ホモ・サピエンスは宇宙にまで進出し、ゲノム編集の技術も手にいれました。しかし一方で人口がふえすぎました。システムの超巨大化は崩壊の前兆です。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年1月号では「創刊450号記念大特集」として「サピエンス - 人類・文明・科学はどのように誕生し、そして発展してきたのか -」について解説しています。その PART 3 は「科学の躍進」です。
蒸気機関の発明・開発はいわゆる産業革命をひきおこすことになりました。蒸気機関の発明は史上類をみない大きな技術革新であったのであり、これによって、それまでとはことなる大規模な産業がうまれました。工業の時代のはじまりです。
また1800年には、アレッサンドロ=ボルタ(1745〜1827)が電池を発明します。その後1821年には、電動機(モーター)の原型が、1832年には発電機が開発され、19世紀後半には、電信・電話などの通信技術の開発につながっていきました。さらに1888年には電磁波が発見され、無線通信が開発されます。
19世紀後半からは、原子や電子といった非常にちいさな粒子について、従来の物理学では説明できない現象が確認され、20世紀前半には、ミクロな世界の物理現象をあつかう量子力学がうまれます。
1946年には、世界初の汎用型電子コンピューター「ENIAC」が開発され、1947年には、アメリカのベル研究所が、トランジスタとよばれる、電流を制御するちいさな電子素子を開発、コンピューターの小型化がその後すすみ、今日にいたっています。
一方、1957年、人工衛星「スプートニク1号」のうちあげにソ連が成功します。1961年には、ソ連の宇宙飛行士 ユーリイ=ガガーリンが初の有人宇宙飛行を成功させ、1969には、NASA のアポロ11号による月面着陸が成功しました。
2003年、ヒトゲノムの解読が完了、DNA を「情報」としてあつかい、その機能をしらべていくあたらしい生物学がうまれました。
近年は、DNA をかきかえる「ゲノム編集」という技術が注目されています。これにより、役割のわからなかった遺伝子の機能をしらべたり、農作物や家畜をおもいどおりに品種改良したりする時代が到来しつつあります。さらにヒトの受精卵に対してのゲノム編集も可能になり、中国では実際におこなわれたという報道があります。ゲノム編集をすると、遺伝をとおして子孫にまでおおきな影響がおよぼされます。
ホモ・サピエンスは、ホモ・サピエンス自体をみずから改変する技術を手にいれました。たとえばゲノム編集によって、病気につよい人間をつくりだしたり、筋力のつよい人間をつくりだしたりすることもできます。しかしこのようなゲノム編集によってうまれてきた人間は人間なのでしょうか? それとも人工人間なのでしょうか? 新人類なのでしょうか? いずれにしてもホモ・サピエンスの進化の未来はホモ・サピエンス自身にゆだねられる時代にはいりました。
以上のように “産業革命” 以後、近代文明(機械文明)がいちじるしく発達し、ホモ・サピエンスは宇宙にまで進出するようになりました。また21世紀にはいってからは “ゲノム革命” もおこりました。宇宙への進出もゲノム革命も、生物の進化史おいてかつてない大規模な変革であり、ホモ・サピエンスは、従来の生物や人類のくくりにはおさまらない存在にもはやなりました。
一方で、産業革命以後、世界の人口は急激に加速してふえています。西暦1年の世界人口は約1億人だったと推定されており、それからの1800年間ではゆるやかに10億人までふえました。しかしその後、10億人から20億人にふえるまでには123年、そこから30億人にふえるまでは33年であり、増加の速度は一気に加速し、2011年には70億人に達しました。
つまり産業革命以後、工業の発展とともに人口も激増しました。そこでこれは、ホモ・サピエンスの(社会の)空前の大繁栄といいたいところですが、実際にはそうではなく、おおきな矛盾葛藤を内部に多数はらんだ巨大システムになっています。
システムは、おおきくなればなるほどコントロールがむずかしくなります。おおきくなりすぎるとコントロールがきかなくなります。ひとつの方向に一度うごきだすともう止められません。方向転換もできません。
またシステムは、内部に矛盾が発生するとそれを修正するはたらきを本来はもちますが、修正ができなくなるとそのシステムは崩壊して、あたらしいシステムがうまれます。古生代・中生代・新生代というように、生物進化(の歴史)には区切りがあり、時代がうまれるのはそのためです。人間の歴史においても ○○ 時代というように区切りが生じています。
