メガネウラの復元模型
(古生代石炭紀〜古生代ペルム紀)
(古生代石炭紀〜古生代ペルム紀)
(交差法で立体視ができます)
昆虫は、古生代の後期に大繁栄し、その後は、身体を小さくしながら進化してきました。大きな動物と共存しながら生態系をつくりだしました。分化しつつシステム化することに気がつくことが大事です。
特別展「昆虫」が国立科学博物館で開催されています(注1)。 第1展示室では昆虫の概要と進化について展示・解説しています。ステレオ写真はいずれも交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -
系統(進化の道筋)をえがいた図を「系統樹」といい、通常は樹木状に、下から上にむかって、ふるい時代からあたらしい時代へ分化していくようにえがきますが、今回の会場に展示されていた系統樹は、上から下へむかって、ふるい時代からあたらしい時代へ分化していくようにえがかれています。通常とは上下が逆になっているので注意してください。
この系統樹をみればあきらかなように、昆虫たちは、もとをただせばひとつのおなじものに由来し、もとひとつのものから分化した親類同士のようなもので、それぞれが一定の関係によってむすばれています。類縁によって秩序づけられ、相似と相異の関係によって構造化されているといってもよいです。
▼ 関連記事
多様で神秘的な世界 - 特別展「昆虫」の概観(国立科学博物館)-
昆虫の進化 - 特別展「昆虫」第1展示室(国立科学博物館)-
昆虫の多様性 - 特別展「昆虫」第2展示室(国立科学博物館)-
棲み分けて共存する - 特別展「昆虫」第3展示室(国立科学博物館)-
昆虫も情報処理をしている - 特別展「昆虫」第4展示室(国立科学博物館)-
少年の心をわすれない - 特別展「昆虫」第5展示室「昆虫研究室」(1)-
相似と相異に着目する - 特別展「昆虫」第5展示室「昆虫研究室」(2)-
昆虫の構造と機能 - 特別展「昆虫」(国立科学博物館)-
昆虫の社会 - 特別展「昆虫」(国立科学博物館)-
【閲覧注意:Gの部屋】自分の家の環境にも心をくばる - 特別展「昆虫」(国立科学博物館)-
分化とシステム化 - 特別展「昆虫」第1展示室(国立科学博物館)-
特別展「昆虫」(国立科学博物館)(まとめ)
▼ 注1
特別展「昆虫」
特設サイト
会場:国立科学博物館
会期:2018年7月13日~10月8日
▼ 注2:地質年代表
▼ 参考文献
国立科学博物館・読売新聞社編集『特別展 昆虫』(図録)読売新聞社・フジテレビジョン発行、2018年
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -
メガネウラの化石(複製)
(古生代石炭紀〜古生代ペルム紀)
メガネウラは、オオトンボ目にふくまれる化石昆虫であり、最大の種は、翅をひろげると約70cmに達し、史上最大の昆虫といわれています。このグループは、およそ3億2千万年前の古生代石炭紀後期にあらわれ、2億5千万年前の古生代ペルム紀末に姿を消しました。(古生代石炭紀〜古生代ペルム紀)
トンボの一種の化石
(中生代ジュラ紀、ドイツ産)
チョウの一種の化石
(新生代 古第三紀 始新世後期、白川層、兵庫県産)
ゾウムシの一種の化石
(新生代 古第三紀 漸新世、若松沢層、北海道産)
昆虫の食痕(サワグルミの葉の化石)
(新生代 第四紀 更新世、塩原層群、栃木県産)
*
昆虫は、どの生き物に一番ちかいのでしょうか? 近年の分類学的な研究では甲殻類にもっともちかいことがわかっています。甲殻類は、エビやカニのような海生の生物がよくしられていますが、ダンゴムシやワラジムシのような陸生の生物もふくみます。
それでは昆虫は、甲殻類からわかれたのち、どのように進化してきたのでしょうか? 古生物学的な研究からつぎのようなことがわかっています。
古生代デボン紀
- 4.1 億年前:最古の昆虫化石
- 4 億年前:翅をもつ昆虫(有翅昆虫)が出現
- 3.8 億年間:翅をおりたためる昆虫(新翅類)が出現
古生代石炭紀
- 3.5 億年前:完全変態群が出現(幼虫→さなぎ→成虫と成長する昆虫が出現)
- 3.2 億年前:メガネウラ(巨大なトンボ)が出現
古生代ペルム紀
- 2.5 億年前:メガネウラが絶滅
中生代ジュラ紀
- 1.5 億年前:現在の昆虫のグループ(目)がほとんどでそろう。
中生代白亜紀
