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会場入口
(平行法で立体視ができます)
標本づくりの職人技が博物館をささえています。博物館のバックヤードをしるよい機会です。膨大な標本資料が分類学的研究・分析的研究、そして総合的研究を可能にします。
企画展「標本づくりの技」が国立科学博物館で開催されています(注1)。一流の職人たちによってつくられた数々の標本ともに標本づくりの技や道具を紹介しています。標本づくりは、博物館活動の基盤であるコレクションを構築するための重要ないとなみです。

ステレオ写真いずれも平行法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -


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伝インカ帝国のミイラ
国立科学博物館に20世紀初頭に寄贈された子供のミイラ標本です。出土地域や遺跡名などの一時情報がなかったためにペルーの「子供のミイラ」としてしかとりあつかえませんでしたが、近年、年代測定や CT 撮影といった分析技術が発達したため、16世紀以降のインカ帝国の末期から植民地期に人為的に製作されたミイラであることが判明しました。このように当初は情報がすくなくても、あとの時代になってから分析技術が進歩してあらたな情報がえられることはよくあります。良好な状態で標本を保存し、将来につたえていくことは博物館の重要な仕事です。



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果実・種子乾燥標本
(左:フタゴヤシ、右:パンヤノキ)
左の標本は、世界最大の種子といわれ、セーシェル諸島固有種のヤシの一種、フタゴヤシの種子標本です。右は、カポックとしてもしられるパンヤノキの果実標本です。大型の種子や果実などは立体のまま乾燥させて保管します。



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実物標本化石
(チュウシンフウ、約1700万年前) 
化石・岩石・鉱物の標本は実物をそのまま保管するのが主ですが、観察や化学分析のために作製した薄片を保管することもあります。



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偏光顕微鏡による観察
岩石標本から岩石薄片(岩石プレパラート)をつくり偏光顕微鏡で観察し、岩石の構造や構成鉱物をしらべます。この偏光顕微鏡は、岩石薄片の観察による研究の日本における先駆者であった坪井誠太郎がつかっていたものです。



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タイプ標本(ケナガネズミ)
ケナガネズミのタイプ標本が国立科学博物館の収蔵庫で100年ぶりに発見されました。タイプ標本とは、種の学名をあらたにつけるための記載論文のために使用され、学名の基準として指定された標本のことです。ケナガネズミは、波江元吉により1909年に新種として、Mus bowersii var. okinavensis という学名で論文発表されました。奄美大島を基産地として、徳之島・沖縄島をふくむ3島にのみ分布するとされる日本固有種ですが、沖縄島の地域集団は、亜種や別種としての再検討が今後必要です。そのためタイプ標本が発見されたことに大きな意義があります。



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人骨の修復
破損している人骨を元の形にもどします。ジグソーパズルに似ており、人骨の解剖学的知識、骨をみた経験、破片同士をつなぎあわせる器用さなど、さまざまな能力が必要とされます。



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レプリカ
(ナウマンゾウ下顎骨)
実物標本は非常に貴重なため、レプリカを作製して研究することもあります。実物と見分けがつかないほど精巧につくられています。レプリカも立派な標本であり、偽物ではありません。 



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剥製標本の製作(スズメ) 
鳥の仮剥製を製作するにあたり、腹部をまずさいて、骨や肉・内臓をとりのぞきます。足や翼の骨・頭骨はのこします。心棒と綿をいれて腹部をぬいあわせます。剥製は、足・翼・嘴などの重要な外部形質を計測したり、羽色などを比較したりする研究につかわれます。



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本剥製標本(ツチクジラ



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リンネの本
「分類学の父」とよばれるリンネが、1745年に出版した、植物・動物・鉱物についてオランダ語で記述した本です。リンネは、貴族のコレクションを整理・管理する係として雇用されたのをきっかけに数々の功績をあげ、1758年には、「Systema Naturae(自然の階梯)」第10版をあらわし、「二名法」という生物分類学の体系をつくりだしました。二名法とは、「属名と種小名」をつかって学名とする方法です。たとえばヒトの学名「Home sapiens」の Home は属名、sapiens は種小名です。




