人体をしるための基礎的な用語が理解できます。ゲノムとエピジェネティクスに注目します。
特別展「人体 - 神秘への挑戦 -」が東京・上野の国立科学博物館で開催されています(注)。第2会場では、「人体理解の将来へ向けて」と題して DNA・遺伝子・ゲノムについて展示・解説しています。
「DNA」とは、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)という物質のことです。糖の一種であるデオキシリボースとリン酸そして塩基という3つのことなる化学物質から構成されており、この3つがくみあわさった構造がくりかえされて鎖状につらなっています。
「遺伝子」とは、DNA の配列のなかに散在する、遺伝情報が書かれた部分(場所)をさし、人体をつくる設計図にあたります。
そしてある生物がもっている遺伝情報の全体を「ゲノム」とよびます。ヒトゲノムは、ヒトひとりをつくるために必要な遺伝子のセットです。
- DNA:物質
- 遺伝子:DNA の部分
- ゲノム:遺伝子情報の全体
遺伝子やゲノムをしらべることにより、人体に関するさまざまな情報をえることが可能になり、ある種の病気のなりやすさが遺伝子によって規定されていることなどもあきらかになってきました。また古代人の DNA を復元することにより、古代人の姿を復元することもできるようになりました。
今後、ゲノムの解析がさらにすすむことで、どのようなプログラムによって人体がつくられ、維持されているかがもっとくわしくわかるようになるでしょう。
また DNA を操作する技術が医学に応用され、再生医療や遺伝子治療といった分野がも急速に進展しています。
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わたしたちの人体をつくっている細胞は 37 兆個ほどあり、筋肉や内臓の細胞など、細胞の種類は 200 種類ほどあります。これらの細胞はもともとは1個の受精卵から分裂してできたもので、もっている DNA はみなおなじです。
しかし形やはたらきがことなるさまざまな細胞があるのは、そのなかではたらいている遺伝子がことなっているためです。この、DNA の配列をかえずに細胞の性質だけを変化させるメカニズムを「エピジェネティクス」といいます。
たとえば、一卵性双生児はおなじゲノムをもっていますが、エピジェネティクスによって個人差が生じます。一卵性双生児でも、ある種の疾患にかかる確率はことなることもしられています。
あるいは第二次世界大戦の末期、食糧難のオランダで、栄養不良の母親からうまれた子供たちは体が小さく、さまざまな病気にかかりやすいことがわかりました。これは母体が、エピジェネティクスな変化をうけ、子供たちにその性質がひきつがれたからだとされています。
このように人体は、ゲノムによるプログラムで成長し維持されるだけでなく、環境要因がエピジェネティクスをおこし、変化がつけくわえられます。
- ゲノム:プログラム
- エピジェネティクス:環境要因
プログラムと環境要因の相互作用をさらに解明していくことが人体をもっとふかく理解することにつながります(図)。
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▼ 注
特別展「人体 神秘への挑戦」
国立科学博物館のサイト
特設サイト
会場:国立科学博物館
会期:2018年3月13日~6月17日
※ 一部をのぞき写真撮影は許可されていません。
▼ 参考文献
国立科学博物館『特別展 人体 神秘への挑戦』(図録)、NHK・朝日新聞社発行、2018年