渡り鳥は、人間の想像を絶する高度な能力をもっています。渡り鳥をまもるためにはグローバルな観点にたった環境保全活動が必要です。
『ナショナルジオグラフィック』(2018年3月号)では「鳥たちのはるかな旅」と題して、渡り鳥の移動ルートや習性、渡り鳥におとずれた危機について解説しています。
2007年、アメリカの生物学者ボブ=ギルやリー=ティビッツが参加する研究チームが、オオソリハシシギの渡りのルートをつきとめました。人工衛星用の通信機器が体内にうめこまれたオオソリハシシギ「E7」は 2007 年8月 30 日にアラスカをとびたち、昼も夜も8日間とびつづけ、1万 5000 キロはなれたニュージーランド北島のテムズ湾まで移動しました。
オオソリハシシギはここで半年をすごしたのち、今度は、1万キロほど北の黄海にとび、その沿岸部で6週間ほど翼をやすめて栄養を補給し、そしてさらに 6500 キロ先のアラスカにもどります。
このようにオオソリハシシギは、「アラスカ→ニュージーランド→黄海→アラスカ」という驚異的な渡りをしています。
しかし渡り鳥は、どうやって、すすむべき方向や到達地点やそこまでの距離を知るのでしょうか? 飛行しているあいだは睡眠をとらないのでしょうか? 謎がふかまりました。
多くの渡り鳥は、気温の変化にともなって高緯度地方と低緯度地方のあいだを行き来しますが、洪水をさけて移動する渡り鳥もいます。
渡り鳥の行動は遺伝子にきざまれているのか、それとも学習によるのか? おそらくこれら双方が関与しているのではないかという仮説を鳥類学者はたてています。
多くの海鳥は、過去半世紀に個体数が激減、北米の沿岸に生息する鳥の個体数も1973 年以降、70 %も減りました。そのなかでも急速に数が減っているのは、オーストラリア地域〜東アジア地域を渡りのルート(東アジア・オーストラリア地域フライウェイ)とする鳥たちです。
黄海沿岸の干潟の埋め立てや工業地帯化により渡りの中継地がうしなわわれ、渡り鳥は大打撃をうけています。このままでは渡り鳥が絶滅してしまいます。
サハラ砂漠以南のアフリカでも、森林や草原が農業開発でつぎつぎに姿を消し、渡り鳥に危機がおとずれています。ヨーロッパ南部では、トウモロコシなどの単一作物の広大な畑がひろがるようになり、渡り鳥の菜食場所がうしなわれました。
渡り鳥をまもるためには、通常の自然保護・環境保全とはちがい、グローバルな視点が必要です。従来の常識にとらわれていると渡り鳥はまもれません。
渡り鳥は、人間の常識ではかんがえられない高度な能力をもっています。人間たちは、自分たちが進化の最先端にいるとうぬぼれていますが、鳥たちは、タイプのちがうもう一方の進化の最先端にいるといってよいでしょう。
そのような渡り鳥を絶滅させることは地球にとって大きな損失になります。グローバルな観点にたった環境保全活動が必要です。
▼ 関連記事
鳥の多様性と進化 -「鳥たちの地球」(ナショナルジオグラフィック 2018.1号)-
もう一方の進化 -「鳥の知能」(ナショナルジオグラフィック 2018.2号)-
恐竜から鳥への進化を想像する - 国立科学博物館「恐竜博 2016」(4)-
恐竜は鳥に進化した - 大英自然史博物館展(1)-
空白領域に進出する -「空を飛ぶ世にも奇妙なモンスター」(ナショナルジオグラフィック 2017.11号) 環境汚染の指標をとらえる - 自然教育園(13)カワセミ -
環境のひろがりを想像する - ズーラシア「アフリカのサバンナ」(3)アフリカンバード -
鳥の目で生態系を見る - 鳥の眼で見る自然展 (自然教育園 28)-
▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック 日本版』(2018年3月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2018年2月28日
渡りをする何百万羽もの水鳥にとって、黄海は重要な中継地。しかし、中国と韓国の沿岸では容赦なく埋め立てが進み、鳥たちが翼を休めて採食する場所が失われつつある。オオソリハシシギやコオバシギ、ダイシャクシギといった海辺の鳥たちは、狭くなった干潟で食物を奪い合うことになる。