標本とは、野外(自然界)の全体のなかからとりだしたモノであり、自然のなかのそれぞれの部分の見本です。

標本は、将来的にも、分析技術の進歩とともにあらたに活用できるようになったり、再検討が可能になったりするので、博物館は、できるだけおおくの標本を集積し、半永久的に標本を保管していかなければなりません。また標本が価値をもつためには、採取地・採取日・種名・性別・体重などのさまざまな付随情報も必要です。

標本には、目的によっていろいろな種類があります。
  • 実物標本
  • 複製標本(レプリカ標本、キャスト標本(型どり複製標本))
  • 乾燥標本
  • 液浸標本
  • 骨格標本
  • 腊葉標本(押し葉標本)

これらの標本は、分類学の基礎を構築するものとしてとても重要であり、また顕微鏡観察・化学分析・物理分析・DNA分析・年代測定などの分析的研究をすすめるためにも必要です。このような分類学的研究と分析的研究があってはじめて、進化論など、その先の総合的研究が可能になります(図1)。


181028 博物館
図1 研究の3段階モデル


近年の分析技術の進歩は、博物館における標本研究を一変させつつあります。フィールドワークと分析的研究がむすびついて自然のしくみがかなりよくわかってきたといってよいでしょう。

かつては、必要のなくなったモノを処分するときに「博物館行き」などといっていたことがありましたが、現在では、膨大な標本資料を基盤にして研究をすすめられる知の殿堂として博物館がうまれかわりました。

今後、分析技術がさらに進歩すれば、集積された標本資料がさらに活用され、あらたな研究成果がうまれるにちがいないと期待されます。

またコンピューターやインターネットが普及して博物館の情報化も急速にすすみました。博物館では、モノの情報化ともいうべきことがおこっています。モノは情報をはこんできます。モノには情報がやどっています。モノを情報としてあつかい、情報処理ができる時代になりました。情報とは、言語や数値や図表であらわされるものだけではありません。博物館ならぬ「博情報館」です。高度情報化がすすんだ現在、博物館の本当の仕事がはじまったのかもしれません。本領発揮といったところです(注2)。

博物館に展示されているモノは、分類学的・自然史的・地理的・社会的など、それぞれに意味をもっているのですから、わたしたち来館者もモノの情報化に気がつき、モノが発するメッセージをうけとる努力をしてみるとおもしろいでしょう。




博物館は、英語では「Museum」(ミュージアム)といい、その由来は、ギリシア神話にでてくる芸術や学術にかかわる9人の女神「Mouses」(ミューゼス)をまつる神殿「Mouseion」(ムゼイオン)であるといわれています。古代ギリシアでは、Mouseion と命名された教育・研究施設が各地につくられました。国立科学博物館内にあるレストラン「ムーセイオン」もここから命名されたとかんがえられます。

現在の博物館の原形は、ヨーロッパ・ルネサンス期に、貴族があつめた珍重物を屋敷の一角に陳列したところにあるといわれます。その後、大航海時代にはいると、めずらしいモノが世界中からヨーロッパに流入するようになり、それらを分類・整理する必要にせまられました。このような時代的背景があって「分類学の父」リンネがうまれました。リンネの分類体系は今日における生物分類学の基礎となっています。

日本では、奈良時代にたてられた正倉院が、博物館に似た機能をもつもっとふるい施設といってよいでしょう。

江戸時代の遣欧使節団の派遣後、Museum は「博物館」と訳され、明治時代にはいってから近代的な博物館づくりが日本でもはじまりました。国立科学博物館は、その前進である「教育博物館」として1877(明治10)年に誕生、自然史・科学技術史に関する唯一の国立博物館として標本資料の収集をつづけ、現在、約460万点の標本を保管、毎年、9万点以上の標本がふえています。代表的な重要な標本は館内で展示され、万人のために活用されています。


▼ 注1
企画展「標本づくりの技 職人たちが支える科博」
会場:国立科学博物館 日本館1階(企画展示室)
会期:2018年9月4日〜11月25日

▼注2
「博情報館」といったかんがえ方は、文明学者・梅棹忠夫らが創設した国立民族学博物館が世界に先がけて提唱しました。国立民族学博物館が世界の博物館にあたえたインパクトは非常に大きく、高度情報化時代になって世界各地の博物館はうまれかわりました。

▼ 参考文献
企画展「標本づくりの技 職人たちが支える科博」(公式ガイドブック)国立科学博物館、2018年