何をどう撮るかが重要です。それによって必要な機能やレンズがきまります。アウトプットのための撮影技術をみがいていくことが大事です。(2018.11.20更新)
河野鉄平著『大人のためのデジタル一眼入門』(インプレス)はシーン別の撮影テクニックについて作例をしめしながらわかりやすく解説しています。ちょっとしたテクニックをしっているだけでずいぶんいい写真が撮れます。




お散歩スナップ
  • 具体的な主題を路地でさがす。
  • 標準ズームの広角側(あるいは広角レンズ)をつかって主題にちかよる。
  • 背景に人をいれて生活感などをくわえる。

撮影モードはプログラムモード(P)にしておけばとっさの場面でもシャッターチャンスをのがしません。Pモードを基本にして、必要に応じて絞り優先モード(Av, A)などにきりかえ、背景をぼかしたりすればよいでしょう。あるいはシャッター優先モード(Tv, S)で低速設定にして、人や車をなど、うごく被写体のみをぶらして動感を描写するのも効果的です。



建物
  • 立体的にみえるアングルをさがす。
  • ほかの要素もくわえて視野をひろげる。
  • 標準ズームレンズの広角側(あるいは広角レンズ)で遠近感を強調する。

建物は、ななめ横から撮る方が立体感を演出できます。利用する光のむきや建物の背景も意識しながらアングルをさがします。標準ズームレンズの広角側(あるいは広角レンズ)をつかって、ぐっとちかづいてローアングルで撮影すれば、遠近感を強調しつつ建物をよりおおきく、たかくみせられます。 

建物の四隅を基準にして樹木などの自然物を配置すると、画面に奥行きがうまれます。被写体をかくす邪魔な存在に一見みえる樹木などをうまく活用すれば、アクセントのある写真が撮れることがあります。



家族
  • 背景のいれこみ方を工夫する。
  • レンズの望遠側をつかって背景をぼかし、撮影場所がうっすらとわかるように。
  • レンズの広角側をつかって家族にちかよって、背景もきちんとうつす。

家族の表情が魅力的になるように工夫しましょう。レンズの望遠側をつかうか広角側をつかうかで背景がかわり、雰囲気もかわります。室内をくらくして撮影するときにはフラッシュはつかわず ISO 感度をあげて撮った方が自然なうつりになります。



料理
  • あかるい窓際の日陰を活用する。
  • レンズの望遠側をつかって要素を圧縮させる。
  • アングルはななめ45度を基準に。

絞り優先モードをつかい、主題をきめ、背景のボケ味をいかしてメリハリのある描写をするとよいです。プラス補正であかるくしたり、ホワイトバランスやカラーモードを適切に設定したりしておいしそうな印象をだします。

レストランの雰囲気のなかで料理を表現したい場合はレンズを広角気味にして、料理にちかづいて撮影するとよいです。背景(レストランの空間)がぼけてうつりこみ、臨場感のある描写になります。

自宅での料理撮影では料理それぞれの配置も工夫しましょう。



  • 一輪の花にポイントをしぼる。
  • ローアングルから開放感をねらう。
  • 花の繊細さをボケ味で表現する。

ハイアングルから撮れば、花びらやシベといった花の表情が描写でき、ローアングルから撮れば開放感が演出できます。ハイアングルからついつい手軽に撮りがちですがローアングルに積極的にとりくんでみましょう。

やわらかい雰囲気のなかで花をうかびあがらせるためには、標準ズームレンズの望遠側をつかい、絞りをあけて(F値をちいさくして)おおきな背景ボケをつくるとよいです。さらに露出補正やホワイトバランス、ホワイトバランス微調整によって色味を調整してください。花のイメージがかわります。

花は、プラス補正であかるめで撮った方がやわらかい雰囲気がましますが、光源によっては色が淡くなりすぎて印象がうすくなることがあります。そんなときはマイナス補正にするとしっとりと色を強調することができます。

また太陽のつよい光が花に直接あたるような状態だと色がとんでしまい、繊細な花びらの質感などがうまくうつせないことがあります。カメラ側の機能を調整するだけでなく、光源の種類や角度、撮影時刻などにも意識をはらうとよいでしょう。



