文章を書くまえにかんがえをまとめるための技術として「こざね法」があります。並列的な編集から直列的な表現へすすみます。
国立民族学博物館初代館長の梅棹忠夫さんの『知的生産の技術』(岩波新書)は、含蓄のある言葉がたくさんちりばめられていて、いま読んでもためになる本です。とくに、第11章(最終章)「文章」は、文章化(作文)をすすめるうえでとても参考になります。




ただしこの本が出版された当時は情報処理という用語が一般的ではなかったためか、人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)という観点からの説明は不足しているようにおもいます。

そもそも「知的生産」とはよくできた知的なアウトプットをだすことです(図1)。そのためには、インプットとプロセシングが前段階として必要です。インプットとは見たり、聞いたり、読んだり、嗅いだり、味わったりすることです。プロセシングとは、イメージしたり、記銘したり、想起したり、アイデアをおもいついたりすることです。

180619 知的生産
図1 知的生産とはアウトプット


そして文章を書くこと(作文をすること)はアウトプットのなかのもっとも重要な方法です(図2)。

180619 文章化
図2 文章をアウトプット


しかし文章を書く(打つ)という作業がやっかいな場合があります。かんがえがまとまらず、すらすらと書けないことがあります。そのようなときのために梅棹忠夫さんが提案したのが「こざね法」です。

まず、小さな紙きれ(今日では付箋がつかえます)に、主題に関係のあることがらを1枚1項目でどんどん書きだしていきます。ひととおりでつくしたら、それらの付箋を机のうえにおいて、つながりのある付箋をいっしょにならべます。論理的にまとまりのある一群の付箋のあつまりができたら、それに見出しをつけていきます。いくつもの見出しができたら、それらを見ながら文章全体として構成をかんがえます。

このような作業は並列的な編集をすすめることだといってよいでしょう。どうもうまく書けないというときにはやってみる価値があります。学校の作文やレポートなどのためにもつかえます。

このような並列的な編集によってかんがえがまとまるとおのずと文章は書けてしまいます。文章とは、前から後ろにながれていくものですから、文章化とは直列的な表現といってよいでしょう。

すなわち文章を書くという行為は、「並列的な編集」→「直列的な表現」という順序・構成になっているわけです。並列的な編集は空間的な作業、直列的な表現は時間的な作業といってもよいです。

並列的な編集 → 直列的な表現
空間的な作業 → 時間的な作業

並列的な編集については、なれてきたら心のなかでやってしまってもよいです。その場合でも、心のなかに大きな空間をつくって、そのなかでイメージを操作していくということになります。




わかりやすい文章を書くためにはとにかく練習が必要です。練習の第一歩は、質より量の戦略でとにかく書きはじめることです。そして速く書く練習をくりかえします。

また主題(テーマ)をかならず決めてから書くようにします。主題を決めて、ニーズにあった文章を書くように心がけます。そうすれば、関心・興味・集中で文章はふくらんでいきます。

文章とは普通は、何らかの体験にもとづいて書かれますので、現場体験を想起することも重要です。それまでは何気なく見ていた物事を文章化によって意識化するようにします。

そのとき、いろいろな体験のそれぞれをひとまとまりでとらえるようにするとよいです。体験のひとまとまりが情報のひとまとまりになり、情報用語でいうとそれはファイルということになります。
 
いくつものファイルをつくり、さらにそれらをくみあわせて言語にしていきます。あれもこれもということではなく、情報を圧縮・統合して書きだすようにします。アウトプットの本質は情報の統合にあります。


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▼ 参考文献
梅棹忠夫著『知的生産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年7月21日