領がすすめた公有地政策をくつがえす政策を展開、その一環として、国立モニュメントを縮小し、保護されていた土地や海域を鉱山会社や資源採掘企業に開放しようとしています。トランプ政権の内務省は、ベアーズ・イアーズの境界をかきかえるにあたってエネルギー関連企業と事前に協議していました。

鉱山会社や資源採掘企業、これらに雇用されたい住民、牧場主などはトランプ大統領を支持しています。しかし一方で、先住民、環境保護活動家、登山愛好家、自転車ツーリスト、観光ビジネスにかかわる人々などは反対しており、両者の対立がふかまっています。

そもそも国立モニュメントが制定された背景には、1890年代からはじまった遺跡あらしや盗掘がありました。先住民がのこしてきた岩絵や土器などの遺物や、住居跡などの貴重な遺跡は保護し、後世につたえていかなければなりません。




国立モニュメントに指定された地域では鉱山開発にかわって観光産業が台頭します。観光産業のひとつの問題点は、観光客がとだえる季節(冬など)には仕事がないということがあり、観光産業にたずさわる人々には年間を通じて安定した収入がえられません。季節によって観光客の数がおおきく変動してしまうことは世界各地でよくあることであり、観光立国を標榜する国では大問題になります。

しかし官民一体になってこの問題はのりこえていかなければなりません。たとえば先住民の文化をもっと研究し紹介する施設をつくったり、自然だけでなく文化的側面をもっと活用したりできないでしょうか。また保護地区にくる観光客や登山愛好家などは環境保全に対してたかい意識をもっている人がおおいですから募金活動をもっとおこなうべきであり、観光客や自然愛好家も現状をしって金銭的な支援をもっとすべきです。

米国では、歴史的にみれば、自然・環境保護の対象となる土地は着々とひろがってきています。米国を代表する国立公園であるグランドキャニオンも当初は反対する人々がいたといいますが、今では、それを廃止することは誰にもできません。トランプ大統領がいかにいばっても歴史のながれはくつがえせません。時代の潮流には誰もさからえません。なぜならその力の方が人間の力よりも強大だからです。 


▼ 参考文献
『ナショナル ジオグラフィック日本版』(2018年12月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2018年