病気の原因となっている遺伝子それ自体を正常なものに書き変え、“修復” するゲノム編集治療の研究がすすんでいます。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年4月号の連載「ゲノム編集の三大インパクト」第3回(終)では「ゲノム編集治療」について解説しています。注射や点滴をするだけで、患者の体内のねらった場所にある細胞の遺伝子を修復するのがゲノム編集治療です。
臨床試験ははじまったばかりで、安全性と有効性は未知数です。2022年2月までに、9人の患者に対して実施し、結果を評価する計画になっているそうです。
ゲノム編集技術は病気の治療のためにつかわれるべきですが、一方で、たとえばスポーツ選手が、貧血予防のために赤血球をふやしたり、筋力を増強させたりするためにこの技術をつかう可能性もあります。
そこで世界アンチ・ドーピング機構は2018年1月、「遺伝編集(ゲノム編集)物質の使用禁止」を禁止リストのなかにくわえました。ドーピングとは、運動能力を向上させるために薬物などをもちいることであり、遺伝子編集(ゲノム編集)をドーピングにつかうのが「遺伝子ドーピング」です。将来的には、チームや国家ぐるみで遺伝子ドーピングがおこなわれる可能性が否定できません。
遺伝子ドーピングでは、書きかえらえた遺伝子からつくられた物質と、自然につくられた物質とがほとんど区別できません。「遺伝子ドーピングではなく、生まれつきの遺伝子だ」という言い訳が成立するかもしれません。
スポーツの世界では禁止されても普通の人は自由なので、たとえば登山家や冒険家や労働者など、高度な運動能力を必要とする人はゲノム編集を利用することが十分にかんがえられます。あるいは赤血球の増加や筋力の増強などをめざして、子供のゲノム編集をおこなう親がでてくるかもしれません。その子供が大きくなってスポーツ選手になったらどうなるのでしょうか?
普通の(自然な)人間なのか、ゲノム編集人間なのか、もうめちゃくちゃです。
わたしたち人間の体のなかでは、自然と人工が「同居」し、両者の区別がつかなくなっていきます。自然と人工が統合された身体が現実になりつつあります。するとどのような身体を設計すればよいのか? 自分のことは自分できめられるのか。親がきめるのか。チームや国家がきめるのか。あるいはどのような事故や犯罪がおこってくるのか。
人間と文明はあらたな歴史的段階にはいったといえるでしょう。
▼ 関連記事
遺伝子をかきかえる -「“デザイナーベビー”は産まれるのか」(Newton 2018.2号)-
あなたは食べる? -「ゲノム編集食品が食卓に上る日」(Newton 2018.3号)-
再生医学の倫理問題 -「実用化へと進む多彩な幹細胞」(Newton 2017年10月号)-
人間の進化の方向を決めなければならない -『ナショナルジオグラフィック 2017.4号』-
▼ 参考文献
『Newton』(2018年4月号)ニュートンプレス、2018年4月7日発行
ゲノム編集とは、特定の遺伝子をねらって書きかえることのできる技術です。この技術を活かすことで、病気の原因となっている遺伝子それ自体を正常なものに書き変え、“修復”しようと言うのです。(中略)一生に一度の治療で根治も期待されます。まさに究極の治療と考えられているのです。
臨床試験ははじまったばかりで、安全性と有効性は未知数です。2022年2月までに、9人の患者に対して実施し、結果を評価する計画になっているそうです。
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ゲノム編集技術は病気の治療のためにつかわれるべきですが、一方で、たとえばスポーツ選手が、貧血予防のために赤血球をふやしたり、筋力を増強させたりするためにこの技術をつかう可能性もあります。
そこで世界アンチ・ドーピング機構は2018年1月、「遺伝編集(ゲノム編集)物質の使用禁止」を禁止リストのなかにくわえました。ドーピングとは、運動能力を向上させるために薬物などをもちいることであり、遺伝子編集(ゲノム編集)をドーピングにつかうのが「遺伝子ドーピング」です。将来的には、チームや国家ぐるみで遺伝子ドーピングがおこなわれる可能性が否定できません。
遺伝子ドーピングでは、書きかえらえた遺伝子からつくられた物質と、自然につくられた物質とがほとんど区別できません。「遺伝子ドーピングではなく、生まれつきの遺伝子だ」という言い訳が成立するかもしれません。
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スポーツの世界では禁止されても普通の人は自由なので、たとえば登山家や冒険家や労働者など、高度な運動能力を必要とする人はゲノム編集を利用することが十分にかんがえられます。あるいは赤血球の増加や筋力の増強などをめざして、子供のゲノム編集をおこなう親がでてくるかもしれません。その子供が大きくなってスポーツ選手になったらどうなるのでしょうか?
普通の(自然な)人間なのか、ゲノム編集人間なのか、もうめちゃくちゃです。
わたしたち人間の体のなかでは、自然と人工が「同居」し、両者の区別がつかなくなっていきます。自然と人工が統合された身体が現実になりつつあります。するとどのような身体を設計すればよいのか? 自分のことは自分できめられるのか。親がきめるのか。チームや国家がきめるのか。あるいはどのような事故や犯罪がおこってくるのか。
人間と文明はあらたな歴史的段階にはいったといえるでしょう。
▼ 関連記事
遺伝子をかきかえる -「“デザイナーベビー”は産まれるのか」(Newton 2018.2号)-
あなたは食べる? -「ゲノム編集食品が食卓に上る日」(Newton 2018.3号)-
再生医学の倫理問題 -「実用化へと進む多彩な幹細胞」(Newton 2017年10月号)-
人間の進化の方向を決めなければならない -『ナショナルジオグラフィック 2017.4号』-
▼ 参考文献
『Newton』(2018年4月号)ニュートンプレス、2018年4月7日発行