動物
ペット
  • あかるい照明のもとで撮る。
  • 前後をぼかして表情を印象的に。
  • 毛色のあたたかみをホワイトバランスで調整する。

ペット、あるいは動物園でもふれあい広場などでは、動物にぐっとちかづいて撮影することができます。動物の表情がきりとれ、遠近感と開放感も強調できます。動物の目にピントをあわせましょう。


動物園の動物
  • 焦点距離が 200mm 相当以上の望遠ズームレンスを用意する。
  • 背景ボケや圧縮効果を利用してダイナミックに描写する。
  • 檻が邪魔になるときは、レンズを望遠側にして、絞りをひらき、レンズを檻へちかづけ、檻(の格子)からはなれた動物をねらう。

動物園では、ほとんどの場合、動物にぐっとちかづいて撮影することはできないため望遠レンズが必要です。またしばしば檻が邪魔になります。ボケの4要素を応用して、檻をぼかして消して、動物だけに焦点をあてるようにします。ボケの4要素とは、焦点距離、撮影距離、背景との距離、絞り(F値)のことです。
  • 焦点距離:レンズは、焦点距離のながい望遠側ほどボケがまします。望遠レンズは、ボケ描写をするためにも役立つレンズです。
  • 撮影距離:被写体にちかづいて撮るほど、手前と奥の遠近感がつよまり、背景がぼけやすくなります。
  • 背景との距離:被写体と背景との距離がながいほどボケはおおきくなります。奥行きのあるところで撮影するようにします。
  • 絞り(F値):絞りをひらくほど(F値がちいさいほど)ボケ味がでます。F値のちいさいレンズが役立ちます。

当然のことながら、焦点距離がながくF値がちいさい望遠レンズの方が高性能・高価格になります。レンズ交換式一眼カメラをつかっていれば、余裕がでてきてから望遠ズームレンズを買う、あるいは高性能のものに買いかえるということができます。



自然風景
  • カラーモードは「風景」にし、ビビッドな色彩にする。
  • きりとり方(構図)を工夫する。
  • 水平線でバランスをとる。

順光をつかい、カラーモードは「風景」にします。これで発色のよい青空や緑がうつせます。

あとは構図が重要です。広大な風景をうつすために広角レンズがしばしば役立ちます。余裕がでてきたら広角ズームレンズを買うというのもひとつの方法です。

しかし広角レンズをつかって広範囲をむやみに撮ればよいというわけではありません。レンズの標準域をつかってバランスよくきれいな部分をきりとるのもいいです。標準域でも雄大な風景が描写できます。地平線あるいは水平線に注目すると画面の安定感がまします。




以上、シーン別の撮影テクニックをみてきましたが共通するポイントはつぎのようになります。

  • ピント位置をきめる:ピントのあったところが主役になります。もっともみせたい部分をはっきりさせてください。ピントがあえばつたえたいことが明確になります。逆にピンぼけだと何をいいたいのかわかりません。
  • 構図をきめる:構図とは、視点からの空間のひろがりです。主題のみせかたとその周囲のうつしかたをイメージしてください。個性的な被写体にであったときほど冷静に構図をきめてください。
  • レンズの焦点距離を確認する:うつす範囲をきめるだけでなく、ボケ味や遠近感も考慮しましょう。
  • ボケ味を調整する:ボケ味がゆたかなほど主役が強調できます。みせたい範囲をしぼったり、やわらかさを表現します。
  • 露出を確認する:あかるさや光の状態を確認します。
  • シャッター速度を確認する:写真がぶれないように注意してください。うごく被写体の場合はシャッター速度を調整してください。
  • 写真の色:色は、写真のイメージを決定づける要素です。撮るまえ色をイメージし、確認します。




背景をどう撮るか

A.IMG_6812
写真A:広角側で撮影


B.IMG_6813
写真B:望遠側で撮影


写真AおよびBは、キヤノンの標準ズームレンズ「EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS STM」で撮影しました。写真Aは広角側 18mm(35mm 判換算で28.8mm)、写真Bは望遠側 55mm(おなじく88mm)で撮影しました。