ホモ・サピエンス社会の巨大化はシステム崩壊の前兆かもしれません。生命の進化と文明の発達を総合的にながめていると、むこうの方から崩壊の「足音」がかすかにきこえてきます。
しかしそれは、地球生命全体が絶滅するということではなくて、ホモ・サピエンスの時代がおわって、つぎの生物がでてくるということです。悲観でも楽観でもありません。生命は進化しているということは進化論がおしえているとおりであり、ホモ・サピエンスといえども進化の法則からはのがれられないというだけのことです。
▼ 関連記事
目・脳・手のコンビネーション -「サピエンス(1)」(Newton 2019.1号)-
文明のはじまり -「サピエンス(2)」(Newton 2019.1号)-
巨大化は崩壊の前兆? -「サピエンス(3)」(Newton 2019.1号)-
認知革命、農業革命、科学革命 - ハラリ『サピエンス全史』-
情報処理能力を高め、空白領域にチャレンジする - 特別展「生命大躍進」(まとめ&リンク)-
人間の進化の方向を決めなければならない -『ナショナルジオグラフィック 2017.4号』-
分子レベルで生命を理解する -『ゲノム進化論』(Newton 別冊)-
再生医学の倫理問題 -「実用化へと進む多彩な幹細胞」(Newton 2017年10月号)-
遺伝子をかきかえる -「“デザイナーベビー”は産まれるのか」(Newton 2018.2号)-
あなたは食べる? -「ゲノム編集食品が食卓に上る日」(Newton 2018.3号)-
遺伝子を書きかえる -「難病の根治へ! ゲノム編集治療」(Newton 2018.4号)-
プログラムと環境要因の相互作用 - 特別展「人体 - 神秘への挑戦 -」(国立科学博物館)-
▼ 参考文献
『Newton』(2019年1月号)ニュートンプレス、2018年
トーマス・ニューコメン(1664〜1729)は、1712年、鉱山の水を引き上げるために、蒸気を原動力とした「蒸気機関」を開発しました。(中略)
産業革命を大きくおし進めることになったのは、1769年、ジェームズ・ワット(1736〜1819)が蒸気機関の効率を改善してからのことになります。
さらに1804年になると、リチャード・トレヴィシックス(1771〜1833)が、世界ではじめて「蒸気機関車」を走らせます。
蒸気機関の発明・開発はいわゆる産業革命をひきおこすことになりました。蒸気機関の発明は史上類をみない大きな技術革新であったのであり、これによって、それまでとはことなる大規模な産業がうまれました。工業の時代のはじまりです。
また1800年には、アレッサンドロ=ボルタ(1745〜1827)が電池を発明します。その後1821年には、電動機(モーター)の原型が、1832年には発電機が開発され、19世紀後半には、電信・電話などの通信技術の開発につながっていきました。さらに1888年には電磁波が発見され、無線通信が開発されます。
19世紀後半からは、原子や電子といった非常にちいさな粒子について、従来の物理学では説明できない現象が確認され、20世紀前半には、ミクロな世界の物理現象をあつかう量子力学がうまれます。
1946年には、世界初の汎用型電子コンピューター「ENIAC」が開発され、1947年には、アメリカのベル研究所が、トランジスタとよばれる、電流を制御するちいさな電子素子を開発、コンピューターの小型化がその後すすみ、今日にいたっています。
一方、1957年、人工衛星「スプートニク1号」のうちあげにソ連が成功します。1961年には、ソ連の宇宙飛行士 ユーリイ=ガガーリンが初の有人宇宙飛行を成功させ、1969には、NASA のアポロ11号による月面着陸が成功しました。
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ゲノム編集では、特別な物質を使うことで、DNA 上の狙った位置にある塩基の種類を変えたり、遺伝子を切断したりして、遺伝情報を思いどおりに書き換えることができます。
2003年、ヒトゲノムの解読が完了、DNA を「情報」としてあつかい、その機能をしらべていくあたらしい生物学がうまれました。
