人工知能(AI)の開発がすすんでいます。AI はロボットとむすびついて人間の活動を補助します。人間は、創造的な仕事ができるように努力しなければなりません。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』(2018年6月号)の Newton Special では人工知能について解説しています。


Amazon :Newton 2018.6号
Rakuten:Newton 2018.6号

Google 社傘下のイギリス企業 DeepMind 社が開発した囲碁 AI「AlphaGo」は、2016 年に世界トップ棋士である韓国のイ・セドル九段との五番勝負に勝ち、AI のめざましい進化を世界に印象づけました。2017 年には、人類最強といわれた中国の柯潔九段にも勝利しました。(AI:Artificial Intelligence, 人工知能)


AlphaGo はその後、「AlphaGo Zero」そして「AlphaZero」へ進化し、囲碁のみならず将棋とチェスにおいても世界最強になりました。AlphaZero は、過去の対局データをもはや必要としません。自己対局をひたすらくりかえし、勝ちにむすびつく手筋を自分で学習できるのです。

こうして特定の課題にかぎれば、もやは AI は人間をこえたといえます。

AI の進化をもたらしたのは「ディープラーニング(深層学習)」とよばれる技術です。これは、AI がおこなう「機械学習」のしくみのひとつであり、人間の脳をまねた仮想的なネットワークをプログラム上において多層につみかさねることで実現されます。

ディープラーニングは、最近普及がすすんでいる画像認識や、「Google Home」や「Amazon Echo」などのスマートスピーカーの音声認識、Tesla 社や UBER 社などの自動運転にもすでに採用されています。

Google 社などの大企業は、AI の研究開発に多額の投資をおこない、優秀な研究者・技術者を世界中からあつめています。また中国は、2030 年までに世界一の AI 大国になるという目標を国家戦略としてかかげています。世界の動向に無関心ではいられません。




しかし AI は、どんな課題にも対応できるわけではありません。


最大の問題は「事前に用意していない課題や問題にはまったく対応できない」ことです。


これは、試験勉強・受験勉強の訓練だけをやって大人になってしまった人間とよく似ています。未知の状況に対処できないのです。未知の課題にとりくめず、未知の情報を処理できないということは、つまり創造性がないということです。

そこで「AGI: Artificial General Intelligence(汎用人工知能)」の概念が提唱されるようになりました。世の中には、あらかじめ想定できないことがよくおこります。AGI は、そのような想定していない未知の課題にも対応できる AI です。具体的には、大量のデータから必要な知識を獲得するだけでなく、獲得した知識をうまくくみあわせて、別の課題や場面に転用・応用しながら、あたらしい問題を解決していくということです。専門家は、人間と同程度の知性をもつ AGI を 2030 年までにつくることをめざしています。




わたしが注目したのは、「大量のデータから必要な知識を獲得するだけでなく、獲得した知識をうまくくみあわせて、別の課題や場面に転用・応用しながら、あたらしい問題を解決していく」というところです。

しかしこれは、AI よりも人間に必要なことではないでしょうか。たとえば官僚や役人をみればあきらかなように、知識を獲得するということでしたら試験勉強・受験勉強ですでにやっています。問題はその先です。その先の、知識(情報)をくみあわせるというところがとても重要です。あらたなくみあわせを発見することによって応用ができます。問題解決の可能性がみえてきます。未知の領域にふみこめます。

このように AI の大きな課題は人間の課題とよく似ています。そもそも AI は、人間(の脳)をお手本(モデル)にして開発されてきたのですから当然であるともいえます。




ところが Apple 社の創業者の一人であるスティーブ・ウォズニアックはつぎのように予言しました。


知らない家に上がってコーヒーを入れる機械は我々は決してつくれないだろう。


このようなことができればそれは AGI とよべますがそれは無理だという見解です。これは「コーヒーテスト」あるいは「ウォズニアック・テスト」とよばれ、AGI の判定基準とされています。

わたしは、ウォズニアックの見解に賛成です。

むしろ AI は、ロボットとむすびついて発展していくのではないでしょうか。たとえば物をはこぶロボット、介助ロボット、自動運転をする自動車・・・。自動車はまさに「自動車」になろうとしています。

いいかえれば、力仕事や規則的な作業、きまりきった仕事などはロボットがやるようになり、人間は、創造的な仕事をするようになるということです。またそうでなければ心身の健康を人間はたもてません。したがって人工知能技術者は「汎用」がどうのこうのといっているのではなく、人々を補助するロボット(道具)をつくったり、人間の創造性の研究をしたりしたほうがよいでしょう。


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人間は、創造的な仕事をする
イノベーションのジレンマにおちいらない

▼ 参考文献
『Newton』2018年6月号、ニュートンプレス、2018年6月7日