植物の世界は不思議で多様です。おどろくべき植物がいます。うつくしい写真をみながら植物について理解がふかめられます。
『驚異の植物 花の不思議』(Newton 別冊)はしられざる植物の世界についてわかりやすく紹介しています。
1 驚異の植物たち
オオオニバス
南アメリカに分布するスイレン科の植物です。直径2メートルをこす巨大な葉を1週間でひろげます。45キログラムほどの人がのっても平気です。
クリスマスツリー
オーストラリア西部の乾燥地にはえる、高さ10メートルほどになるヤドリギ科の樹木です。ほかの植物の根をみつけるとそれをつつむような「寄生根」を発達させ、ほかの植物の根を切断し、水と水にとけた養分をうばってしまいます。
ジャイアントセコイア
アメリカ・カリフォルニア州にはえる針葉樹です。「ジェネラルシャーマン(シャーマン将軍)」と名づけられたジャイアントセコイアは、高さは83.8メートル、最大直径は11.1メートルもあります。
サワロサボテン
高さ12メートル、直径40センチメートル、おもさ2トンにもなる世界最大級のサボテンです。アメリカ南西部からメキシコにかけてひろがるソノラ砂漠に分布します。年間の降水量が100〜400ミリ程度しかなく、年間の300日以上が快晴である砂漠にはえながら、1トンもの水をたくわえています。
ハエトリグサ
モウセンゴケ科の食虫植物です。葉にやってきたハエなどの虫をとらえ、消化して養分を吸収します。感覚毛に虫が2度接触すると0.1秒で葉がとじる「罠」をもっています。
キャベツ
アブラナ科の植物であり、しられていませんが、虫に対するたくみな防御システムをもっています。自身をたべている虫の種類に応じて、その虫の天敵をまねくにおいをはなちます。コナガの幼虫にたべられた場合は、コナガの天敵であるコナガコマユバチを誘引し、モンシロチョウの幼虫(アオムシ)にたべられた場合は、アオムシの天敵であるアオムシコマユバチを誘引します。
ショクダイオオコンニャク
インドネシアのスマトラ島にはえるサトイモ科の植物であり、大人の身長をはるかにこえる高さ最大3メートルにもなる巨大な花をさかせます。この花は夜間にさき、強烈な腐臭をはなち、ハエやシデムシなどの虫を広範囲から誘因します。
種子をつくる植物は、雄しべでつくられた花粉が雌しべにとどくことで受精して種子をつくります。花粉自体には移動能力がないので、昆虫などが「送粉者」になって花粉をはこびます。そのためににおいで昆虫を誘因するのです。昆虫と花は、利用しあう関係のなかでたがいに進化し、多様化してきました。
アルソミトラ・マクロカルパ
インドネシアやニューギニアなどに分布するウリ科のツル植物です。種子は、翼幅12〜14センチメートルほどのフィルム状の翼をもち、滑空します。無風状態では、1秒間に30センチメートルというゆっくりとした落下速度で、さがった高度の約4倍も水平方向に滑空します。上昇気流にのれば、その飛距離はゆうに1キロメートルをこえます。風を利用して種子を散布する仕組みを発達させ、次世代をのこす工夫をしています。
2 不思議な植物たち
巨大植物
ラフレシア
花の直径は60〜100センチメートルにもなります。マレーシア・インドネシア・ボルネオ島・フィリピン・タイの熱帯雨林に分布しています。肉のくさったようなにおいでハエを誘引します。ブドウ科ミツバビンボウカズラ属の幹に寄生し、そこから栄養を横取りして大きな花をさかせます。
ショクダイオオコンニャク
数年をかけて球茎をおおきくし、高さ3メートルにもなる花をさかせます。
プヤ・ライモンディ
芽生えから約100年後に「花の柱」が突然のびて高さ10メートルにもなります。
パフィオペディルム・サンデリアヌム
ラン科の植物であり、5枚の花びらをもち、そのうちの2枚だけが長さ90センチメートルに達し、風と日の光をうけてきらきらとめだち、虫をさそいます。マレーシア・サラワク州北部の石灰岩の崖にしか自生しません。
オオオニバス
直径が3メートルにもなる大きな葉が水面にういています。葉の裏には、葉脈にそって格子状の構造があり、この格子の部分と水面とのあいだに空気がためられ、また葉脈の組織自体にも空気がためられており、つよい浮力がうまれています。
