直立二足歩行をはじめたのが人類のはじまりです。目と手の進化にも注目します。情報処理を高度化するように人類は進化しています。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年1月号では「創刊450号記念大特集」として「サピエンス - 人類・文明・科学はどのように誕生し、そして発展してきたのか -」について解説しています。その PART 1 は「人類の誕生」です。



2002年に、アフリカのチャドで、約700万年前〜600万年前の猿人とみられる化石が発見されました。これまでにみつかっている最古の人類、「サヘラントロプス・チャデンシス」です。(中略)頭骨の底部に開いた穴(大後頭孔)の位置から、背骨のほぼ真上に頭骨があったことが推定でき、すでにこの最古の人類が直立二足歩行をしていたことを物語っていました。これが正しければ、人類はほぼ最初期から直立二足歩行をしていたことになります。(中略)

こうして人類は、ホモ・サピエンスへとつづく、長い進化の道のりを歩みはじめたのです。


約700万年前、チンパンジーとヒトの共通祖先は、チンパンジーの系統とヒトの系統にわかれたとかんがえられます。ここでは、このヒトの系統をひろく「人類」とよび、この人類は、大局的にみて、「猿人」「原人」「旧人」「新人」という4つの段階をへて進化、最後の新人がわたしたち「ホモ・サピエンス」(Homo sapiens)です。ホモ・サピエンスとは学名であり、生物学では学名を、「属名」と「種小名」で列記する「二名法」をつかっており(もともとはリンネが提唱)、ホモは属名、サピエンスは種小名です。


猿人・原人・旧人・新人の変遷と共存
  • 260万〜180万年前:アフリカで原人が出現し、猿人と共存
  • 170万〜120万年前:猿人はアフリカに分布しつづけ、原人はアフリカだけでなくユーラシア大陸にも進出
  • 80万〜50万年前:アフリカで出現した旧人がユーラシア大陸に進出しはじめ、アジアには原人が分布
  • 6万年前:ヨーロッパとアジアに旧人(ネアンデルタール人)が分布し、約20万年前に出現した新人(ホモ・サピエンス)がアフリカに広く分布。アジアの原人も残存
  • 現在:新人(ホモ・サピエンス)がアフリカ以外にも広く拡散し、旧人と原人はすべて絶滅

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人類の進化にともなって脳の容積が増大しました。最初の原人 ホモ・ハビリスは約700立方センチメートルの脳をもち、石をわって石器をつくりはじめ、約150万年前の原人であるホモ・エレクトスになると1000立方センチメートルにまで脳はおおきくなり、より手のこんだ石器をつくるようになりました。

2003年、アフリカ・エチオピアで、ホモ・サピエンスのほぼ完全な頭骨化石が発見されました。約16万年前のものでした。2005年には、別のホモ・サピエンスの化石がおなじくエチオピアで発見され、19万5000年前のものである可能性が報告されました。このようなデータから、ホモ・サピエンスの「アフリカ単一起源説」が提唱されています。なお16万年前のホモ・サピエンスの脳の容量や骨格は現代のホモ・サピエンスと基本的にかわりません。

また南アフリカのブロンボス洞窟では、約7万年前の人類が石にきざんだ幾何学模様がみつかっています。意図的な表現であり、芸術の芽生えとこれを位置づける研究者がいます。

そして現代人の DNA 分析にもとづく研究から、約6万年前に、ホモ・サピエンスの集団がアフリカを出発し、その子孫たちが世界中に拡散していったとかんがえられます。オーストラリア大陸に約5万年前には到達、約1万4000年前には南アメリカの南端に到達しました。ただしこのような壮大な旅は、「最終氷期」とよばれる時代におこり、海面は、現在よりも最大で120メートルほどひくいところにありました。あるいていける範囲は今よりもひろかったわけです。




以上が人類進化の概略です。

人類の進化、とくにホモ・サピエンスの進化では脳の肥大化がいつも強調されます。これにくわえて目と手の発達も強調したいとわたしはおもいます。

人類をふくむ霊長類は、顔の前面に2つの目が配置されるように進化しました。これにより、左右の目それぞれの視野は大部分がかさなり、両目の視差に関する情報を脳が処理することによって環境(外界)を3次元として認知できるようになりました。つまり霊長類は立体視が非常に得意なのです。これによって環境における方位や距離や面積などをほかの動物たちよりも正確に把握できるようになりました。

一方で、人類は二足歩行をはじめました。二足歩行が人類のはじまりです。これによって世界中に移動できたことはいうまでもありませんが、もうひとつ重要なことは手が解放されたことです。手が自由につかえるようになりました。これによって道具をつくったり、図や絵をかいたりできるようになりました。

こうして目・脳・手がいちじるしく発達し、環境を認識したり、物をつくったり、絵をかいたりすることができるようになりました。

目で見るということは環境から内面に情報をとりこむことであり、インプットといってもよいでしょう。またつくったり、かいたりすることはアウトプットといってもよいです。すると目はインプット器官、手はアウトプット器官であるととらえなおすことができます。脳は、プロセシングがおこっていることのひとつの物質的証拠であるといえます。

こうして人類は、「インプット→プロセシング→アウトプット」という情報処理をする存在として進化してきました。

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図1 目・脳・手のコンビネーション


人類進化というと脳が強調されるきらいがありますが目と手も重要です。目・脳・手のコンビネーションが必要であり、三拍子そろってこそ能力が発揮できます。脳だけで情報処理ができるわけでもなく、創造ができるわけでもありません。目の訓練(大観、観察、立体視などの訓練)も手の訓練(文を書く訓練など)も重要であることは進化論からもわかります。


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▼ 参考文献
『Newton』(2019年1月号)ニュートンプレス、2018年