- 1億年前ごろ:コウチュウ目・ハチ目・ハエ目・チョウ目などが種数をふやす。一方で被子植物が多様化する。被子植物と送粉者としての昆虫がたがいに作用しあって進化する。
生物学では、進化の歴史のことを「系統」といい、系統をあきらかにする分野を「系統学」とよびます。生物が進化するということは祖先にあたる生物からあらたな生物が生じてくことであり、神が種を創造したのでもなく、何もないところから種が突然うまれることもありません。
このように、生物の進化には系統があるので、類似した特徴をもつ昆虫たちは進化的にも近縁である可能性が高いとかんがえられ、系統学では、さまざまな生物を比較して、それぞれの相似と相異をあきらかにして進化の歴史をさぐります。
具体的には、現生の昆虫を徹底的に比較するとともに、昆虫の化石や琥珀にとじこめられた昆虫の比較研究もします。
これらにくわえて、20世紀のおわりごろからは DNA 分析による研究がさかんにおこなわれるようになり、DNA 塩基配列をしらべ、その配列の相似と相異から進化の歴史をしらべられるようになりました。
たとえばシロアリは、ゴキブリのなかまから進化したことが DNA 分析による系統解析によってあきらかになりました。またチョウのなかまは、ガのあるグループにちかいことが判明しつつあります。
最近では、昆虫類1000種を最新の装置で解析し、現在しられているすべての目(もく)をふくむ103種類の昆虫についての系統を推定した研究もあります。この結果、昆虫の起源は、今までの仮説よりも8千万年前もふるい4億8千万年前までさかのぼることがあきらかになりました。この時期は、植物が陸上進出をはたした時期にかさなっており、植物とともに昆虫は、初期の陸上生態系をつくりだしていたと想像されます。
系統(進化の道筋)をえがいた図を「系統樹」といい、通常は樹木状に、下から上にむかって、ふるい時代からあたらしい時代へ分化していくようにえがきますが、今回の会場に展示されていた系統樹は、上から下へむかって、ふるい時代からあたらしい時代へ分化していくようにえがかれています。通常とは上下が逆になっているので注意してください。
この系統樹をみればあきらかなように、昆虫たちは、もとをただせばひとつのおなじものに由来し、もとひとつのものから分化した親類同士のようなもので、それぞれが一定の関係によってむすばれています。類縁によって秩序づけられ、相似と相異の関係によって構造化されているといってもよいです。
このように進化とは分化のことであり、系統樹では、似ている昆虫たちはちかくに配置され、似ていない昆虫たちはとおくに配置され、進化は、相似たものへの分化であるととらえることもできれば、相異なったものへの分化としてとらえることもできます。
こうしてさまざまな昆虫の相似と相異に着目することは、系統樹すなわち昆虫の進化を理解することにつながるのであり、分類学的研究は分析的研究をへて進化論へ発展します。相似と相異に着目して系統あるいは進化を推しはかるこのような方法は端的に類推といってもよく、類推は、わたしたち人間の誰にもそなわった能力であり、生物や地球を認識するとき、あるいは仮説をたてるときの方法としてとても有用です。
*
さて昆虫は、4億8千万年前ごろ(古生代オルドビス紀)に誕生し、古生代後期に大繁栄したようです。メガネウラのような巨大昆虫が悠々と空を飛んでいる情景を想像すると、古生代後期の陸上は「昆虫の時代」だったといいたくなります。
しかしその後、中生代にはいると恐竜がでてきました。「爬虫類の時代」にかわります。ところが昆虫は絶滅するのではなく、身体を小さくすることによって生きつづけました。大きな恐竜と小さな昆虫は地球上で共存していました。
そして新生代になって「哺乳類の時代」になっても昆虫は生きつづけ、現代の「人類の時代」でも昆虫は生きています。
そして新生代になって「哺乳類の時代」になっても昆虫は生きつづけ、現代の「人類の時代」でも昆虫は生きています。
- 古生代後期:昆虫の時代(陸上)
- 中生代:爬虫類の時代
- 新生代:哺乳類の時代
- 現 代:人類の時代
昆虫は、人類の身近にもごく普通にいます。どこにでもいます。昆虫は、体を極端に小さくすることによって大きな動物との摩擦・衝突をさけているようです。昆虫の住みかには大きな動物はほとんど侵入してこず、昆虫も、大きな動物の住みかを破壊することは滅多にしません。大きな動物と昆虫とでは生息空間がちがうのであり、これは一種の棲み分けです。こうして大きな動物と小さな昆虫は地球上で基本的に共存するように進化してきました。これは、生存競争と適者生存といったふるい仮説では理解できませんので注意してください。
