がんの第4の治療法がうみだされました。わたしたちが本来もっている免疫の力で治療します。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年12月号では、本庶佑(ほんじょ たすく)博士・ノーベル医学・生理学賞受賞・緊急特集として、「免疫の力でがんを倒す 内なる力を引きだす、がん治療の新しい道を開拓」を掲載しています。ノーベル賞受賞理由は「免疫をおさえるしくみを発見し、それを応用したがんの治療法を開発したこと」でした。




がんは、わたしたちの体を構成している細胞が、遺伝子の異常により、まわりの細胞との協調性をなくして無秩序に分裂してふえ、体をこわす病気です。実は、体のなかでは毎日、何千個もの がんの芽になる細胞がつくりだされているのですが、体内の防御システムにょってそれらが排除されており、その防御システムのひとつが免疫系です。


免疫系があの手この手でがん細胞を攻撃する
  1. 異物を “食べる” 免疫細胞である「樹状細胞」が、がん細胞やその成分を細胞内に取りこんで分解する。
  2. 樹状細胞は、「キラー T 細胞」や免疫系の司令塔である「ヘルパー T 細胞」を活性化する。
  3. 活性化したキラー T 細胞は、樹状細胞から渡されたがんの情報をもとにがん細胞を見分けて、攻撃する。
  4. 活性化されたヘルパー T 細胞は、「サイトカイン」とよばれる物質を出して、キラー T 細胞や B 細胞、マクロファージなどの免疫細胞を活性化する。
  5. 活性化された B 細胞が、がん細胞にあわせて特異的に結合する「抗体」をつくることもある。
  6. ナチュラルキラー細胞が、がん細胞を認識して直接攻撃したり、抗体がくっついたり細胞を異物だと認識することで攻撃したりする。
  7. 活性化されたマクロファージはがん細胞を攻撃する。
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免疫系は、このように敵を見つけて攻撃するのが役目ですが、過敏になりすぎると味方の細胞まで傷つけてしまうこともあるため、「アクセル」だけでなく「ブレーキ」もかねそなえています。


T 細胞の表面には、「PD-1」とよばれるブレーキも備わっている。この PD-1 を発見し、免疫系のブレーキの機能を見いだしたのが、本庶博士らの研究グループだ。


がん細胞は、このようなブレーキを利用して免疫細胞からの攻撃をのがれています。そこでこのブレーキをはずして免疫力を復活させてがん細胞をたおすというあたらしい治療法の道をひらいたのが本庶博士らでした。


2014年ついに PD-1 をねらった免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が発売された。現在は日本とアメリカ、ヨーロッパで、皮膚がんの一種の悪性黒色腫(メラノーマ)と肺がん、腎細胞がんなど約10種類のがんの治療に使われている。今後も薬を使えるがんの種類は増えるだろうと考えられている。


こうして、「外科手術」「放射線照射」「抗がん剤治療」というこれまでの3大治療法にくわえ、第4の治療法として「免疫を利用した治療」がくわわりました。ただし効果には個人差があり、効かない人もいるそうです。

  1. 外科手術
  2. 放射線照射
  3. 抗がん剤治療
  4. 免疫を利用した治療

詳細は『Newton』をよんでいただく必要がありますが、わたしたちの体の免疫系とがん細胞について理解をふかめておくことは大事なことだとおもいます。


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▼ 参考文献
『Newton』(2018年12月号)ニュートンプレス、2018年