おなじ大きさで花を撮影するとき、Aのように広角側をつかう場合は花にちかづいて撮ります。他方、Bのように望遠側をつかう場合は花からはなれて撮ります。

写真をみればあきらなように、広角側をつかうか望遠側をつかうかによって背景のうつりかたがことなります。広角側ではひろい範囲がうつりますが、望遠側ではせまい範囲がひきよせられてうつります。

ズームレンズをつかっていると、一般的にはズームをうごかして主題の大きさを調整して撮影するとおもいます。しかしなれてきたら、主題にちかづいて広角側で撮影したり、主題からはなれて望遠側で撮影することもしてみてください(注)。

被写体にちかづいたりはなれたりすれば、被写体の存在感を強調したり、臨場感のある絵づくりをしたり、ひろがりのある絵づくりをしたりすることができます。初心者はすぐにズーム機能をつかってしまいますが、それにたよらず、被写体との距離をあなた自身が調整するようにします。足をつかった撮影がよりすぐれた描写をうみだします。 

背景は、主題がおかれている空間、その場のようすをあらわします。主題は、空間のなかで表現されます。背景をどううつすか? 主題だけでなく背景にも心をくばってください。

撮影するときにはあなたの視点がかならずあります。カメラをかまえる位置、レンズをむける方向、ピントをあわせる主題があります。撮影をくりかえしていると自分の視点がどのようなところにあるのか、あらためて自覚できます。その視点から主題と背景が表現されます。視点も主題も背景もさだまらない人は “ピンぼけ” になります。

視点をきめて、どのような写真を撮るのか、撮るまえにイメージするとよいでしょう。そのイメージの表現手段としてカメラがつかえます。 




けっきょく何をどう撮るかということです。それによって、必要な機能とレンズがきまります。あれもこれもは必要ありません。

今日では、スマホのカメラかデジラル一眼カメラか、カメラをもって誰もが生活しており、いつでも撮影できる態勢になっています。

あなたは何かをみます。被写体を発見します。

するとどう撮るかをかんがえます。たとえば「みしらぬ街を記録にのこしたい」「春らしいあかるいイメージで花を撮りたい」「背景をぼかして猫を撮りたい」「雄大な山岳風景を描写したい」・・・

このようなおもいを実現してくれるのがデジタル一眼カメラです。花をとるときには、プログラムモードで露出補正をおこなったり、カラーモードであたたかみをくわえたりできます。猫を撮るときには、レンズの望遠側をつかって絞り優先モードで撮るとよいでしょう。山岳写真では、広角レンズか望遠レンズか、どちらがよいか?

人間主体の情報処理の観点からみると、何かをみたり被写体を発見することはインプット、どう撮るかをかんがえることはプロセシング、カメラの設定をしてシャッターをおすことと SNS などに写真をアップすることはアウトプットです(図3)。

181106 撮影
図3 アウトプットのための技術


このような情報処理を意識して、アウトプットのための技術をみがいていくことがこれからの時代は大事でしょう。 

最終的な写真の仕上がり(アウトプット)が、撮影するまえにイメージできて、カメラをつかいこなせるようになれば、よくできたアウトプットできるわけです。ミラーレスカメラ、あるいは一眼レフカメラでもライブビューイングをつかえば、撮るまえに写真のイメージが確認できるのでとても便利です。 


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▼ 注
絞りをしぼって(F値をあげて)撮れば背景がよりはっきりうつせます。逆に、しぼりをあけて(F値をさげて)撮ると背景をぼかすことができます。レンズの広角側・望遠側、ボケの4要素を応用することによって、おなじズームレンズをつかっていてもおおきく描写をかえることができます。描写手段としてズーム機能をつかうのがよりすすんだ撮影法です。カメラをコントロールできるようになると表現の世界がその先にひろがります。

▼ 参考文献
河野鉄平著『大人のためのデジタル一眼入門』インプレス、2015年