ローレンツは「刷りこみ」を発見し、説明しました。動物行動学は、反省するきっかけをわたしたち人間にあたえてくれます。
NHK・Eテレ「100分 de 名著」、今月は「for ティーンズ」、第2回は、オーストリア出身の動物行動学者・コンラート=ローレンツ(1903~89) の『ソロモンの指環』を解説していました。



「刷りこみ」── ハイイロガンの子マルティナ
彼女はぬくぬくした羽毛の間から這いだしてきた。彼女はじぶんの 養い親つまり私を、片目でじっと仰ぎみて、大声で泣きだしたのである──ピープ……ピープ……ピープ……(略) ガンの子は首をのばしたまま、必死になってヴィヴィヴィヴィヴィ……とあいさつしながら、私めがけて走ってきた。


ローレンツは、ガンの子の世話をガチョウにまかせるつもりでした。ガチョウのあたたかい腹の下にガンの子をおしこみ、それで責任をはたしたつもりになっていました。しかし・・・

「刷りこみ」とは、鳥のヒナがごくみじかい一瞬の時間でおこない、それが長時間持続する学習現象です。人工的に孵化させた卵から生まれたガンの子が、最初にみたローレンツを親鳥だとおもいこんでしまうという面白い現象です。

ローレンツは、このガンの子をマルティナと名づけ、母親がわりとなっていっしょに野原を散歩し、一日中つきっきりで過ごし、やがて、ほかのヒナとあわせて十羽の子たちをつれてあるくことになりました。

「刷りこみ」は、遺伝による生まれつきのプログラムが、後天的な学習によって「解発」される(同種の動物の間で一定の要因が特定の反応や行動を誘発する)という彼の理論の根拠となっていきました。動物の行動は、生まれつきの遺伝的なものと後天的な学習とのバランスの結果であるということです。


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ローレンツのさまざまな記述に対して「動物を擬人化している」という批判がありましたが、わたしたち人間は人間の立場から動物をさぐるしかなく、そのためには動物の行動を人間的に翻訳して理解し、人間の言葉で表現する以外に方法はありません。

わたしたち人間は動物のなかから派生したものであり、動物という点で人間と動物は類縁関係にあり、人間の行動習性も動物的地盤に根差しているのですから、人間と動物は相似た性質をもっていて当然で、そのことをみとめざるをえません。

したがって動物行動学は、人間の行動の本質にもアプローチし、わたしたちにふかく反省するきっかけをあたえてくれます。「刷りこみ」が人間にもあるのはあきらかなことです。


▼ 注
NHK・Eテレ 100分 de 名著「for ティーンズ」

▼ 参考文献
『NHK 100分 de 名著 8月号 for ティーンズ』2018年8月1日