時代を区分して整理すると土器の歴史がわかりやすくなります。縄文時代の中期に縄文時代のピークがおとずれました。火焔型土器はそのシンボルでありモデルでした。
特別展「縄文 ― 1万年の美の鼓動」が東京国立博物館で開催されています(注)。 縄文時代の土器はたくさんの種類があってわかりにくい感じがしますが、縄文時代を3つの時期に区分してそれぞれの土器を整理してみるとすっきりします。


草創期(紀元前1万1000年〜紀元前7000年)〜前期(紀元前4000年〜紀元前3000年)
口が広く、底の深い土器がよくつくられた。土器の完成度はこのころからすでに高く、縄や貝などの道具を押しつけて、表面に文様がほどこされたものが多くみつかっている。また、土器にはすすの跡がのこっており、 煮炊きに使われていたことがわかる。

中期(紀元前3000年〜紀元前2000年)
より複雑な造形・装飾がほどこされるようになる。土器が日常的な用途だけでなく、祭祀などの特別な用途にも使われるようになったようだ。

後期(紀元前2000年〜紀元前1000年)〜晩期(紀元前1000年〜紀元前400年)
土器の形は比較的シンプルになり、表面には精緻な文様が刻まれるようになる。


縄文土器の最高傑作「火焔型土器」(国宝)があらわれるのは縄文中期です。炎をおもわせる造形から「火焔型」と名づけられました。煮炊きにつかわれていたとかんがえられますが、邪悪なものを一切よせつけない火焔のみごとな造形から祭祀などにもつかわれていたにちがいないと想像されています。芸術家・岡本太郎はこの火焔型土器をみて大きな衝撃をうけました。


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火焔型土器(東京国立博物館公式ミニチュア)
(平行法で立体視ができます)


縄文時代後期〜晩期になると、深鉢形の土器だけでなく、急須や器や香炉の形をしたものなど、土器の多様化がいちじるしくすすみ、表面の文様もいっそう精緻になっていきます。

このように、縄文時代の草創期〜前期には、比較的シンプルな鉢形・壺形の土器がつくられていましたが、中期になると、土器文化が一気に花ひらいて火焔型土器がつくられました。それは、それまでの土器文化の集大成であったといってもよいでしょう。そしてその後、後期〜晩期になると土器は洗練され、また多様化していったわけです。

このようにみてくると縄文時代は、その中期に、発展の大きなピークをむかえたとかんがえられます。そのシンボルが火焔型土器です。やや抽象的ないいかたではありますが、縄文土器は、火焔型土器にはいり、火焔型土器からでたとみなすと、複雑な土器文化の全体像がつかみやすくなるとおもいます。

遺跡の発掘調査からは、縄文時代の中期は人口もピークをむかえ、大規模な集落が各地で形成されたことがあきらかになっています。

縄文時代にかぎらず歴史をみていると、それぞれの時代にはそれぞれにピークがあることがわかります。たとえば江戸時代であれば元禄がピークでした。

また上記のような各時期の土器の特徴は日本全国でほぼ共通しているそうです。ということは、物資や文化の交流が各地でおこっていたということになります。ある地域でいい土器がつくられると、よそからきた人がそれをもらってかえっていったり、地元にかえってからその土器をまねてつくったりしたでしょう。

集大成によってすぐれたモデルがどこかでできあがると、かならずしも物が移動しなくても、模倣(あるいはコピー)という方法で周辺各地にひろがっていきます。最初にモデルをつくった人(あるいは集団)は天才だったかもしれません。


試作 → 集大成 → モデル → 模倣 → 拡散 




縄文時代がおわり弥生時代になると稲作農耕民が大陸からやってきました。国立科学博物館の篠田謙一博士らの分子人類学的研究によると、「本州や九州・四国にすむ(現在の)日本人のもつ遺伝子は、大部分が弥生時代以降に大陸からわたってきた人々から受け継いだものである」ことがわかっています。現代の日本人には、縄文人から受け継いだ遺伝子はそれほど多くはありません。

縄文時代と弥生時代のあいだには大きな「断層」があります。縄文時代のすぐれた伝統は弥生時代にひきつがれることはありませんでした。日本人の祖先である縄文時代人は、その後の渡来人に圧倒されてしまったのでしょうか。

こうして縄文文化は、ふかく ながいねむりにつくことになりました。日本の「深層文化」となりました。

しかしその「発掘」が今すすんでいます。近年のその成果はいちじるしく、おどろくべき発見があいついでいます。


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▼ 注
特別展「縄文―1万年の美の鼓動」 
特設サイト
会期:2018年7月3日 ~9月2日
会場:東京国立博物館 平成館
※ 撮影コーナー以外は撮影は許可されていません。

▼ 参考文献
『特別展 縄文 ― 1万年の美の鼓動』(図録)NHK・朝日新聞社、2018年7月3日
「縄文人への思い」(篠田謙一)科博メールマガジン, 795, 2018年7月12日
「縄文の美 人々の祈りがこめられた“芸術品”の数々」Newton, 2018年8月号、ニュートンプレス、2018年8月7日