紫外線は、人間にはみえませんが昆虫にはみえます。みえないものがもしみえたら?
『ナショナルジオグラフィック』2018年10月号の「PROOF 世界を見る」では、紫外線をあびた花々の写真を掲載しています。もし、紫外線が人間にもみえたらこんなふうにみえるのでしょう。


ハルシャギクは北米原産の一年草。紫外線を当てて撮影すると、キラキラと輝いて見える。

白い花と長い雄しべが特徴のギンバイカ。普段はあまり目立たない植物だが、紫外線を浴びると、あでやかな色を帯び、雄しべの先端の花粉が魅惑的に輝く。

シソ科のヤグルマハッカ属の花。北米原産の多年草で「ビーバーム」や「ベルガモット」とも呼ばれる。紫外線を浴びたカラフルな花は、虹色のネオンのようだ。

マメナシの白い花は紫外線の下では紫色に見える。人間は普段、物質が反射する色を見ている。たとえば、草は緑色以外の全ての色を吸収するので、人間には反射された緑色しか見えない。一方、ある波長の光を当てたときに別の波長の光を放つ蛍光とよばれる現象があり、花は紫外線を浴びたときだけ、このような色を放つ。

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ベンケイソウ科の白い花も、紫外線の下ではピンクに見える。


紫外線をあびると、みなれた花が幻想的な姿に変身します。写真家のクレイグ=バロウズは紫外線誘発可視蛍光という手法をつかって花を撮影しました。花は、紫外線をあびるとあざやかな蛍光色をはなちます。ありふれた花々が別の惑星にさく花のようにまるでみえます。

特別な加工を写真にしているわけではありません。人間には本来はみえない色(様子)をうつしているだけです。もっとも魅惑的な花々の姿は人間の目には実はみえていませんでした。




しかし紫外線をみている動物がいます。昆虫です。昆虫は紫外線を感じることができます。

可視光(人間にみえる光)とは、およそ 400 nm〜750 nm の波長範囲の電磁波です。紫外線とは、波長が 10 nm〜400 nm の電磁波であり、昆虫は、300 nm〜400 nm の紫外線をみることができます。つまり昆虫は、人間よりも花をよくみています。

このような視覚系の情報処理のちがいから、昆虫がみている花と人間がみている花はちがうのであり、昆虫にとっての花は人間にとっての花よりも特別な存在です。

昆虫は、花をみつけて蜜をすいます。花は、昆虫に花粉をはこんでもらいます。昆虫と被子植物はもちつもたれるの関係で進化してきました。共進化です。今回の写真は、このようなことを理解させてくれる貴重なものです。

もし、人間にも紫外線がみえていたら、世界は、今とはかなりちがって認識されていたにちがいありません。人間は、非常にかぎられた範囲の電磁波だけをとらええて世界をみた気になってしまっています。

ナショナルジオグラフィックは、「この世界で起きていることをさまざまな視点で見つめる」ことを提案しています。みる角度を空間的にかえるだけでなく、このようにみえないものがもしみえたらという観点も重要です。


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▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック日本版』日経ナショナルジオグラフィック社、2018年