オニブキ
地面から葉のつけ根までの長さは2メートル以上あり、葉の直径は1.5〜2メートルにもなります。グンネラ科グンネラ属であり、ブラジル南部が自生地です。
ジャイアントケルプ
世界最大の海藻とされ、数十メートルもの長さまで垂直にのびています。コンブ科マクロキスティス属、南北アメリカの太平洋沿岸とオーストラリア大陸・アフリカ大陸の南岸に分布しています。
バオバブ
南アフリカ共和国・サンランドには、世界最大級の太さをもつ「ビッグツリー」とよばれる木がたっています。アオイ科バオバブ属、幹まわりは47.1メートルにもなります。
モダマ
50〜120センチメートルもある巨大なさやをもつマメです。屋久島・奄美大島・台湾・中国南部・ベトナムに自生します。
ナガミル
天然のものとしては世界最大の単細胞生物とかんがえられる緑藻であり、長さ1〜15メートルまで分岐をしながらおおきくなります。
食虫植物
19属600種ほどの食中植物が、極地と砂漠をのぞく世界各地でみられます。食虫植物のすべての生育場所に共通しているのは、窒素やリンといった、植物の生存に欠かせない栄養がとぼしいことです。そこで虫などをとらえてそれらの体内のタンパク質などを分解・吸収できる特殊な構造の葉をもつように進化しました。
多肉植物
茎(幹)や葉が肥大化(多肉化)し、体内に水分をたくわえることで感想をのりきる植物の総称です。世界に、およそ50科1万種の多肉植物が生息しています。これらのうち、サボテン科・メセン類・ベンケイソウ科の3グループで半分以上をしめます。
コケ植物
高い山や湖沼、熱帯から極域まで、海水中以外のあらゆる場所に生育し、1万8000種ほどが確認されています。スギゴケなどのセン類がもっともおおく、世界に約1万3000種、日本では約1100種がしられています。コケ植物は、体をささえたり水や養分をはこんだりする維管束をもっておらず、水をすう根ももちませんが、小さな「足」で地にはりつき過酷な環境下でも生存します。
3 花と花粉,たねの科学
花の色と形
どうすれば、花粉をほかの花にまでとどけることができるか? そのやり方の多様性が、花の色や形の多様性をうみだしました。陸上植物の花には、送粉に風をつかう「風媒花」と昆虫などを利用する「動物媒花」があります。
たとえば昆虫が花に到達すると蜜や花粉をあつめます。おおくの花ではそのあいだに昆虫に花粉がつくように雄しべ・雌しべなどが配置されています。その際、昆虫にみつけられやすい花の方が効率的です。わたしたちがきれいだと感じる花は動物媒花であることがおおいです。
たね
植物はたねを放出して生息範囲をひろげていきます。あたらしい土地へたねをおくり、根づかせることが種の繁栄と存続のために必要です。
4 多彩な花の世界
サクラ
日本には、10種の野生のサクラが生息しています。ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、カンヒザクラ、タカネザクラ、エドヒガン、チョウジザクラ、ミヤマザクラ。しかしソメイヨシノをはじめ、街中でみかけるサクラのほとんどは野生種ではなく人間がつくった栽培品種です。
バラ
世界で一番多様な色素をもつ花です。また花の形もじつにさまざまです。さらに匂いもすばらしい。まさに「花の女王」です。しかしうつくしいものにはトゲがあります。注意も必要です。
アジサイ
わたしたちが花びらだとおもっているものは、実は「がく」という花びらの部分です。花の色は七変化すると表現され、これはおもに、土の酸性度のちがいによるものです。
ヒマワリ
わたしたちが花びらだとおもっているものは、実はそれらの1枚1枚がひとつの花です。さらに花の中心にある円盤部分も小さな花のあつまりです。つまりヒマワリの「花」はたくさんの花があつまってできている「集合花」です。
キク
和菊から洋菊まで、色も形もさまざまな園芸植物です。数百年にわたる品種改良によって多様性がうみだされてきました。日本では、皇室の紋章や50円玉の表面につかわれています。
ラン
