人間の目は、目にはいってきた光しか感知することができません。人間の視覚系の情報処理によって光と陰が生じます。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年11月号では「宇宙はなぜ暗いのか?」という初歩的な疑問にアプローチしています。



太陽がのぼると明るくなり、太陽がしずむと暗くなるのは常識であり、こんなことに疑問をもつ人はほとんどいないでしょう。

しかし実際にはこれは、地上でしかなりたたないことであり、宇宙空間にいくと、あたりはつねに暗くなります。宇宙にいって太陽と地球がみえている場合、太陽の光がふりそそいでいるので地球は明るくみえますが、おなじように太陽の光がふりそそいでいるにもかかわらず宇宙空間は暗くみえます。太陽の光が直接あたっているところしか明るくみえません。


私たちは、光が目に入ることではじめて明るさを感じます。光が目の前を通り過ぎたでけでは、光を感じることはできないのです。
 
(地上では)太陽が昇り空が明るくなるのは、太陽から放たれた光が、大気中の気体分子やちりなどの微粒子に衝突することで四方八方に散乱し、私たちの目に入るからです。

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つまり、宇宙空間には大気がほとんどないので光は散乱せず、太陽の光が人間にとどいていても、その光が目にはいらないかぎり周囲は暗くみえるのです。実際、大気がほとんどない月では昼も夜も関係なくつねに暗いままです。




このようなことから、わたしたち人間のもっとも重要な感覚器官である目のしくみについてあらためてかんがえなおすことができます。

太陽光にかぎらず、あらゆる光は目のなかにはいってこないととらえることはできません。実際には、わたしたちの身体のところにあるいは周囲に、太陽光にかぎらずさまざまな光(という電磁波)がとどいています。目のまえをとおりすぎています。光(電磁波)が周囲の空間にみちています。しかし目は、はいってきた光しか見ることはできず、光のほとんどは感知することはできません。ここに、目という感覚器官の限界があります。

わたしたち人間は、情報の非常に多く(大部分)を目からえています。しかしこのような限界が目にはあるのであり、わたしたちはすべてをとらえていないどころか、大部分は感知できていないということになります。

人間は、目にはいってきた光(にのった情報)のみで、明るいところと暗いところ(光と陰)がある世界像・宇宙像をつくりだしてしまっており、この世界像・宇宙像はきわめてかたよった見方の結果であり、人間の感覚がえがきだした独自の映像であるといってよいでしょう。実際には宇宙は、人間が見ているようには存在していません。

「宇宙はなぜ暗いのか?」といった素朴にして初歩的な疑問から人間の認識にかかわる重大な問題があきらかになりました。あるいは「昼間は明るい」という常識をうたがってみるところからあらたな研究がはじまります。

「光と陰」といった人間がこのむ二項対立の思考法も、人間の感覚器官に依存した人間独自の情報処理のあらわれにすぎないのかもしれません。




天文学者によると138億年前に宇宙は誕生し、この歴史のなかで、わたしたち人間が目にしているのはわたしたちが観測できる範囲(光がとどく範囲)の天体の光だけです。わたしたち人間が見通せる範囲には限界があります。わたしたちが観測できる領域の外側に宇宙空間はさらにひろがっているとかんがえられていますがそれを認知することは人間にはできません。

また現代の宇宙論では、「ダークマター」や「ダークエネルギー」など、まだ謎の現象がたくさんあるとかんがえられており、本当の世界や宇宙は、わたしたち人間の常識とはまったくちがうものであるとおもわれます。感覚器官と宇宙論をむすびつけることによって常識はくつがえされ、あらたな認識が展開していきます。


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▼ 参考文献
『Newton』(2018年11月号)ニュートンプレス、2018年11月7日