適切な解像度は、見る人の視力と見る人と画像までの距離とによってきまります。視覚系の情報処理のしくみを理解することが大事です。
『ナショナルジオグラフィック』 2018年11月号の EXPLORE では「目は画素をどのように認識する?」と題して見るしくみについて解説しています。
外界(環境)から目にとどいた光は水晶体をとおって網膜のくぼみ、中心窩(ちゅうしんか)にあつめられ、視細胞である錐体細胞と桿体細胞(かんたいさいぼう)を刺激します。すると信号が、神経を通じての脳へおくられ、脳は、信号を処理してひとつの画像として認識します。これが見るしくみです。目に光がはいってくるのはインプット、脳が、信号を処理して画像をつくるのはプロセシングといってもよいでしょう。目はセンサー、脳はプロセッサーです。
今回 問題にしているのは解像度と画像のなめらかさの関係です。
たとえばスマートフォンの場合は、目とスマートフォンの距離はおよそ30センチメートル であり、この距離で画像がなめらかにみえるように1インチあたりの画素数を非常にたかくしてあります。つまり高解像度になっています。テレビの場合は、目とテレビの距離は1〜3メートルぐらいであるので、ハイビジョンテレビでは約1メートルの距離からなめらかにみえるように解像度を調整してあります。街中で見かける電子看板は、4〜5メートル以上はなれて見るのであり、それよりもちかづいてじっくり見る人は普通はいないので、約4メートル以上はなれて見たときになめらかにみえるようになっていることがおおいです。
このように最適な解像度は、見る人の視力だけでなく、見る人と画面までの距離できまります。
2つの画素を非常にちかくで見れば、目の網膜は、2つの信号を脳におくり、脳は、それらをことなるものとして解釈します。しかしとおくから見れば、網膜は、2つの画素で1つの信号を脳におくり、脳は、1つの情報として解釈します。
この視覚系の仕組みをうまくつかったのが印象派の絵画です。キャンバスのうえで絵の具をまぜるのではなく、人間の視覚系をつかって色彩をつくりだします。絵画は、視覚系の情報処理によって鑑賞者の内面世界に生じます。ちかくで見ると「なんだこれ?」となりますが、はなれて見ると実にうつくしい。臨場感が生じます。
写実絵画でも似たような体験ができます。はなれて見るとまるで写真のよう、その人がそこに本当にいるようです。しかしちかくで見ると絵です。
このようなことはデジタルカメラで撮影した写真を他者に見せるときにも参考になります。スマートフォンで見せるのか、タブレットで見せるのか、パソコンで見せるのか、あるいはプリントアウトするのかによって画素数をかえることになります。メモリーをちいさくするために画素数をただ単にへらせばよいというのではなく、どのような媒体でどのように見せるのかを事前にイメージすることが大事でしょう。これは、人間主体の情報処理(とくにアウトプット)の問題です。
近年、デジタル画像の進歩がいちじるしく4K、8Kが登場してきました。しかしなんでもかんでも高解像にすればよいということではなく、人間の視覚系の情報処理のしくみをまずは理解しなければなりません。技術革新だけにおぼれているとそのことがわかりません。
ちかくで見る、はなれて見る。おなじ対象であっても見え方はことなります。
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▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック日本版』日経ナショナルジオグラフィック社、2018年
画素とは、デジタル画像を構成する微小な四角形で、その一つひとつが光を放つ。スマートフォンの画面は近くで見るので、画像がなめらかに見えるように画素が高密度に集まっている。一方、電子看板はそれより画素が少ないが、遠くから見るので目はここの画素が見分けられず、画像はなめらかに見える。
外界(環境)から目にとどいた光は水晶体をとおって網膜のくぼみ、中心窩(ちゅうしんか)にあつめられ、視細胞である錐体細胞と桿体細胞(かんたいさいぼう)を刺激します。すると信号が、神経を通じての脳へおくられ、脳は、信号を処理してひとつの画像として認識します。これが見るしくみです。目に光がはいってくるのはインプット、脳が、信号を処理して画像をつくるのはプロセシングといってもよいでしょう。目はセンサー、脳はプロセッサーです。
今回 問題にしているのは解像度と画像のなめらかさの関係です。
たとえばスマートフォンの場合は、目とスマートフォンの距離はおよそ30センチメートル であり、この距離で画像がなめらかにみえるように1インチあたりの画素数を非常にたかくしてあります。つまり高解像度になっています。テレビの場合は、目とテレビの距離は1〜3メートルぐらいであるので、ハイビジョンテレビでは約1メートルの距離からなめらかにみえるように解像度を調整してあります。街中で見かける電子看板は、4〜5メートル以上はなれて見るのであり、それよりもちかづいてじっくり見る人は普通はいないので、約4メートル以上はなれて見たときになめらかにみえるようになっていることがおおいです。
このように最適な解像度は、見る人の視力だけでなく、見る人と画面までの距離できまります。
2つの画素を非常にちかくで見れば、目の網膜は、2つの信号を脳におくり、脳は、それらをことなるものとして解釈します。しかしとおくから見れば、網膜は、2つの画素で1つの信号を脳におくり、脳は、1つの情報として解釈します。
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この視覚系の仕組みをうまくつかったのが印象派の絵画です。キャンバスのうえで絵の具をまぜるのではなく、人間の視覚系をつかって色彩をつくりだします。絵画は、視覚系の情報処理によって鑑賞者の内面世界に生じます。ちかくで見ると「なんだこれ?」となりますが、はなれて見ると実にうつくしい。臨場感が生じます。
写実絵画でも似たような体験ができます。はなれて見るとまるで写真のよう、その人がそこに本当にいるようです。しかしちかくで見ると絵です。
このようなことはデジタルカメラで撮影した写真を他者に見せるときにも参考になります。スマートフォンで見せるのか、タブレットで見せるのか、パソコンで見せるのか、あるいはプリントアウトするのかによって画素数をかえることになります。メモリーをちいさくするために画素数をただ単にへらせばよいというのではなく、どのような媒体でどのように見せるのかを事前にイメージすることが大事でしょう。これは、人間主体の情報処理(とくにアウトプット)の問題です。
近年、デジタル画像の進歩がいちじるしく4K、8Kが登場してきました。しかしなんでもかんでも高解像にすればよいということではなく、人間の視覚系の情報処理のしくみをまずは理解しなければなりません。技術革新だけにおぼれているとそのことがわかりません。
ちかくで見る、はなれて見る。おなじ対象であっても見え方はことなります。
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▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック日本版』日経ナショナルジオグラフィック社、2018年