ゴキブリは本来は森にすんでいます。森林生態系において重要な役割をになっています。環境についてかんがえなおすよい機会です。
特別展「昆虫」が国立科学博物館で開催されています(注1)。

もっともきらわれている動物がゴキブリです。しかし生命力のつよいことでもしられます。昆虫の特別展で、ゴキブリをさけてとおるわけにはいきません。「Gの部屋」です。今回の特別展では唯一、生きた昆虫をここではみることができます。

家のなかでゴキブリをみつけたらびっくり仰天、殺虫剤をすぐにふきつけるでしょう。しかしちょっとまってください。ゴキブリは悪者では決してありません。現代の日本において病原菌をひろめるようなこともしません。

大部分のゴキブリは本来は森にすんでいて人間とはかかわりのない生活をおくっています。朽ち木や落ち葉をたべて土にもどしたり、森林生態系において重要な役割をになっています。ゴキブリがもしいなかったら、倒木で森はあふれかえり、落ち葉がうずたかかくつもり、森は更新されず、死んだ世界になってしまいます。ひっそりと森でくらしているこのようなゴキブリに人間にきらわれる理由はひとつもありません。

実際、外国では(あるいは日本でも)ゴキブリをペットとして飼育している人はかなりいます。子育てや幼虫から成虫まで、環境さえととのえば、ゴキブリの生活を一年中観察することができます。またうつくしい色彩や模様をもつゴキブリもいます。

それではどうして家のなかにゴキブリがでてきたのか? それは、室内の特別な環境がゴキブリを繁殖させているからです。食事のあとに食べかすがのこっていたり、きちんと食器をあらって片付けていないければゴキブリがすみつきます。ゴキブリのこのむ環境をつくりだしている人間の方に責任があるわけです。

日本ではとくに、クロゴキブリやチャバネゴキブリが家屋性のゴキブリの代表であり、これらは外国の湿潤・温暖な地域から日本にわたってきた外来種で、日本の家屋の環境が元来のすみかの環境にちかいとすみつくことになります。たとえば木造家屋で湿度と温度がいつもたかく、食べかすがおおい家など。だけどそのような家にはゴキブリがいるだけでなく、カビもはえやすいのではないでしょうか。殺虫剤をばらまくまえに家の環境を改善したほうがよいでしょう。ゴキブリを一方的に悪者にしないでください。




ゴキブリとは、不完全変態の昆虫(さなぎの期間をへずに幼虫から成虫になる昆虫)の一群で、ゴキブリ目(もく)を形成しています。系統的にはカマキリにちかいです。ゴキブリの体の基本設計はカマキリにそっくりであり、頭は三角で、口は後方をむき、触角は糸状で、左右の翅はかさなっていて、腹部の先端には一対の突起があります。またシロアリもゴキブリのなかに完全にふくまれます。

ゴキブリの子育ては感動的です。たとえば朽ち木をかみくだいて親が子にあたえます。親がいないと子供は成長できません。母乳のようなものをだして子供に栄養をあたえるものもいます。またアリと共生するもの、半水性のもの、ダンゴムシのようにまるまるものなどもいます。ゴキブリは実に多様です。




そもそも今日の日本の居住空間が極度に衛生的になりすぎたことに問題があります。ゴキブリ1匹、ハエ1匹でおどろいてしまう子供をつくりだしてしまいました。家の周囲には生態系がなくなり、自然と乖離した人間中心の無機的・機械的な空間がひろがってきています。

現代の機械文明の大きな特徴は「消毒」です。しかしこれは、よそ者を排除し、多様性と共生を否定する行動につながる危険性をはらんでいます。

このような世界にわたしは希望をみいだすことはできません。ゴキブリにかぎらず、身近な昆虫から生命について、環境についてかんがえなおしてみるのがよいでしょう。

"昆活"マイスター(オフィシャルサポーター)の香川照之さんもいっているではないですか。
「昆虫は先生だ!」
http://www.konchuten.jp/guide.html
https://www.youtube.com/watch?time_continue=84&v=QbegJaxrtUU


ステレオ写真はいずれも交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -


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マダガスカルゴキブリ



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ハテナゴキブリ



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ヒカリモンゴキブリ



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ゴキブリの多様性




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特別展「昆虫」(国立科学博物館)(まとめ)

▼ 注1
特別展「昆虫」
特設サイト
会場:国立科学博物館
会期:2018年7月13日~10月8日
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▼ 参考文献
国立科学博物館・読売新聞社編集『特別展 昆虫』(図録)読売新聞社・フジテレビジョン発行、2018年