環太平洋文明やグローバル文明の創造のためには重層文化方式が役立ちます。重層文化は創造の方法としてつかえ、日本人が活躍できる可能性がここにあります。
橋爪大三郎『世界は四大文明でできている』(NHK出版)の第4章は「四大文明と日本と」です。わたしたち日本人が「物まねがうまいサル」といわれないためにはどうすればよいでしょうか?




文明の共通の特徴。それは、自分たちは、普遍的な価値を体現していて、世界中がこのやり方を採用して当然、と思っていることです。自信たっぷりである。堂々としている。

多様性を抱えているがゆえに、普遍性を強調する。これが、文明なのです。

それに比べると、日本人は、目にみえる多様性が、日本のなかにあるのを認めたいと思っていない。裏を返すと、日本が普遍的な価値をそなえていて、世界にそれを認めさせるべきであると、考えていない。文明として行動していません。  

日本はやはり、文明ではなく、文化なのです。そして、外の世界から、自分たちに必要なものを取り入れること(だけ)に、いまも熱心なのです。


文化が高度化したものが文明であり、それはかなり広域にひろがったものです。したがってどの文明も、自分のなかに多様性をかかえています。民族も言語も風俗もばらばらです。多様性をかかえているがゆえに普遍性を強調しないとまとまれないのが文明です。

もしまとまらないと、無数の小グループが地球上に併存してしまって多様性だけがひろがり、てんでんばらばら、かえって争いがたえないということになるのではないでしょうか。まとまるということはシステム化するというこであり、多様性をふまえつつシステム化するというはたらきが、人間の社会や歴史のなかにそもそもあるのだとおもいます。

しかしこのような文明も、グローバル化がすすんでくるとやっかいなことになります。ほかの文明とのかつてはなかった関係が生じてきます。みずからの価値観・世界観が普遍的なものだと誤解して他者を教化しようとします。そして文明の衝突です。こまったものです。アメリカ合衆国の様子などをみているとこのことがよくわかります。

このような見地にたつと日本は文明ではありません。『世界は四大文明でできている』の定義では、「日本文化」とはいえても「日本文明」とはいえないことになります。実際、「日本文明」という言葉にすわりのわるさを感じている人もいるとおもいます(注)。




日本は、ふるくは中国文明を、明治維新後はヨーロッパ文明を徹底的にとりいれてきました。日本文化は重層文化であり、独自文明を発達させることよりも外来文明を重視する姿勢でした。国の発展のためにはその方が手っとりばやいからです。

かつては、シルクロードをとおって西から日本に文化がつたわってきました。シルクロード上の地域でしたら、文化がつたわってくると同時にその放出もしたでしょうが、日本の東側は海なので、日本へ到達した文化はこれ以上は東へはいけず、日本で集積しました。こうしてインプットはあるけれどアウトプットがないといった性格が日本人に身についたのだとおもいます。日本人には自己主張がない、主体性がないといわれるゆえんです。地理的環境からの影響が大きかったのです。

しかし日本の重層文化はしだいに成熟していきます。飛鳥・奈良時代にとりいれた中国文化は時代をくだるにつれて日本化していきます。ふるい文化とあたらしい文化が融合して「日本文化」がうまれます。こうして江戸時代になると、世界最高水準の工芸品・美術品をうみだすまでに日本文化は成長しました。

このように重層文化は、創造のひとつの方法として有用です。これは4大文明とはちがうやり方であり、グローバル化をむかえた今日、世界の諸民族が共存していくために必要な方法ではないでしょうか。未来のグローバル文明(全球文明)を構築するためには重層文化方式を基本とするしかないでしょう。「文明の衝突→世界大戦」によってそれが成立することは決してありません。




日本は、明治維新後は西欧文明をインプットしてきました。そして 150年 もの年月がたちました。もう、インプットしているだけでなく、重層文化をあらたに成熟させていく段階にはいったとかんがえてよいでしょう。ふるい文化にあたらしい文化を融合させて、あらたな創造をめざすことが可能です。今は、シルクロードの時代ではありませんので、インターネットをつかって全世界にむけてアウトプットをすることもできます。

わたしは、アジアの発展途上国にいったときに、何人かの人々につぎのようにいわれたことがあります。
「日本は欧米の追従をしている国です」
「日本人は本当に模倣が得意ですね」
「留学生の1番手は USA に、2番手はヨーロッパに、3番手は日本でも仕方がないです」
「できれば本場の技術をなまびたい」
「日本は経済の国ですね」
日本は、欧米諸国とはちがう国であることを説明しましたが、なかなか理解がえられませんでした。そこで日本の宗教についてはなしてみたら、とたんに態度がかわったということがありました。またわたしは、環境保全活動を長年おこなっており、そこでは、日本の里山の原理と方法をつかっています。

日本には、日本独自の方法と文化があるのであり、それによって世界に貢献していくことができます。たとえば循環を原理にした「環太平洋文明」の創造といった課題でも、大きな役割を日本がはたせるはずです。


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▼ 注
すくなくとも日本は「大文明」(本格文明)ではありません。しかし古代文明をふくめ、人類史上の高度な文化をすべて文明とよぶならば「日本文明」ということもあります。

▼ 参考文献
橋爪大三郎著『世界は四大文明でできている』(NHK出版新書 530) NHK出版、2017年10月6日