森林破壊と密猟によりオナガサイチョウに危機がせまっています。保護プログラムに参加することにより住民に報酬が支払われるシステムが必要です。
『ナショナルジオグラフィック』2018年11月号のシリーズ「鳥たちの地球」では東南アジアの珍鳥、オナガサイチョウをとりあげています。生息地の森の伐採がすすむだけでなく、奇妙な形のくちばしが密猟者にねらわれます。この鳥の窮地をすくる手立てはあるのでしょうか?



オナガサイチョウは、アフリカやアジアに57種が生息するサイチョウの一種で、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、タイ南部の低地の深林でしか見られない。その特徴であるくちばしの上の硬い突起、カスクは、爪や髪の毛、サイの角と同じケラチンでできている。この鳥の生態は多くが謎だが、カスクはほかのオナガサイチョウと空中で戦う際に使われることがわかっている。おそらくは巣の場所や果実のなる木をめぐる争いとみられる。(中略)

森林伐採の 拡大により、アジアに生息するサイチョウは生息地が減少し、思うように巣作りができなくなっている。(中略)

象牙よりも加工がしやすいオナガサイチョウのカスクは、「赤い象牙」とも呼ばれ、装身具や彫刻作品の素材としてアジアでの需要が高い。中国の富裕層の間では、財力や権力、富の象徴として珍重されることもあるという。

2018-11-20 19.48.43


東南アジアでは近年、アブラヤシ栽培のために森林伐採が急速にすすんでいます。それにくわえて密猟が問題になっています。

インドネシア当局が、オナガサイチョウの大規模な密輸の実態をしったのは2012年のことでした。ボルネオ島の西カリマンタン州にある空港で、96個のカスクを国外へ密輸しようとしていた2人の中国人女性が逮捕されました。その後も摘発があいつぎ、数百個ものカスクが欧州された例が複数あります。野生生物取引の監視団体「トラフィック」と協力して欧州事例を調査している英国の NPO「環境調査エージェンシー」によれば、こうした摘発は氷山の一角にすぎないといいます。インドネシア政府当局がこれまでにさしおさえたカスクは1300個以上、その多くは、犯罪組織とつながりのある密輸業者がかくしもっていたものです。

オナガサイチョウの彫刻細工の需要が中国でたかまっています。カスクを芸術的に加工した製品は中国の新興富裕層のあいだで人気を博しています。

2013年には、西カリマンタン州だけでおよそ6000羽ものオナガサイチョウが殺害された可能性が指摘されています。実際には、現金収入をえるたために地元の住民のなかに密猟に協力してしまう者がいます。

こうしたなかで、寄生虫学者だったピライは、1978年、オナガサイチョウをさがす英国国営放送の撮影隊のガイドをつとめたことをきっかけにしてこの鳥のとりこになり、「オナガサイチョウ研究基金」を設立しました。ピライは、密猟ではなく、保護をすれば報酬が支払われるシステムをつくりました。2018年には、6つの村の住民のうちの36人がこの保護プログラムに参加するようになりました。

動物保護や環境保全では、まず、先進国の人々が意識をかえることがとても重要です。そして保護プログラムを発展させるためには先進国の人々の資金的協力が必要です。


▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック日本版』日経ナショナルジオグラフィック社、2018年