科学者の軍事研究が再開されました。多くの市民が懸念を表明しています。社会的責任を科学者はもたなければなりません。
池内了著『科学者と戦争』(岩波新書)は日本の軍学共同の進展をレポートし、科学者の社会的責任について言及しています。また軍事科学者の悲惨な末路を予想します。
日本の科学者は、明治以来の富国強兵策のもとで近代化と戦争のための研究をおこなってきました。第二次世界大戦下では原爆の研究開発もおこないました。
しかし敗戦。そのふかい反省のもとで、戦後は、平和のための科学に徹しました。日本は、科学者が軍事研究をしないすぐれた平和国家になりました。
ところが最近、様子がかわってきました。科学者の軍事研究が再開されたのです。
軍事研究に手をだす科学者があらわれた背景には、科学研究費の削減、予算配分の選択と集中により、研究費がたりない研究者がすくなからず存在するようになったことがあります。研究費を獲得するためには軍事研究もやむをえないというわけです。
また敗戦時にふかく反省した人々はすでにほとんどいなくなり、反省したことのない戦後世代の科学者の時代になったということもあります。
そしてさらに、軍需品の輸出もはじまりました。
「戦争ビジネス」でもうけよう! この背景には、日本経済の衰退という問題があります。アメリカをはじめ世界の大国は軍需産業にどこも力をいれているではないか。どうして日本だけが真面目にやっていなければならないのか、国際標準からずれているというのです。
また将来の核武装の可能性を検討する者もいて、そのためには科学者の協力が不可欠であり、原子力技術をもちつづけるために原発も温存しておかなければならないとされます。
わたしがかよっていた中学校(公立)のクラス担任教師の言葉をおもいだしました。
「日本にだって原爆をつくる能力があったんだ。戦争があるから科学技術が発展するんだ。日本は軍事力を強化しなければならない」
これらの事例をみていると、人間は利己的な存在であることをあらためて認識させられます。日本は、平和路線を、民族や国家の伝統にまで発展させることはできませんでした。
しかし「軍学共同反対アピール署名の会」によると、軍学共同の進展につよい懸念をもつ市民が非常に多いとのことです。科学者に裏切られたという感情をもった人々もたくさんいます。科学者は、世界の平和のため、人類の幸福のため、正義のために研究をおこなうべきだと大多数の市民がかんがえています。今後の市民活動、市民社会の成熟に希望があります。
科学者は、自分さえよければいいというのではなく、社会的責任をもたなければなりません。ガンジーの言葉が印象的です。
広島大学をはじめ、軍事研究を拒否している健全な大学はまだ沢山あります。いつまでもちこたえられるかという問題はあるかもしれませんが頑張ってもらいたいとおもいます。
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▼ 参考文献
池内了著『科学者と戦争』(岩波新書)岩波書店、2016年6月21日
▼ 注1
防衛装備庁は29日、自衛隊の防衛装備品に応用できる大学などの最先端研究を公募して助成する「安全保障技術研究推進制度」の配分先14件を発表した。3年目となる今年度(2017年度)は予算額が110億円と昨年度の6億円から18倍に増額されており、応募総数は104件と昨年度の44件(配分先は10件)から倍以上に増えた。同制度には「軍事研究に当たる」との批判が強く、科学者の代表機関・日本学術会議が今年3月、大学などの応募に否定的な声明を出した。しかし、大学からの応募は22件(22大学)で、昨年度の23件(21大学)とほぼ同じだった。公的研究機関からの応募は27件(昨年度11件)、企業・団体からの応募は55件(同10件)で、ともに増加した。(毎日新聞、2017年8月29日)
第1章 科学者はなぜ軍事研究に従うのか
第2章 科学者の戦争放棄のその後
第3章 デュアルユース問題を考える
第4章 軍事化した科学の末路
国の施策のために、第二次世界大戦中ほとんどの科学者個人個人は好むと好まざるとにかかわらず、戦争研究に携わらずをえなかった。
原爆研究開発も行われた。理化学研究所の仁科芳雄は陸軍と共同で「ニ号研究」を進め、濃縮ウラン製造のための実験を行なった。京都大学の原子核物理学者荒勝文策は海軍と組んで「F硏究」を行なった。これらの研究には、後に学会をリードする多くの若手研究者も参加していた。
日本の科学者は、明治以来の富国強兵策のもとで近代化と戦争のための研究をおこなってきました。第二次世界大戦下では原爆の研究開発もおこないました。
