ユーラシア大陸の土器と縄文土器をみくらべることができます。古代の文明は世界の各所でオートジェニックに誕生しました。並行進化説が提唱できます。
特別展「縄文 ― 1万年の美の鼓動」が東京国立博物館で開催されています(注1)。第3展示室「美の競演」では、縄文土器と大陸の土器とを比較しながら理解をふかめることができます。
黄土高原(中国)
ユーラシア大陸の頭部、現在の中国一帯においては、およそ前 9000 年〜前 1800 年を新石器時代とし、この間に、粟や稲などの農耕栽培、土器づくり、家畜の飼育などが相前後して発達しました。土器は、おそくとも前 8000 年ごろからつくられるようになり、前 5000 年ごろには彩色をほどこした土器「彩陶」(さいとう)が登場します。
インダス川周辺地域
インド亜大陸の北西部では、前 2600 年〜前 1900 年ごろに、モヘンジョダロに代表される都市計画でしられるインダス文明がさかえました。さまざま工房がつくられて工芸品や日用品が生産されました。インダス川の西側にひろがるバローチスターン地方では新石器時代から農耕が連綿といとなまれて高度な地域文化が発展し、独特の彩文土器や土偶がうまれました。
西アジアと東地中海
前期青銅器時代(日本では縄文時代中期)の西アジアでは、城壁でかこまれ、宮殿や神殿をともなう都市が各地に形成されました。都市は、周辺の村落や農地をおさめることで都市国家へ成長していきました。この時期に、メソポタミアのアッカド帝国やエジプト古王国などが誕生しました。都市国家の支配者は、金属や貴石の流通を管理し、直属の工房で製品をつくらせました。一方、土器工房は、都市の産業地区や周辺村落にもつくられ、専業的な陶工たちが実用的な土器をつくりました。
ヨーロッパ
西アジアやエーゲ海に地理的にちかいバルカン半島では、前 3000 年ごろには青銅器時代に移行しました。ふるい伝統を継承した土器がつくられ、縄などをおしあてて装飾をほどこす在地の土器が特徴的です。おなじころの北西ヨーロッパでは新石器文化が展開していました。
ヨーロッパ
西アジアやエーゲ海に地理的にちかいバルカン半島では、前 3000 年ごろには青銅器時代に移行しました。ふるい伝統を継承した土器がつくられ、縄などをおしあてて装飾をほどこす在地の土器が特徴的です。おなじころの北西ヨーロッパでは新石器文化が展開していました。
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このように、日本が縄文時代だったころユーラシア大陸では、古代中国文明・インダス文明・メソポタミア文明・エジプト文明といったいわゆる古代文明が成立しました。
これは、「農耕牧畜革命」→「都市国家の成立」という歴史の過程によるものであり、このような古代文明地域では世界にさきがけて高度な文化が発達したとされてきました。
しかし今回の特別展をみれば、世界の先史土器のなかで縄文土器の造形美が群をぬいていることは誰の目にもあきらかです。これは日本人の自画自賛ではありません。
縄文時代の日本列島は大陸との交流はなく、縄文土器は、日本列島内で独自に(オートジェニックに)発達しました。そこで はぐくまれた文化も大陸の文化とはことなりました。大きな集落はあったかもしれませんが都市国家も権力構造も戦争も日本列島にはありませんでした。
このことは、都市文明が成立して高度な文明が周辺に伝播していく、高い所から低いところへ文化はながれるといった従来の常識を根本からくつがえします。
このようなことから、古代の文明は世界の各所で並行的に誕生したという仮説がたてられます。並行進化説といってもよいでしょう。たとえば古代アンデス文明などもこの仮説を支持します。
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今回の特別展「縄文」において、第3展示室「美の競演」は、国宝の展示にくらべてあまり注目されていないかもしれませんが本展のもうひとつの目玉です。世界各地の土器を比較するというとても貴重な企画です。
くらべるという方法はしばしば有効にはたらきます。世界各地の先史土器を実際にみくらべてみてどう感じるか。世界の全体的なことがわかるだけでなく、縄文の個性がいっそうきわだってみえてきます。是非くらべてみてください。
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縄文の土偶や土器をみる - 譽田亜紀子著『ときめく縄文図鑑』-
森の文明と循環の思想 - 梅原猛『縄文の神秘』-
古代アンデス文明展(まとめ)
▼ 注1
特別展「縄文―1万年の美の鼓動」
特設サイト
会期:2018年7月3日 ~9月2日
会場:東京国立博物館 平成館
※ 撮影コーナー以外は撮影は許可されていません。
▼ 参考文献
『特別展 縄文 ― 1万年の美の鼓動』(図録)NHK・朝日新聞社、2018年7月3日