呼吸器系は、人体の成長・維持だけでなく、人間の知性をうみだすうえでも大きな役割をはたしています。
特別展「人体 - 神秘への挑戦 -」が東京・上野の国立科学博物館で開催されています(注)。第2展示室(3)では「呼吸器系」についても展示・解説しています。

呼吸器は、大気中の酸素をとりこんで血液に供給し、血液中の二酸化炭素を排出するガス交換をおこなっています。

呼吸は、肺の収縮と拡張によっておこなわれ、肺のまわりにある肋骨や胸骨で構成される胸郭が筋肉の運動で形をかえることによって肺の容積を変化させる「胸式呼吸」と、肺の下面にある大きな筋肉で横隔膜が上下することでおこなわれる「腹式呼吸」とがあります。

身体のつくりが単純な生物(ミミズやヒルなど)は皮膚を介してガス交換をおこない、特別な呼吸器官をもちません。しかし生物が大型化し複雑になると、ガス交換を効率的におこなう呼吸器が必要になってきました。




わたしたち脊椎動物は「魚類→両生類→爬虫類」と進化してきました。脊椎動物が海から陸に進出するときに、えら呼吸から肺呼吸へと呼吸器系の大きな進化がおこりました。

そして爬虫類から哺乳類に進化するときには、それまでの肺は、胸郭がひらいたりとじたりするだけの外側のうごきだけでしたが、お腹と胸をわけている横隔膜が呼吸に参加するようになり、呼吸のはたらきがさらに強化されました。したがって自然にただ呼吸しているだけだと爬虫類の段階の呼吸をしていることになりますが、横隔膜をつかった腹式呼吸をすると、哺乳類として進化した呼吸システムを実践していることになります。

さらに哺乳類ではのどに軟骨ができて、どんな運動をしていても呼吸ができるようになり、運動の幅がひろがりました。

そして哺乳類のなかから霊長類があらわれてくると、のどと胸の構造が進化して、肺にいれた空気を一時的にためておける(息をこらえられる)ようになり、意図的に呼吸を制御できるようになりました。この制御は、大脳からの指令によっておこなわれます。

そのご霊長類のなかから人類があらわれてくると声帯が進化して言葉をしゃべれるようになりました。言葉をしゃべるためには、肺にいれた空気を自在に制御できなければならないことに注目してください。言葉が生じたことが、その後の文明の形成に大きな役割をはたしたことはいうまでもありません。

このように呼吸器系は、身体の成長・維持だけでなく、人間の知性をうみだすうえでも重要な役割をはたしています。


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▼ 注
特別展「人体 神秘への挑戦」
国立科学博物館のサイト
特設サイト
会場:国立科学博物館
会期:2018年3月13日~6月17日
※ 一部をのぞき写真撮影は許可されていません。