スマトラサイがまさに絶滅しようとしています。
『ナショナルジオグラフィック』2018年10月号の EXPLORE では近絶滅種であるスマトラサイの現状について報告しています。



インドネシア・スマトラ島
  • ルーサー生態系:6グループ、50頭未満。
  • ブキト・バリサン・セラタン国立公園:2グループ、5頭未満。
  • ウェイ・カンバス国立公園:2グループ、20頭未満。
  • スマトラサイ保護区:飼育下で7頭(雄3、雌4)
  • クリンチ・スブラット国立公園:2004年に生息が記録されたのを最後に絶滅。

インドネシア・ボルネオ島
  • クタイバラ県やマハカムウル県など:10頭未満。

マレーシア・ボルネオ島
  • タビン野生生物保護区:飼育下で2頭(雄1、雌1、繁殖は不可能)

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スマトラ島やボルネオ島の急峻な密林のなかに、スマトラサイの小さな個体群の生息地4ヵ所(計2万6000平方キロ)が点在しており、のべ100頭未満たらずのサイがほそぼそとくらしています。

スマトラサイにとっての最大の脅威は孤立です。個体群がちいさく、また4ヵ所の生息地は分断されているので子供がうまれる可能性がひくくなり、絶滅の危険性が非常にたかまっています。サイは、単独で行動するのが特徴で、雌は、およそ3〜5年ごとにしか子供をうみません。

スマトラサイの生息数は過去20年間で推定70%減少しました。おもな原因は密猟です。 マレーシアでは2015年に野生種の絶滅が宣言されました。




いちじるしく個体数がへると遺伝子の多様性がうしなわれて絶滅へむけて一気にすすむといわれます。遺伝子の多様性がうしなわれるというのはごく簡単にいってしまえば「近親交配」がふえるということであり、これによって奇形や病気などの個体もうまれやすくなります。

スマトラサイは、もはや、小さな個体群のなかでしか子供がつくれないので(近親交配がすすむので)、絶滅はさけられない状況です。スマトラサイの現状をしることは、ひとつの種が絶滅していく「瞬間」をまさに観察しているようなものです。

このような遺伝的多様性の観点からは、実は、動物園にいる動物たちにも危険がせまってきています。現在では、野生の動物をつかまえてきて動物園にあらたにいれることは禁止されており、そこで動物園では、遺伝子の多様性をたもつために(近親交配をさけるために)、それぞれの個体の遺伝子を登録して、よその動物園と個体をいれかえることをおこなわなければなりません。しかしそれは容易なことではありません。

現代は、野生生物の大量絶滅の時代です。人間は、進化論における絶滅の、壮大な「実験観察」をはじめてしまいました。


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▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック日本版』日経ナショナルジオグラフィック社、2018年