体毛がなくなったときに衣服をきはじめました。それは人間文化のはじまりでもありました。人間は、多様な自然環境に適応していきました。
グレアム=ロートン・ジェニファー=ダニエル著『起源図鑑』の第4章(09)では「衣服の起源」について解説しています(注)。

わたしたち人間は、ほかの動物たちとちがって全身が毛でおおわれておらず、そのかわりに衣服をきます。衣服をきることは直立二足歩行とならんで人間を人間たらしめる大きな特徴です。

それでは、わたしたち人間はいつから衣服をきるようになったのでしょうか? それは、霊長類の進化にともなって体毛がなくなったときだとかんがえられます。それでは体毛はいつなくなったのか?

近年、シラミ研究からのアプローチが注目されています。


ほとんどの霊長類には、それぞれ固有の一つの種のシラミが寄生している。ところが、まばらな体毛と衣類をまとったわたしたち人間は、3つの種類を授かった。アタマジラミ、ケジラミ、コロモジラミだ。


アタマジラミは頭髪に、ケジラミはおもに陰毛に、コロモジラミは衣服についています。

かつて人類が体毛で全身がおおわれていたときには、アタマジラミの祖先のヒトジラミが全身に寄生していました。

その後、わたしたちの祖先が体毛をうしなって頭髪と陰毛などがのこると、陰毛には、ヒトジラミは寄生できないので、ケジラミが寄生するようになりました。ヒトジラミとケジラミが進化論的にみてわかれたのは遺伝子研究により約 330 万年前だと推定されています。するとそのころまでには、わたしたちの祖先は体毛をうしない、頭髪と陰毛などを別々にもっていたことになります。これは、わたしたちホモ・サピエンスが誕生するよりもはるか前のことです。

そしてわたしたちの祖先が何かで体をおおうようになるとコロモジラミが寄生するようになりました。コロモジラミはアタマジラミの近縁種であり、この2種が分岐したのは約8万 3000 年前もしくは約 17 万年前という分析結果がえられています。

わたしたちホモ・サピエンスが、アフリカ大陸をでて大規模に世界に拡散しはじめたのは約6万年前だと推定されており、したがってそのときには衣服をきていたとかんがえられます。海岸や砂漠・多雨地域・山岳地帯・寒冷地など、地球上の多様な自然環境に適応して拡散していくためには衣類が必要だったことは十分に想像できます。衣類の発明は、人類史上最初の大きな「技術革新」だったといってもいいかもしれません。




衣服は、身体と自然環境のあいだにあって、暑さ寒さ・風雨などの自然環境からの作用をやわらげ、身体をまもる機能をもちます。つまり「緩衝装置」のはたらきをします。自然環境と直接しているほかの動物たちとちがって、人間は、衣服を介して自然環境とかかわってきました(図)。


180422 衣服
図 衣服の位置づけ


初期の衣服がどのようなものであったのか、興味がつきません。羊毛・毛皮・皮革・植物の繊維などを加工してつくったのでしょう。当時の人々も、自然環境から作用をうけるだけでなく、自然環境を利用し、自然からえられた材料に積極的に手をくわええました。自然をそのまま利用するのではなく手をくわえる。ここに、「半自然」ともいうべき状態がみとめられます。

衣服の開発がすすむにつてて、機能性を追求するだけでなく、目印や装飾なども加味していったことでしょう。衣服の発明は、象徴的な本格的な人間文化のはじまりでもあったといえます。こうして半自然は文化となりました。

このようなことから、文化には、自然環境と人間を介在するはたらきがそもそも内包されているということがよくわかります。


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▼ 注:参考文献
グレアム=ロートン・ジェニファー=ダニエル著(佐藤やえ訳)『起源図鑑 ビッグバンからへそのゴマまで』ディスカヴァー・トゥエンティワン、1917年12月15日