近年は、DNA をかきかえる「ゲノム編集」という技術が注目されています。これにより、役割のわからなかった遺伝子の機能をしらべたり、農作物や家畜をおもいどおりに品種改良したりする時代が到来しつつあります。さらにヒトの受精卵に対してのゲノム編集も可能になり、中国では実際におこなわれたという報道があります。ゲノム編集をすると、遺伝をとおして子孫にまでおおきな影響がおよぼされます。
ホモ・サピエンスは、ホモ・サピエンス自体をみずから改変する技術を手にいれました。たとえばゲノム編集によって、病気につよい人間をつくりだしたり、筋力のつよい人間をつくりだしたりすることもできます。しかしこのようなゲノム編集によってうまれてきた人間は人間なのでしょうか? それとも人工人間なのでしょうか? 新人類なのでしょうか? いずれにしてもホモ・サピエンスの進化の未来はホモ・サピエンス自身にゆだねられる時代にはいりました。
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以上のように “産業革命” 以後、近代文明(機械文明)がいちじるしく発達し、ホモ・サピエンスは宇宙にまで進出するようになりました。また21世紀にはいってからは “ゲノム革命” もおこりました。宇宙への進出もゲノム革命も、生物の進化史おいてかつてない大規模な変革であり、ホモ・サピエンスは、従来の生物や人類のくくりにはおさまらない存在にもはやなりました。
一方で、産業革命以後、世界の人口は急激に加速してふえています。西暦1年の世界人口は約1億人だったと推定されており、それからの1800年間ではゆるやかに10億人までふえました。しかしその後、10億人から20億人にふえるまでには123年、そこから30億人にふえるまでは33年であり、増加の速度は一気に加速し、2011年には70億人に達しました。
つまり産業革命以後、工業の発展とともに人口も激増しました。そこでこれは、ホモ・サピエンスの(社会の)空前の大繁栄といいたいところですが、実際にはそうではなく、おおきな矛盾葛藤を内部に多数はらんだ巨大システムになっています。
システムは、おおきくなればなるほどコントロールがむずかしくなります。おおきくなりすぎるとコントロールがきかなくなります。ひとつの方向に一度うごきだすともう止められません。方向転換もできません。
またシステムは、内部に矛盾が発生するとそれを修正するはたらきを本来はもちますが、修正ができなくなるとそのシステムは崩壊して、あたらしいシステムがうまれます。古生代・中生代・新生代というように、生物進化(の歴史)には区切りがあり、時代がうまれるのはそのためです。人間の歴史においても ○○ 時代というように区切りが生じています。
ホモ・サピエンス社会の巨大化はシステム崩壊の前兆かもしれません。生命の進化と文明の発達を総合的にながめていると、むこうの方から崩壊の「足音」がかすかにきこえてきます。
しかしそれは、地球生命全体が絶滅するということではなくて、ホモ・サピエンスの時代がおわって、つぎの生物がでてくるということです。悲観でも楽観でもありません。生命は進化しているということは進化論がおしえているとおりであり、ホモ・サピエンスといえども進化の法則からはのがれられないというだけのことです。
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文明のはじまり -「サピエンス(2)」(Newton 2019.1号)-
巨大化は崩壊の前兆? -「サピエンス(3)」(Newton 2019.1号)-
認知革命、農業革命、科学革命 - ハラリ『サピエンス全史』-
情報処理能力を高め、空白領域にチャレンジする - 特別展「生命大躍進」(まとめ&リンク)-
人間の進化の方向を決めなければならない -『ナショナルジオグラフィック 2017.4号』-
分子レベルで生命を理解する -『ゲノム進化論』(Newton 別冊)-
再生医学の倫理問題 -「実用化へと進む多彩な幹細胞」(Newton 2017年10月号)-
遺伝子をかきかえる -「“デザイナーベビー”は産まれるのか」(Newton 2018.2号)-
あなたは食べる? -「ゲノム編集食品が食卓に上る日」(Newton 2018.3号)-
遺伝子を書きかえる -「難病の根治へ! ゲノム編集治療」(Newton 2018.4号)-
プログラムと環境要因の相互作用 - 特別展「人体 - 神秘への挑戦 -」(国立科学博物館)-
▼ 参考文献
『Newton』(2019年1月号)ニュートンプレス、2018年