しかし敗戦。そのふかい反省のもとで、戦後は、平和のための科学に徹しました。日本は、科学者が軍事研究をしないすぐれた平和国家になりました。
ところが最近、様子がかわってきました。科学者の軍事研究が再開されたのです。
個々の研究者を軍事研究に参画させるために防衛省が打ち出してきたのが「安全保障技術硏究推進制度」と称する競争的資金制度である。2015 年度に、1件あたり年間最大 3000 万円程度、総額3億円の予算で開始された。最大3年間継続することが可能、となっている(注1)。
この制度の応募資格には、大学や硏究機関の研究者とともに、民間企業の研究者も含まれている。「軍セクターによる学セクターの取り込み」のみならず、産業界も巻き込んでの「軍産学連携」を目論んでいることが読み取れる。
軍事研究に手をだす科学者があらわれた背景には、科学研究費の削減、予算配分の選択と集中により、研究費がたりない研究者がすくなからず存在するようになったことがあります。研究費を獲得するためには軍事研究もやむをえないというわけです。
また敗戦時にふかく反省した人々はすでにほとんどいなくなり、反省したことのない戦後世代の科学者の時代になったということもあります。
そしてさらに、軍需品の輸出もはじまりました。
金を投じたからといって、イノベーションは一朝一夕に実現するものではない。そこで何らかの種が欲しいというわけで、軍事化を目指す政治路線と歩調を合わせて「安全保障」に目がつけられることになった。(中略)軍需品を輸出すると「死の商人」と言われるかもしれないが、どこの国でもやっていることで国際常識のようなものだ、というわけである。とりあえずの作戦は、ODA(開発途上国援助)を武器(や原発)の輸出機会として利用するという、国家が前面に立った「武器輸出外交」だろう。
「戦争ビジネス」でもうけよう! この背景には、日本経済の衰退という問題があります。アメリカをはじめ世界の大国は軍需産業にどこも力をいれているではないか。どうして日本だけが真面目にやっていなければならないのか、国際標準からずれているというのです。
また将来の核武装の可能性を検討する者もいて、そのためには科学者の協力が不可欠であり、原子力技術をもちつづけるために原発も温存しておかなければならないとされます。
わたしがかよっていた中学校(公立)のクラス担任教師の言葉をおもいだしました。
「日本にだって原爆をつくる能力があったんだ。戦争があるから科学技術が発展するんだ。日本は軍事力を強化しなければならない」
これらの事例をみていると、人間は利己的な存在であることをあらためて認識させられます。日本は、平和路線を、民族や国家の伝統にまで発展させることはできませんでした。
しかし「軍学共同反対アピール署名の会」によると、軍学共同の進展につよい懸念をもつ市民が非常に多いとのことです。科学者に裏切られたという感情をもった人々もたくさんいます。科学者は、世界の平和のため、人類の幸福のため、正義のために研究をおこなうべきだと大多数の市民がかんがえています。今後の市民活動、市民社会の成熟に希望があります。
科学者は、自分さえよければいいというのではなく、社会的責任をもたなければなりません。ガンジーの言葉が印象的です。
人格なき学問、人間性が欠けた学術にどんな意味があろうか
広島大学をはじめ、軍事研究を拒否している健全な大学はまだ沢山あります。いつまでもちこたえられるかという問題はあるかもしれませんが頑張ってもらいたいとおもいます。
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誰もがアイヒマンになりうる - 100 de 名著:アーレント『全体主義の起源』-
▼ 参考文献
池内了著『科学者と戦争』(岩波新書)岩波書店、2016年6月21日
▼ 注1
防衛装備庁は29日、自衛隊の防衛装備品に応用できる大学などの最先端研究を公募して助成する「安全保障技術研究推進制度」の配分先14件を発表した。3年目となる今年度(2017年度)は予算額が110億円と昨年度の6億円から18倍に増額されており、応募総数は104件と昨年度の44件(配分先は10件)から倍以上に増えた。同制度には「軍事研究に当たる」との批判が強く、科学者の代表機関・日本学術会議が今年3月、大学などの応募に否定的な声明を出した。しかし、大学からの応募は22件(22大学)で、昨年度の23件(21大学)とほぼ同じだった。公的研究機関からの応募は27件(昨年度11件)、企業・団体からの応募は55件(同10件)で、ともに増加した。(毎日新聞、2017年8月29日)