生命科学の立場から睡眠について解説しています。睡眠は、心身の健康を維持するだけでなく、情報処理をすすめます。睡眠障害は、さまざまな疾患をもたらします。
『ナショナルジオグラフィック』2018年8月号の特集では「睡眠」について解説しています。

睡眠中に、情報の整理・編集・取捨選択・記憶など、情報の処理(プロセシング)が活発におこなわれていることは今ではよく知られています(注1)。したがって覚醒時に、外界(環境)から情報あつめ(インプット)をおこなったら、しっかり睡眠をとってプロセシングをすすめ、起床したらアウトプットをするという生活が基本的に重要です(図1)。

しかし今日、非常に多くの人々が睡眠をみだしています。日没後もあかるいからです。人間は、太陽光やスマホ画面などの光に多くふくまれる青色光(ブルーライト)にとりわけつよい影響をうけます。日没後、ねむりに体がはいろうとするときに青色光をあびると体内時計がくるってしまいます。また世界各地の大都市に LED 照明が普及しつつあり、LED は、消費電力がすくない半面、ねむりをもっともさまたげる青色光を多くふくみます。こうして「ねむらない地球」への移行とともに不眠症の人が急増しています。
それだけでなく現代社会では、試験前の緊張、家族の悩み、仕事のストレスなどによっても睡眠障害におちいる人がたくさんいます。
睡眠がみだれ、体内時計がくるい、昼夜のサイクルがおかしくなると、情報処理がすすまないだけでなく、糖尿病や心臓病・肥満・脳卒中・精神障害・うつ病・認知症などの疾患のリスクがたかまることが医学的にわかっています。それだけでなく睡眠不足は、生命の維持にそもそも重大な悪影響をもたらします。
睡眠は、体にとって食べ物以上に不可欠かもしれません。また日本でも、「夏時間」の導入を主張している人がいますが、絶対にやめたほうがよいです。そのような主張をする人は非医学的・非科学的な人です。
睡眠と覚醒のパターンは、昼と夜をもつ地球の環境に生物が適応して進化してきた結果です。どんな原始的な動物でもかならずねむります。このような適応と進化にさからって生きることはそもそも不合理なわけです。
しかしスマホなどが世界中に普及していくことにより「ねむらない地球」は今後ますます強化されていくでしょう。心身の不調をうったえる人々はさらに増えると予想されます。人間は、生命科学的にみて危機的状況におちいりました。もしかしたら「ヒトの時代」は最終段階にはいったのかもしれません。
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睡眠に関するこれまでの記事
▼ 注1
レム睡眠(LEM: rapid eye movement, 急速眼球運動)は、1953 年に、米シカゴ大学のユージン=アセリンスキーとナサニエル=クライトマンによって発見されました。鮮明な夢は、この段階でみていることがわかりました。ノンレム睡眠からレム睡眠にはいる一連のサイクルは心身の回復に最適な状態になっていると科学者たちはかんがえています。もっともおどろくべき発見は、脳は、感覚がたちきられても自律的にはたらくことがわかったことです。目覚めているときにはさまざまな制約がはたらいていますが、レム睡眠がはじまれば、脳は、自由にすきなことができます。みずから活動し、夢をうみだします。いわば脳の遊びの時間です。知的で洞察力にとみ、もっとも創造的になれる時間ともいえます。
▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック 日本語版』(2018年8月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2018年
人間の脳は覚醒時には外の世界から情報集めを、睡眠時には情報の統合を効率よく行う状態になる。つまり、脳の仕事は夜間には記録から編集に切り替わるということだ。この切り替えは分子レベルで起きる。入ってきた情報を機械的に記憶するのではなく、どの情報を保存し、どれを捨てるか、睡眠時の脳は活発に取捨選択している。
睡眠を奪われるとどんな悪い影響が出るか、世界中で実験しているようなものです。

睡眠中に、情報の整理・編集・取捨選択・記憶など、情報の処理(プロセシング)が活発におこなわれていることは今ではよく知られています(注1)。したがって覚醒時に、外界(環境)から情報あつめ(インプット)をおこなったら、しっかり睡眠をとってプロセシングをすすめ、起床したらアウトプットをするという生活が基本的に重要です(図1)。

図1 情報処理と睡眠のモデル
しかし今日、非常に多くの人々が睡眠をみだしています。日没後もあかるいからです。人間は、太陽光やスマホ画面などの光に多くふくまれる青色光(ブルーライト)にとりわけつよい影響をうけます。日没後、ねむりに体がはいろうとするときに青色光をあびると体内時計がくるってしまいます。また世界各地の大都市に LED 照明が普及しつつあり、LED は、消費電力がすくない半面、ねむりをもっともさまたげる青色光を多くふくみます。こうして「ねむらない地球」への移行とともに不眠症の人が急増しています。
それだけでなく現代社会では、試験前の緊張、家族の悩み、仕事のストレスなどによっても睡眠障害におちいる人がたくさんいます。
睡眠がみだれ、体内時計がくるい、昼夜のサイクルがおかしくなると、情報処理がすすまないだけでなく、糖尿病や心臓病・肥満・脳卒中・精神障害・うつ病・認知症などの疾患のリスクがたかまることが医学的にわかっています。それだけでなく睡眠不足は、生命の維持にそもそも重大な悪影響をもたらします。
飢餓状態に置かれた動物よりも、睡眠を奪われた動物のほうが先に死ぬ。
北米では、夏季に標準時間を1時間繰り上げる夏時間が始まった週の月曜日には、普段の月曜日に比べ、心臓病の発生件数が 24 %増え、車の衝突事故による死者も急増する。
睡眠は、体にとって食べ物以上に不可欠かもしれません。また日本でも、「夏時間」の導入を主張している人がいますが、絶対にやめたほうがよいです。そのような主張をする人は非医学的・非科学的な人です。
睡眠と覚醒のパターンは、昼と夜をもつ地球の環境に生物が適応して進化してきた結果です。どんな原始的な動物でもかならずねむります。このような適応と進化にさからって生きることはそもそも不合理なわけです。
しかしスマホなどが世界中に普及していくことにより「ねむらない地球」は今後ますます強化されていくでしょう。心身の不調をうったえる人々はさらに増えると予想されます。人間は、生命科学的にみて危機的状況におちいりました。もしかしたら「ヒトの時代」は最終段階にはいったのかもしれません。
▼ 関連記事
健康と老化の尺度 -「心の時計、体の時計」(Newton 2018.9号)-
睡眠に関するこれまでの記事
▼ 注1
レム睡眠(LEM: rapid eye movement, 急速眼球運動)は、1953 年に、米シカゴ大学のユージン=アセリンスキーとナサニエル=クライトマンによって発見されました。鮮明な夢は、この段階でみていることがわかりました。ノンレム睡眠からレム睡眠にはいる一連のサイクルは心身の回復に最適な状態になっていると科学者たちはかんがえています。もっともおどろくべき発見は、脳は、感覚がたちきられても自律的にはたらくことがわかったことです。目覚めているときにはさまざまな制約がはたらいていますが、レム睡眠がはじまれば、脳は、自由にすきなことができます。みずから活動し、夢をうみだします。いわば脳の遊びの時間です。知的で洞察力にとみ、もっとも創造的になれる時間ともいえます。
▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック 日本語版』(2018年8月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2018年