掘削船「ちきゅう」が紀伊半島沖で海底掘削を計画しています。プレート境界に関する仮説を検証します。「仮説→検証」という方法はあらゆる課題に応用できます。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年9月号の Topic では掘削船「ちきゅう」について紹介しています。



「ちきゅう」は、全長 210 メートル、幅 38 メートル、船底からの高さ 130 メートル、船の大きさをあらわす総トン数は 5 万 6000 トンをこえる世界最大の科学掘削船だ。「科学掘削」とは、石油や天然ガスなどを得ることを目的とした掘削とはことなり、「海底下の地層を掘り抜いて分析すること」や「掘った孔に装置を埋めこみ、地震を観測すること」などの科学的な目的をもった海洋掘削のことである。

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「ちきゅう」は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有する世界最大の科学掘削船であり、船上からのばしたパイプの先端で海底をほり、海底下の地層を採取することができます。2005 年に建造されて以来、15 回以上の航海をおこなってきました。

2018 年 10 月からは、紀伊半島沖で半年間の掘削をおこない、巨大地震の発生時にうごくとかんがえられている、海面下 7000 メートルにある断層を掘削する計画です。

このあたりの海底は、ユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートがしずみこんでおり、2つのプレートの境界になっているとかんがえられています。

しかしこまかくみると、フィリピン海プレートのしずみこみとともに、フィリピン海プレートの上に堆積した海底堆積物もひっぱられてユーラシアプレートの下にしずみこんでおり、この付近では下位から、フィリピン海プレート、堆積物、ユーラシアプレートの順にかさなっていると想像されています。

  • ユーラシアプレート
  • 堆積物
  • フィリピン海プレート

今回は、これらのうち、ユーラシアプレートと堆積物の境界までを掘削し、断層を確認し、地層を構成する岩石を採取するという計画です。地震波などの解析(計算)によってこれまでに推定されていたプレートや地殻の構造、構成岩石などを、実際に物質を観察して確認しようというのです。

テレビの解説などでよくつかわれるプレートや地球の内部構造の絵は、実は、地震波や重力波、その他のデータにもとづいて計算され想像された結果であり、とくに海洋底については実際に観察された事実ではありません。海洋底の探査は意外にもほとんどすすんでいません。

つまり「絵」は実は仮説であり、本当にそうなっているのかどうか、「ちきゅう」が検証しようとしているわけです。仮説は想像、検証は実証といってもよいでしょう。

仮説(想像)→ 検証(実証)

この「仮説→検証」という方法は、海洋底探査以外でも、あらゆる課題に応用することができます。

海洋底を掘削することは非常に困難で、きわめて高度な技術が要求されるため、探査がおくれていました。「ちきゅう」を建造する意義がここにあったわけです。

「ちきゅう」は、地球最後のフロンティアにどういどんでいくのか。「ちきゅう」には巨額な国費が投入されているわけですし、わたしたち一般の国民もその検証結果に注目していくべきでしょう。


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▼ 参考文献
『Newton』2018年9月号、ニュートンプレス、2018年9月7日