縄文の土偶の発見・発掘から蒐集、国宝誕生までの物語です。1995 年に、国宝第1号が指定されました。遺物をとりまく状況も重要です。
譽田亜紀子著『土偶のリアル - 発見・発掘から蒐集・国宝誕生まで -』(山川出版社)は、縄文時代の土偶の発見・発掘から蒐集、国宝の誕生までを 17 の物語で紹介しています。土偶とその出土状況の写真・絵とともに遺跡の場所や遺跡の見取り図を掲載、当時の発掘状況について解説し、遺跡ガイドとしても有用です。



  1. 「なんか出てきたで」からすべては始まった ― 相谷熊原土偶
  2. 霧ヶ峰のシャーマンとともに生きた土偶 ― 縄文のビーナス
  3. 壊れた数だけドラマがある ― 釈迦堂遺跡群の 1116 個の土偶
  4. この子だけ、なぜ残されたのか ― 縄文の女神
  5. 土器の一部になった人形 ― 人体文土器とは
  6. ヒントはこの土偶に隠されている ― 仮面の女神
  7. なんてったって、イノシシ ― 動物形土製品
  8. 修理を繰り返した縄文人 ― 合掌土偶
  9. 村人に愛されたストレッチ土偶 ― 上岡土偶
  10. ジャガイモ畑からこんにちは ― 中空土偶
  11. 首なし土偶と首なし遺体 ― 藤株遺跡
  12. 二万体を背負って立つ土偶 ― 遮光器土偶
  13. そして土偶はいなくなった ― 縄文から弥生へ
  14. 土偶と土器の密なる関係 ― 絆としての模様
  15. 天と地を繫げた絵師 ― 蓑虫山人の「笑う土偶」
  16. お預かりするという思想 ― 辰馬悦蔵と西宮文化
  17. 日本にはピカソが何人いるのか ― 縄文の国宝が誕生するまで

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1995 年、縄文時代の遺物として「縄文のビーナス」がはじめて国宝に指定されました。この陰には、文化庁文化財保護部美術工芸課(当時)の土肥孝さんの努力がありました。


私は考古学の分野のものであっても同時に、当時の人々の心が体現されている美術として見たいんだとはじめて周囲に話をしました。しかし、これは当時、よほど新奇な考えだったのか、みんなに笑われました。あんなものは美術として見るものではないと。それは、文化庁の調査官たち、そして同時に考古学研究者の標準的な見方でした。考古学は型式で見ていくものだと。でも、考古の資料として美的に判断していく、その必要性を感じていました。


土肥さんは、縄文の遺物を海外で展示するという作戦をとり、ベルギーの展覧会に土偶を出展しました。その展覧会は好評を博し、「日本には、ピカソが何人いるんだろう?」という反響がよせられました。このことが、土偶の学術的な側面にくわえて美的な側面を日本人に周知させていくことになったのでした。

考古資料が国宝に指定されるためには、遺物の発掘状況が詳細にわかっていなければなりません。その遺物のすばらしさだけではみとめられません。どこからどういう状況で出土し、その記録があり、報告書としてまとめられているかどうか。こうしたことから、とても有名であっても国宝には指定されてない土偶もあります。

このようなことは、国宝にかぎらずあらゆる遺物について重要なことです。遺物をとりまく状況はその遺物と同等に重要です。遺物だけをみて判断することはできません。その周囲の情報もふまえて仮説をたてなければなりません。

本書『土偶のリアル』は、そのような発掘状況をしるために役立ちます。そして興味のある遺跡がみつかったら、今度は実際にそこにいってみるとよいでしょう。現場にいってみればさらに理解がふかまり、縄文時代のイメージもふくらんでくるとおもいます。


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縄文の土偶や土器をみる - 譽田亜紀子著『ときめく縄文図鑑』-
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森の文明と循環の思想 - 梅原猛『縄文の神秘』-

▼ 注
特別展「縄文―1万年の美の鼓動」
特設サイト
会期:2018年7月3日 ~9月2日
会場:東京国立博物館 平成館

▼ 参考文献
譽田亜紀子著・武藤康弘監修・スソアキコ絵『土偶のリアル - 発見・発掘から蒐集・国宝誕生まで -』山川出版社、2017年2月15日