「心の時計」と「体の時計」について生物学・医学的に検討しています。これらは、健康と老化の尺度としてつかえます。みだれていたらただちに修正します。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年9月号の連載「時間を科学する」第2回(終)では、「心の時計」と「体の時計」について解説しています。



大人は日々に慣れて新たに体験する出来事が減るうえ、子供より代謝も落ちているので、1年も短く感じられがちだと考えられます。

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「あっという間に1年がすぎてしまった」
大人になってから(年をとってから)、子供のときよりも1年がみじかく感じられるようになったという人がいるとおもいます。大人になると、おなじことのくりかえしが多くなり、あたらしく体験する出来事がへるため、時間がみじかく感じられるとかんがえられています。

これに対して子供は、あたらしい遊びや勉強にとりくむことが多く、日常のこまかな変化にも意識をむけているため、時間をながく感じるとされます。

時間がみじかく感じられるようになるのは老化現象の一種といってもよいでしょう。ルーチンワークばかりやっている人は要注意です。

このような老化をおくらせるためには、大人になってからもあらたな課題を設定して積極的にそれにとりくみ、旅行などをして発見をくりかえし、そして情報処理をすすめるのがよいです。

他方で、たのしいときは時間はみじかく感じられ、つまらない時間はながく感じられることもあります。たのしい時間はすぐにすぎさり、つまらないことはなかなかおわりません。

本当にたのしい時間は極限までいくと、ある行為が、一瞬の出来事だったように感じられたにもかかわらず、時計をみたら5時間も経過していたというようなことがおこります。ひとつのことに我をわすれて没入したことがある人はこのような体験をもっています。「永遠の今」とでもいいたくなるような現象です。無我無心の境地といってもよいでしょう。

このうな心境と、老化による空虚な時間感覚とはまったくちがうことを自覚しなければなりません。




朝に陽の光を浴びなかったり、夜にスマートフォンの画面などを見つづけていたりすると、体内時計が昼夜のリズムに対して遅れていってしまいます。

とくに、スマートフォンの画面などに含まれる、波長 460 ナノメートル前後の青色光の影響が大きいとされています。目から脳へ情報を送る視神経の細胞の一部に、青色光に反応しやすい分子があり、その分子が反応したという情報が中枢時計に入力され、影響がおよぶのです。


生物学・医学でいう「体内時計」とは、「1日のリズムを生みだすしくみ」のことです。体内時計は専門的には、「概日リズム」とよばれます。体内時計のすすみに応じて、睡眠または覚醒をうながすホルモンが分泌されます。

体内時計のしくみは全身の細胞1個1個すべてにあり、「末梢時計」とよばれています。これらのはたらきによって臓器や組織ごとに必要なリズムがたもたれます。

これに対して、両目の奥にある脳の部位には、全身の末梢時計の “指揮者” にたとえられる「中枢時計」があります。これは、全身にいきとどいている自律神経や血液(ホルモン)を通じて、末梢時計の時刻あわせをおこなっています。

このような体内時計がみだれると体の不調があらわれます。メタボリック症候群や心筋梗塞のリスクがたかまります。年をとってから認知症になりやすくなります。体内時計と体温のリズムが大幅にずれてしまった場合は、うつ状態とその逆の躁状態をくりかえす「双極性障害」と似た症状をひきおこすこともあります。

朝食をきちんとたべたり、夜 10 時以後の食事をさけることなども体内時計を正常にたもつために必要です。




以上のように、「心の時計」と「体の時計」は、健康な生活をつづけ、老化をおくらせための重要な尺度になります。あらためてこれらの「時計」を点検して、もしみだれていたら、ただちに修正しなければなりません。

『Newton』の今回の連載「時間を科学する」は、時間というあらたな観点から人生をとらえなおすよい機会でした。時間には、量的な側面だけでなく、質的な側面もあることがわかりました。通常の人生論や健康法とはちがうおもしろさがありました。


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▼ 参考文献
『Newton』2018年9月号、ニュートンプレス、2018年9月7日