ただし昆虫は、ただ単に身体を小さくしただけではありませんでした。現代の昆虫をみれば、その構造はとても精巧であり、その機能はきわめて高性能であることがわかります。そして昆虫の構造と機能はみごとにシンクロナイズし、完成された独特のうつくしさをうみだしています。昆虫に魅了される人々がいるのはこのためです。
そして昆虫は、市街地、里山、雑木林、森林、池、湖など、さまざまな環境に適応して、それぞれの生態系(エコシステム)のなかで重要な役割をになっています。昆虫がいなくなったら生態系はすぐに崩壊してしまいます。
わたしはさっき、進化とは分化だといいました。しかし一方で生態系が形成されています。進化は、分化するだけでなく生態系もうみだしています。すなわち分化しつつシステム化していきます。もし分化するだけだったら、いまごろ地球はめちゃくちゃになっていますが、そうはなっていません。分化だけでなくシステム化にも注目する必要があり、それは、多様性の統合といってもよいでしょう。
分化とシステム化、多様性と統合なんて矛盾しているという人がいるかもしれません。多様性をみとめるとめちゃくちゃになってシステムが維持できないと誤解して、異質なものを排除し、統制をはかろうとする人がまだいますが、実際にはそれは、くるしみの原因になるだけです。
そうではなくて、分化しつつシステム化するのがそもそも生命の場です。今日の最新の進化論がおしえているとおりです。
ただし昆虫は、ただ単に身体を小さくしただけではありませんでした。現代の昆虫をみれば、その構造はとても精巧であり、その機能はきわめて高性能であることがわかります。そして昆虫の構造と機能はみごとにシンクロナイズし、完成された独特のうつくしさをうみだしています。昆虫に魅了される人々がいるのはこのためです。
そして昆虫は、市街地、里山、雑木林、森林、池、湖など、さまざまな環境に適応して、それぞれの生態系(エコシステム)のなかで重要な役割をになっています。昆虫がいなくなったら生態系はすぐに崩壊してしまいます。
わたしはさっき、進化とは分化だといいました。しかし一方で生態系が形成されています。進化は、分化するだけでなく生態系もうみだしています。すなわち分化しつつシステム化していきます。もし分化するだけだったら、いまごろ地球はめちゃくちゃになっていますが、そうはなっていません。分化だけでなくシステム化にも注目する必要があり、それは、多様性の統合といってもよいでしょう。
分化とシステム化、多様性と統合なんて矛盾しているという人がいるかもしれません。多様性をみとめるとめちゃくちゃになってシステムが維持できないと誤解して、異質なものを排除し、統制をはかろうとする人がまだいますが、実際にはそれは、くるしみの原因になるだけです。
そうではなくて、分化しつつシステム化するのがそもそも生命の場です。今日の最新の進化論がおしえているとおりです。
▼ 関連記事
多様で神秘的な世界 - 特別展「昆虫」の概観(国立科学博物館)-
昆虫の進化 - 特別展「昆虫」第1展示室(国立科学博物館)-
昆虫の多様性 - 特別展「昆虫」第2展示室(国立科学博物館)-
棲み分けて共存する - 特別展「昆虫」第3展示室(国立科学博物館)-
昆虫も情報処理をしている - 特別展「昆虫」第4展示室(国立科学博物館)-
少年の心をわすれない - 特別展「昆虫」第5展示室「昆虫研究室」(1)-
相似と相異に着目する - 特別展「昆虫」第5展示室「昆虫研究室」(2)-
昆虫の構造と機能 - 特別展「昆虫」(国立科学博物館)-
昆虫の社会 - 特別展「昆虫」(国立科学博物館)-
【閲覧注意:Gの部屋】自分の家の環境にも心をくばる - 特別展「昆虫」(国立科学博物館)-
分化とシステム化 - 特別展「昆虫」第1展示室(国立科学博物館)-
特別展「昆虫」(国立科学博物館)(まとめ)
▼ 注1
特別展「昆虫」
特設サイト
会場:国立科学博物館
会期:2018年7月13日~10月8日
▼ 注2:地質年代表
▼ 参考文献
国立科学博物館・読売新聞社編集『特別展 昆虫』(図録)読売新聞社・フジテレビジョン発行、2018年