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カブトムシ
(交差法で立体視ができます)
昆虫の身体の構造はその機能と密接な関係にあります。構造即機能が昆虫が存続している現象です。3D 空間のなかで構造をとらえるとともに時間的な変化もみるようにします。
特別展「昆虫」が国立科学博物館で開催されています(注1)。第1展示室と第4展示室では、昆虫の身体の構造とその機能について理解することができます。わたしは、小学生のときに房総半島にいって空中を飛ぶカブトムシをはじめてみて堂々たるその姿に感動したことがありました。昆虫の体はどのような仕組みになっているのでしょうか?

昆虫とは節足動物のひとつのグループの総称であり、その構造は、脚は6本、翅は4枚あるのが基本です。

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カブトムシの構造


もともとの昆虫の身体のつくりは、ミミズのように、みじかい同様な関節が 20 節以上つづくほそながいものであったとかんがえられていますが、そのごの進化の過程で、ほそながい体が前のほうから、頭部・胸部・腹部の3つの部分にわかれました。

昆虫の頭部はカプセル状であり、触覚や複眼や口器をつかって、食べるものの性質や周囲の環境を感知する感覚の役割をおもにになうようになりました。

胸部は、前胸・中胸・後胸の3節からなり、それぞれの節に1対の脚、中胸と後胸からはそれぞれ1対の翅がでて、移動の役割をになうようになりました。

腹部は、最大 12 節ほどの環節からなり、オスは精巣、メスは卵巣を収納し、繁殖の役割をになうようになりました。

このように昆虫の身体の3つの部分は形態が単に進化しただけでなく、機能の役割分担をになうようになっています。

また昆虫は、外骨格という体のつくりをしています。わたしたち人間をふくむ脊椎動物は、胴体だけでなく、手足のような突出部にも中心部には骨格があって身体をささえています。これに対して昆虫をふくむ節足動物は、身体の表面がかたく頑丈になって身体をささえます。この外骨格は、昆虫の身体を、乾燥や温度変化、物理的な衝撃からまもっています。ただし外骨格があまりに堅牢であると、身体が成長するさいの障害になってしまいます。そのため昆虫の若齢期すなわち幼虫の時代には、外骨格はあまりかたくなっておらず伸縮性が大きいです。またたびたび脱皮して身体のボリュームを増加させることができます。




昆虫の機能のうち、飛ぶことに注目してみると、昆虫が空を飛ぶためにおもにつかっているのは胴体の両側方にとびだした2対の翅です。前方の翅が前翅で、前・中・後の3節からなる胸部のまんなかの節すなわち中胸から生じています。後方の翅、後翅は、後方の節すなわち後胸から生じています。これら2対4枚の翅をはげしくはばたかせることによって、昆虫は、身体を空中へ飛びださせ、空中を推進し、空中の一点に静止(ホバリング)できます。

昆虫の翅は、鳥やコウモリの翼とはことなり、中途や先端のほうでうごかしたり、制御したりすることができません。羽ばたきをふくむ翅のうごきは、両翅の付け根となる中胸と後胸の内部に格納されている飛翔筋のはたらきによってすべてうみだされます。

空中を飛ぶ昆虫の羽ばたきを横からみると、翅の航跡はつぶれた8の字、またはさらに複雑であり、Sの字にちかい形をしています。この航跡が水平にちかづくほどホバリングにちかくなり、前方へむかってかたむくほど高速で前進します。

このように昆虫は、飛行機的な機能とヘリコプター的な機能の両方をあわせもち、自在に空中を飛ぶことができます。人間がつくった似た機能をもつ乗り物として「オスプレイ」がありますが、これは、しょっちゅう墜落していて問題になっています。昆虫のほうがすすんでいるといえるでしょう。




このように、一定の秩序をもって各器官が巧妙に配置されて昆虫の身体の構造ができており、構造と機能は密接な関連をもっています。頭部・胸部・腹部の3つの部分が統合されて昆虫の構造をつくっているように、飛ぶ・あるく・およぐ・はねるなどの機能も全体として一個の昆虫があらわす機能に統合されています。昆虫は構造だけの存在ではありません。

昆虫の機能についてしろうとおもったら、生きている昆虫を観察しなければなりません。標本をあつかう昆虫分類学から一歩ふみだす必要があります。標本をつかった研究をやっているだけだと「死物」の生物学でおわってしまいますが、生きている昆虫を研究すればそれはまさに生物学になります。ここに、生物学あるいは認識の発展がみとめられます。

生物の構造は、生きた生物をはなれてはかんがえられません。生物は、構造が先にあって後から機能がそなわったのでもなく、機能が先にあって構造が後でできあがったのでもありません。構造即機能、機能即構造とかんがえるべきです。このような構造即機能が昆虫が存続している現象です。

したがって昆虫を観察するときには、3D 空間のなかで構造をとらえるとともに、昆虫の時間的変化もみなければなりません。時間的変化をおいかけることにより機能がわかってきます。時間的な変化のなかに昆虫あるいは生物が生いきているあかしがあります。

  • 空間:構造
  • 時間:機能

カブトムシやクワガタムシあるいはさまざまなチョウやトンボなどの姿をみていると、みごとというか完璧というか、できすぎというか、その「造形美」におどろかされます。このうつくしさはもはや、昆虫の「表現」といってもよいかもしれません。

それにしても、うつくしさとは構造だけできまるのではなく、機能だけできまるのでもありません。構造と機能がシンクロナイズしたときに本当のうつくしさがうまれます。



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オニヤンマ



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オニヤンマの構造



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リュウキュウアサギマダラ
(チョウは飛ぶ昆虫の代表)
 


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昆虫の機能(第4展示室の解説)


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特別展「昆虫」(国立科学博物館)(まとめ)

▼ 注1
特別展「昆虫」
特設サイト
会場:国立科学博物館
会期:2018年7月13日~10月8日
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▼ 参考文献
国立科学博物館・読売新聞社編集『特別展 昆虫』(図録)読売新聞社・フジテレビジョン発行、2018年