
トビイロシワアリとサトアリヅカコオロギ
アリとシロアリの巣や生活様式について紹介しています。昆虫は社会をつくっていきています。個体をこえた高次元な生命の場があります。
特別展「昆虫」が国立科学博物館で開催されています(注1)。第3展示室「昆虫の生態」では、アリとシロアリについてとくにくわしく解説しています。
アリとシロアリ
アリとシロアリ
アリとシロアリは似て非なるものです。アリはハチの仲間、シロアリはゴキブリの仲間であり、おなじ昆虫といえどもまったくの遠縁です。しかし女王アリと働きアリの「真社会性昆虫」であり、飛ぶことのできない多数の働きアリが巣をつくるという点でかなりの共通性をもっています。
食べるものは基本的にことなり、アリは、肉食性か植物の汁を餌とするものがおおく、シロアリは、枯れた木材や土をたべるものが大半です。
アリの巣は、地面に穴があいていて地下にあるものが一般的ですが、木の枝や朽ち木、ドングリなどをほって巣にするものもかなりいます。
構造物たる巣としてもっとも目につくものがシロアリの塚です。「アリ塚」とよばれますがアリがつくったものではなく、シロアリがつくったものです。高さ数mにおよぶものもあり、乾燥して暑い場所におおくみられます。よくできた構造をもち、太陽光で巣の地上部があたたまると巣内上部の空気がぬけていき、巣内の圧力がさがり、ひんやりとした空気が地下から巣内にあがってくる仕組みになっています。いわば天然クーラーです。
アリは、捕食者やなわばりの保持者としてつよい力をもち、アリがいなければ陸上生態系はたもたれません。またシロアリは、木材の分解者として非常に有力な存在であり、シロアリがいなければ倒木で森はうめつくされてしまいます。アリもシロアリも生態系のなかで重要な役割をになっています。
アリ・シロアリの巣に居候する昆虫
アリの巣のなかに、さまざまな別の昆虫がすんでいることをご存じでしょうか。アリの巣に居候したり、アリの社会に依存したりしている昆虫を「好蟻性昆虫」(こうぎせいこんちゅう)といいます。シロアリの巣にも同様な昆虫がいて、それらは「好白蟻性昆虫」(こうはくぎせいこんちゅう)といいます。
たとえばサトアリヅカコオロギは、トビイロシワアリの巣のなかにすみ、アリがはこびこんだ虫の残骸などをたべています。サトアリヅカコオロギは定期的にアリにだきついて、アリの匂いを体にうつすことによってアリの巣にとけこんで生きています。
アリノタカラは、ミツバアリの巣のなかにすみ、巣のなかにはりだした植物の根の汁をすっていきています。ミツバアリとは絶対的共生関係にあり、どちらが欠けてもいきていけません。ミツバアリは、アリノタカラの糖分にとんだ排泄物だけを餌とし、アリノタカラは、ミツバアリに移動や掃除を依存しています。新女王アリが巣をとびたつときには一匹のアリノタカラをくわえてでていきます。
キノコシロアリのなかまは、菌園というものをつくり、キノコをそだてる修正をもちます。いわば「農業」をする昆虫です。その菌園には、さまざまな昆虫が居候しており、シロアリノミバエもそのひとつです。巣内では、シロアリの幼虫だとおもわれているようで、危険がせまると安全な場所にはこんでもらえます。
*
このように、昆虫の生活様式や昆虫の社会にはしばしばおどろかされます。
アリやシロアリの巣は共同体的な生活の場であり、多数の個体があつまって共同社会がつくられています。個体をこえて、個体とは次元のちがう、より高次元な生命の場がつくりだされているといってもよいでしょう。
しかもアリやシロアリの巣のなかには好蟻性昆虫や好白蟻性昆虫もいて同一種をこえた共同社会がつくられています。
昆虫たちは集団をつくり、社会的ないとなみによって生態系の一翼をにない、生態系にとって欠くことのできない存在になっています。ここでは、個体、同一種の集団(社会)、種をこえた社会、生態系といった、生命の階層構造に気がつくことが大事です。
- 生態系
- 種をこえた社会
- 種社会
- 個体
*
このような昆虫の社会や生態系についてしろうとおもったら、現地・現場の観察、フィールドワークをしなければなりません。
これは、昆虫分類学、個体の構造・機能の分析的研究の先にある、より発展的・総合的な研究・認識になります。フィールドサイエンス(野外科学)といってもよいでしょう。フィールドサイエンスまでくると研究や認識は本格的になります。本当におもしろくなります。昆虫以外の動植物、土壌・地質・地形・大気などもふくめた生態系あるいは生命システムの認識が可能になります。
今回の特別展「昆虫」からはこのような認識の方法もよみとれます。どのような段階をふんですすめていけばよいか。〈分類→分析→フィールドサイエンス〉という3段階モデルが役立ちます(図1)。

図1 3段階モデル
多様で神秘的な世界 - 特別展「昆虫」の概観(国立科学博物館)-
昆虫の進化 - 特別展「昆虫」第1展示室(国立科学博物館)-
昆虫の多様性 - 特別展「昆虫」第2展示室(国立科学博物館)-
棲み分けて共存する - 特別展「昆虫」第3展示室(国立科学博物館)-
昆虫も情報処理をしている - 特別展「昆虫」第4展示室(国立科学博物館)-
少年の心をわすれない - 特別展「昆虫」第5展示室「昆虫研究室」(1)-
相似と相異に着目する - 特別展「昆虫」第5展示室「昆虫研究室」(2)-
昆虫の構造と機能 - 特別展「昆虫」(国立科学博物館)-
昆虫の社会 - 特別展「昆虫」(国立科学博物館)-
【閲覧注意:Gの部屋】自分の家の環境にも心をくばる - 特別展「昆虫」(国立科学博物館)-
分化とシステム化 - 特別展「昆虫」第1展示室(国立科学博物館)-
特別展「昆虫」(国立科学博物館)(まとめ)
▼ 注1
特別展「昆虫」
特設サイト
会場:国立科学博物館
会期:2018年7月13日~10月8日
▼ 参考文献
国立科学博物館・読売新聞社編集『特別展 昆虫』(図録)読売新聞社・フジテレビジョン発行、2018年