味覚と辛味はそれぞれ独立した感覚です。辛味受容体は舌だけでなく胃や腸の神経にもあります。適度な辛味を心がけるのがよいです。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年9月号の「身近な "?" の科学」では「辛味」について解説しています。



辛味の成分を検知する「辛味受容体(TRPV1というタンパク質)」は、味神経とは別の神経(三叉神経)の表面にあり、ここに辛味物質が付着すると、脳に辛さの情報が送られる。

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人の基本的な味覚は、甘味・うま味・塩味・酸味・苦味の5種類であり、これらの味の成分は、舌の表面にある「味蕾(みらい)」という部位で検知されます。味蕾の細胞の表面には「味覚受容体」という “センサー” があり、味の成分がそこで検知されると、「味神経」が興奮し、電気信号が脳におくられ、それを脳が処理して味がわかります。

これに対して辛味成分は「辛味受容体」で検知され、このような味覚とは独立した感覚になっています。

ただし味覚の情報と辛味の情報は脳で統合されるため、辛味も味覚の一部のように感じられたり、辛味がほかの味覚に大きな影響をあたえたりします。

また味覚受容体とはちがい辛味受容体は舌だけでなく胃や腸の神経にも存在します。辛い料理をたべたとき、胃や腸でも「辛さ?」を感じるのはこのためです。

辛いものをたべたときにおこる体の変化としてはつぎのようなことがあります。

  • 汗をかく
  • 体が熱く感じる
  • 鼻水や涙がでる
  • 食欲がます
  • 下痢や腹痛をおこす

辛味受容体は胃や腸にもあるため、辛味物質によって体内の受容体が活性化されると体全体が熱くなったと錯覚しますが(灼熱感)、実際には体温はあがっていません。また交感神経の活性化がひきおこされて発汗がうながされます。

とても辛いものを口にいれてしまったときは、牛乳など、つめたくて油になじみやすい飲み物が辛味物質をながすので効果的です。水は、舌の内部にはいりこんだ辛味物質をながすことができないため、ほとんど効果がありません。

辛味物質は、トウガラシやサンショウ・コショウなどにふくまれ、これらを料理にくわえると風味がまし、料理がおいしくなり、食欲もまします。しかしつよい辛味は、下痢や腹痛の原因になりますので、辛味は適度にしたほうがよいです。外国旅行などのときにも注意しなければならないことです。味覚とは仕組みがややちがう辛味とうまくつきあっていくことが大切でしょう。


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▼ 参考文献
『Newton』2018年9月号、ニュートンプレス、2018年9月7日