ラン科の植物であり、単子葉植物(被子植物のなかで発芽のときに葉が1枚でる植物)のなかではバリエーションがもっともゆたかで、野生のランだけでも1000属2万6000種が存在するとされます。熱帯を中心に幅ひろく生息し、地面にはえるものや、木や岩のうえにはえるものもあり、生育環境も多様です。花は、6枚の花びらを基本的にはもち、その形は、花粉を媒介する生物などにあわせて進化してきました。
ランの種子は、自力で発芽・生育することができないため、共生菌が種子のなかにはいり、その菌から栄養をもらわないと初期の生育はできません。さらに花がさくときには、別の菌が根に共生する場合があります。非常に複雑な共生系が存在します。
本書をみれば、植物は、受け身で静的な存在ではなく、能動的・動的であることがわかります。おどろくべき工夫をしています。だからこそ過酷な環境にも適応できるのでしょう。
したがって植物は、それ自体をみているだけでもおもしろいですが、植物をみることによって特定の環境を想像することもできます。植物は環境の指標にもなっているわけです。
また植物は、昆虫などの動物と共生して進化してきました。そして生態系をつくりだしました。生存競争と適者生存といったふるい仮説では理解できない、共生原理の進化論がここに展開されます。
本書は写真がすばらしい。いわゆる図鑑ではないので、植物園や森のなかをあるいているような気分になって植物や花をたのしむことができます。
巨大な植物、奇妙な形の植物、きびしい環境にいきる植物、想像を絶する植物たちがいます。植物のようなきわめて多様な世界を理解するためのひとつのポイントは、極端なものをまずは知るところにあるとおもいます。極端をおさえておけば、中間的な性格のものの理解も容易になります。
▼ 参考文献
『知らざる花と植物の世界 驚異の植物 花の不思議』(Newton 別冊)ニュートンプレス、2015年5月15日
1 驚異の植物たち
2 不思議な植物たち
3 花と花粉,たねの科学
4 多彩な花の世界
1 驚異の植物たち
オオオニバス
南アメリカに分布するスイレン科の植物です。直径2メートルをこす巨大な葉を1週間でひろげます。45キログラムほどの人がのっても平気です。
クリスマスツリー
オーストラリア西部の乾燥地にはえる、高さ10メートルほどになるヤドリギ科の樹木です。ほかの植物の根をみつけるとそれをつつむような「寄生根」を発達させ、ほかの植物の根を切断し、水と水にとけた養分をうばってしまいます。
ジャイアントセコイア
アメリカ・カリフォルニア州にはえる針葉樹です。「ジェネラルシャーマン(シャーマン将軍)」と名づけられたジャイアントセコイアは、高さは83.8メートル、最大直径は11.1メートルもあります。
サワロサボテン
高さ12メートル、直径40センチメートル、おもさ2トンにもなる世界最大級のサボテンです。アメリカ南西部からメキシコにかけてひろがるソノラ砂漠に分布します。年間の降水量が100〜400ミリ程度しかなく、年間の300日以上が快晴である砂漠にはえながら、1トンもの水をたくわえています。
ハエトリグサ
モウセンゴケ科の食虫植物です。葉にやってきたハエなどの虫をとらえ、消化して養分を吸収します。感覚毛に虫が2度接触すると0.1秒で葉がとじる「罠」をもっています。
キャベツ
アブラナ科の植物であり、しられていませんが、虫に対するたくみな防御システムをもっています。自身をたべている虫の種類に応じて、その虫の天敵をまねくにおいをはなちます。コナガの幼虫にたべられた場合は、コナガの天敵であるコナガコマユバチを誘引し、モンシロチョウの幼虫(アオムシ)にたべられた場合は、アオムシの天敵であるアオムシコマユバチを誘引します。
ショクダイオオコンニャク
インドネシアのスマトラ島にはえるサトイモ科の植物であり、大人の身長をはるかにこえる高さ最大3メートルにもなる巨大な花をさかせます。この花は夜間にさき、強烈な腐臭をはなち、ハエやシデムシなどの虫を広範囲から誘因します。
