ダークマター(暗黒物質)の研究がすすんでいます。原始ブラックホールがふたたび注目されています。常識はくつがえされるものです。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年12月号の Newton Special では原始ブラックホールとダークマターについて解説しています。




私たちは、「あらゆる物質は、原子でできている」という常識を当たり前のこととして受け入れています。しかし現代の天文学によれば、この宇宙は、原子でできた普通の物質の5倍もの量の “見えない何か” で満ちていると考えられているのです。その見えない何かは「ダークマター(暗黒物質)」とよばれています。ダークマターは、目には見えませんが、周囲に重力をおよぼすことができます。宇宙に無数に散らばる銀河や星たちも、ダークマターの重力の影響があってはじめて誕生したことがわかってきたのです。

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このダークマターの候補のひとつとして「原始ブラックホール」が以前 注目されました。原始ブラックホールとは、星すらも存在しなかった、宇宙の最初期にうまれたとかんがえられる無数のブラックホールです。近年、この原始ブラックホールがふたたび注目をあつめています。

観測によってみつけにくいサイズの原始ブラックホールが宇宙にたくさん存在していて、これがダークマターの正体かもしれないという仮説が提案されています。わたしたちの天の川銀河にもたくさんの原始ブラックホールがひそんでいるかもしれません。

ブラックホールは、宇宙最速である光(秒速約30万キロメートル)でさえも脱出できないほどのつよい重力をもった天体であり、通常は、おもい恒星からうまれるとかんがえられます。太陽の25倍以上の質量をもつ恒星が、その一生の最期に「超新星爆発」をおこし、超高密度となった恒星の中心核が自身の重力でつぶれてブラックホールになります。

しかしイギリスの宇宙物理学者ホーキングは1971年、原始ブラックホールは、そうした普通のブラックホールとはことなり、「宇宙誕生直後の密度の “ゆらぎ” のなかからうまれた」という仮説を発表しました。

誕生直後の宇宙は、超高温・超高密度の灼熱の火の玉状態であったとかんがえられます(ビッグバン)。この時期、宇宙をみたしていた素粒子はその密度がほとんど一様だったとかんがえられますが、そこには “ゆらぎ” がありました。このゆらぎによって、ところどころに密度がきわめてたかい部分が生じ、その部分が、みずからの重力によって極限までつぶれてブラックホールがうまれた可能性があります。

こうして宇宙誕生から数秒以内に、大小さまざまな原始ブラックホールがうまれたのではないかとされます。




原始ブラックホールからダークマターの正体をさぐる研究がまさにいますすんでいます。

「あらゆる物質は原子でできている」ということは学校でもおしえていて、常識として身につけている人がおおいかもしれませんが、常識はくつがえされようとしています。常識だけではやっていけません。常識がくつがえされるところに進歩があります。


▼ 参考文献
『Newton』(2018年12月号)ニュートンプレス、2018年