2007年、アメリカの生物学者ボブ=ギルやリー=ティビッツが参加する研究チームが、オオソリハシシギの渡りのルートをつきとめました。人工衛星用の通信機器が体内にうめこまれたオオソリハシシギ「E7」は 2007 年8月 30 日にアラスカをとびたち、昼も夜も8日間とびつづけ、1万 5000 キロはなれたニュージーランド北島のテムズ湾まで移動しました。
オオソリハシシギはここで半年をすごしたのち、今度は、1万キロほど北の黄海にとび、その沿岸部で6週間ほど翼をやすめて栄養を補給し、そしてさらに 6500 キロ先のアラスカにもどります。
このようにオオソリハシシギは、「アラスカ→ニュージーランド→黄海→アラスカ」という驚異的な渡りをしています。
しかし渡り鳥は、どうやって、すすむべき方向や到達地点やそこまでの距離を知るのでしょうか? 飛行しているあいだは睡眠をとらないのでしょうか? 謎がふかまりました。
多くの渡り鳥は、気温の変化にともなって高緯度地方と低緯度地方のあいだを行き来しますが、洪水をさけて移動する渡り鳥もいます。
渡り鳥の行動は遺伝子にきざまれているのか、それとも学習によるのか? おそらくこれら双方が関与しているのではないかという仮説を鳥類学者はたてています。
■ 渡り鳥が方位を知る方法(仮説)
- 太陽の位置で方位を知るのではないか。
- 星を目印に方位を知るのではないか。
- 山脈や川・海岸線などを目印にして方位を知るのではないか。
- 鳥の体内に方位磁石のような仕組みがあるのではないか。
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多くの海鳥は、過去半世紀に個体数が激減、北米の沿岸に生息する鳥の個体数も1973 年以降、70 %も減りました。そのなかでも急速に数が減っているのは、オーストラリア地域〜東アジア地域を渡りのルート(東アジア・オーストラリア地域フライウェイ)とする鳥たちです。
黄海沿岸の干潟の埋め立てや工業地帯化により渡りの中継地がうしなわわれ、渡り鳥は大打撃をうけています。このままでは渡り鳥が絶滅してしまいます。
サハラ砂漠以南のアフリカでも、森林や草原が農業開発でつぎつぎに姿を消し、渡り鳥に危機がおとずれています。ヨーロッパ南部では、トウモロコシなどの単一作物の広大な畑がひろがるようになり、渡り鳥の菜食場所がうしなわれました。
渡り鳥をまもるためには、通常の自然保護・環境保全とはちがい、グローバルな視点が必要です。従来の常識にとらわれていると渡り鳥はまもれません。
渡り鳥は、人間の常識ではかんがえられない高度な能力をもっています。人間たちは、自分たちが進化の最先端にいるとうぬぼれていますが、鳥たちは、タイプのちがうもう一方の進化の最先端にいるといってよいでしょう。
そのような渡り鳥を絶滅させることは地球にとって大きな損失になります。グローバルな観点にたった環境保全活動が必要です。
▼ 関連記事
鳥の多様性と進化 -「鳥たちの地球」(ナショナルジオグラフィック 2018.1号)-
もう一方の進化 -「鳥の知能」(ナショナルジオグラフィック 2018.2号)-
恐竜から鳥への進化を想像する - 国立科学博物館「恐竜博 2016」(4)-
恐竜は鳥に進化した - 大英自然史博物館展(1)-
空白領域に進出する -「空を飛ぶ世にも奇妙なモンスター」(ナショナルジオグラフィック 2017.11号) 環境汚染の指標をとらえる - 自然教育園(13)カワセミ -
環境のひろがりを想像する - ズーラシア「アフリカのサバンナ」(3)アフリカンバード -
鳥の目で生態系を見る - 鳥の眼で見る自然展 (自然教育園 28)-
▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック 日本版』(2018年3月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2018年2月28日