種子をつくる植物は、雄しべでつくられた花粉が雌しべにとどくことで受精して種子をつくります。花粉自体には移動能力がないので、昆虫などが「送粉者」になって花粉をはこびます。そのためににおいで昆虫を誘因するのです。昆虫と花は、利用しあう関係のなかでたがいに進化し、多様化してきました。
アルソミトラ・マクロカルパ
インドネシアやニューギニアなどに分布するウリ科のツル植物です。種子は、翼幅12〜14センチメートルほどのフィルム状の翼をもち、滑空します。無風状態では、1秒間に30センチメートルというゆっくりとした落下速度で、さがった高度の約4倍も水平方向に滑空します。上昇気流にのれば、その飛距離はゆうに1キロメートルをこえます。風を利用して種子を散布する仕組みを発達させ、次世代をのこす工夫をしています。
2 不思議な植物たち
巨大植物
ラフレシア
花の直径は60〜100センチメートルにもなります。マレーシア・インドネシア・ボルネオ島・フィリピン・タイの熱帯雨林に分布しています。肉のくさったようなにおいでハエを誘引します。ブドウ科ミツバビンボウカズラ属の幹に寄生し、そこから栄養を横取りして大きな花をさかせます。
ショクダイオオコンニャク
数年をかけて球茎をおおきくし、高さ3メートルにもなる花をさかせます。
プヤ・ライモンディ
芽生えから約100年後に「花の柱」が突然のびて高さ10メートルにもなります。
パフィオペディルム・サンデリアヌム
ラン科の植物であり、5枚の花びらをもち、そのうちの2枚だけが長さ90センチメートルに達し、風と日の光をうけてきらきらとめだち、虫をさそいます。マレーシア・サラワク州北部の石灰岩の崖にしか自生しません。
オオオニバス
直径が3メートルにもなる大きな葉が水面にういています。葉の裏には、葉脈にそって格子状の構造があり、この格子の部分と水面とのあいだに空気がためられ、また葉脈の組織自体にも空気がためられており、つよい浮力がうまれています。
オニブキ
地面から葉のつけ根までの長さは2メートル以上あり、葉の直径は1.5〜2メートルにもなります。グンネラ科グンネラ属であり、ブラジル南部が自生地です。
ジャイアントケルプ
世界最大の海藻とされ、数十メートルもの長さまで垂直にのびています。コンブ科マクロキスティス属、南北アメリカの太平洋沿岸とオーストラリア大陸・アフリカ大陸の南岸に分布しています。
バオバブ
南アフリカ共和国・サンランドには、世界最大級の太さをもつ「ビッグツリー」とよばれる木がたっています。アオイ科バオバブ属、幹まわりは47.1メートルにもなります。
モダマ
50〜120センチメートルもある巨大なさやをもつマメです。屋久島・奄美大島・台湾・中国南部・ベトナムに自生します。
ナガミル
天然のものとしては世界最大の単細胞生物とかんがえられる緑藻であり、長さ1〜15メートルまで分岐をしながらおおきくなります。
食虫植物
19属600種ほどの食中植物が、極地と砂漠をのぞく世界各地でみられます。食虫植物のすべての生育場所に共通しているのは、窒素やリンといった、植物の生存に欠かせない栄養がとぼしいことです。そこで虫などをとらえてそれらの体内のタンパク質などを分解・吸収できる特殊な構造の葉をもつように進化しました。
- 落とし穴式捕虫:葉っぱが変形した「つぼ」のなかで虫をとかします。
- 閉じこみ式捕虫:二枚貝のような葉っぱで虫をはさみこみます。
- 粘りつけ式捕虫:粘液をだして獲物をとらえます。
- 吸いこみ式捕虫:葉っぱがスポイトのように変形した捕虫嚢になっていて獲物をすいとる水生植物です。
多肉植物
茎(幹)や葉が肥大化(多肉化)し、体内に水分をたくわえることで感想をのりきる植物の総称です。世界に、およそ50科1万種の多肉植物が生息しています。これらのうち、サボテン科・メセン類・ベンケイソウ科の3グループで半分以上をしめます。
コケ植物
高い山や湖沼、熱帯から極域まで、海水中以外のあらゆる場所に生育し、1万8000種ほどが確認されています。スギゴケなどのセン類がもっともおおく、世界に約1万3000種、日本では約1100種がしられています。コケ植物は、体をささえたり水や養分をはこんだりする維管束をもっておらず、水をすう根ももちませんが、小さな「足」で地にはりつき過酷な環境下でも生存します。
3 花と花粉,たねの科学
花の色と形
どうすれば、花粉をほかの花にまでとどけることができるか? そのやり方の多様性が、花の色や形の多様性をうみだしました。陸上植物の花には、送粉に風をつかう「風媒花」と昆虫などを利用する「動物媒花」があります。
たとえば昆虫が花に到達すると蜜や花粉をあつめます。おおくの花ではそのあいだに昆虫に花粉がつくように雄しべ・雌しべなどが配置されています。その際、昆虫にみつけられやすい花の方が効率的です。わたしたちがきれいだと感じる花は動物媒花であることがおおいです。
たね
植物はたねを放出して生息範囲をひろげていきます。あたらしい土地へたねをおくり、根づかせることが種の繁栄と存続のために必要です。
- 風ではこぶ。
- 水ではこぶ。
- アリがはこぶ。
- 鳥が食べてはこぶ。
- 山火事を利用してはこぶ。
4 多彩な花の世界
サクラ
日本には、10種の野生のサクラが生息しています。ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、カンヒザクラ、タカネザクラ、エドヒガン、チョウジザクラ、ミヤマザクラ。しかしソメイヨシノをはじめ、街中でみかけるサクラのほとんどは野生種ではなく人間がつくった栽培品種です。
バラ
世界で一番多様な色素をもつ花です。また花の形もじつにさまざまです。さらに匂いもすばらしい。まさに「花の女王」です。しかしうつくしいものにはトゲがあります。注意も必要です。
アジサイ
わたしたちが花びらだとおもっているものは、実は「がく」という花びらの部分です。花の色は七変化すると表現され、これはおもに、土の酸性度のちがいによるものです。
ヒマワリ
わたしたちが花びらだとおもっているものは、実はそれらの1枚1枚がひとつの花です。さらに花の中心にある円盤部分も小さな花のあつまりです。つまりヒマワリの「花」はたくさんの花があつまってできている「集合花」です。
キク
和菊から洋菊まで、色も形もさまざまな園芸植物です。数百年にわたる品種改良によって多様性がうみだされてきました。日本では、皇室の紋章や50円玉の表面につかわれています。
ラン
ラン科の植物であり、単子葉植物(被子植物のなかで発芽のときに葉が1枚でる植物)のなかではバリエーションがもっともゆたかで、野生のランだけでも1000属2万6000種が存在するとされます。熱帯を中心に幅ひろく生息し、地面にはえるものや、木や岩のうえにはえるものもあり、生育環境も多様です。花は、6枚の花びらを基本的にはもち、その形は、花粉を媒介する生物などにあわせて進化してきました。
ランの種子は、自力で発芽・生育することができないため、共生菌が種子のなかにはいり、その菌から栄養をもらわないと初期の生育はできません。さらに花がさくときには、別の菌が根に共生する場合があります。非常に複雑な共生系が存在します。
*
本書をみれば、植物は、受け身で静的な存在ではなく、能動的・動的であることがわかります。おどろくべき工夫をしています。だからこそ過酷な環境にも適応できるのでしょう。
したがって植物は、それ自体をみているだけでもおもしろいですが、植物をみることによって特定の環境を想像することもできます。植物は環境の指標にもなっているわけです。
また植物は、昆虫などの動物と共生して進化してきました。そして生態系をつくりだしました。生存競争と適者生存といったふるい仮説では理解できない、共生原理の進化論がここに展開されます。
本書は写真がすばらしい。いわゆる図鑑ではないので、植物園や森のなかをあるいているような気分になって植物や花をたのしむことができます。
巨大な植物、奇妙な形の植物、きびしい環境にいきる植物、想像を絶する植物たちがいます。植物のようなきわめて多様な世界を理解するためのひとつのポイントは、極端なものをまずは知るところにあるとおもいます。極端をおさえておけば、中間的な性格のものの理解も容易になります。
▼ 参考文献
『知らざる花と植物の世界 驚異の植物 花の不思議』(Newton 別冊)ニュートンプレス、2015年5月15日