「集落→都市国家→領土国家」という発展とそれにともなう文化成長を知り、アンデス文明の誕生・成長・滅亡を大観することが大事です。文明のモデルとしてもつかえます。
古代アンデス文明展が国立科学博物館で開催されています(注1)。つぎの点に注目して見学するとよいでしょう。
およそ 5000 年前に農耕と定住がはじまり、アンデス文明が誕生しました。カラル遺跡からその様子を想像することができます。古代アンデスの人々は、アンデスの大きな標高差をたくみに利用して野菜を栽培化しました。豊作への祈願の儀礼もさかんにおこないました。また特異な文化としてミイラ文化も発達させました。そのころの人々の生活様式・農業・儀礼・自然環境などを想像していると、人間と自然のやりとりによって文化が成長していくことがよくわかります。
そしてティワナク・ワリ・シカンといった都市国家が成熟し、膨張し、領土国家へ移行しようとする過程がありました。いくつかの都市国家が群雄割拠した期間は戦国時代といってもいいかもしれません。その後、南部高地のクスコからおこったインカがアンデスを統一してインカ帝国を建国しました。
しかし残念ながら、スペイン人 征服者がやってきてインカ帝国はあっけなくほろぼされました。インカ帝国成立後には本格的なアンデス文明が発達するはずでしたが、ヨーロッパ文明によってほろぼされたとかんがえてよいでしょう。アンデスの悲劇がよみとれます。
アンデス文明は滅亡しましたが、ジャガイモ・トマト・トウガラシなど、アンデスの野菜は世界にひろまりました。アンデスが、わたしたちの食文化をゆたかにしたことをわすれてはなりません。
特別展会場の第1展示室から第5展示室までを順にあるいていくと、展示品がしだいに洗練され、高度化・芸術化していく様子がよくわかります。さまざまな道具類は、生活や農業・儀式・宗教などではじめはつかわれていましたが、時代がくだると実用からはなれた “芸術品” が登場してきます。これは、生活様式・技術・産業・社会制度・精神文化がしだいに整備され高度化していくことを反映しています。社会の体制も、集落→都市→都市国家→領土国家(帝国)としだいに発展していきます。第5展示室までいったあとで、第1展示室にふたたびもどってみると、この発展がよくわかります。
このような一連の過程は文化の成長といってもよいでしょう。アンデスでも、さまざまな国々の勃興と滅亡がありましたが、国はかわっても文化はひきつがれていき、社会の底流には継続性があり、歴史をつらぬく一本の伝統がありました。
そして素朴な文化に対して高度に発達した文化を文明とよぶならば、伝統の総体としてのアンデス文明をみとめることができます。この文明という概念が、通常の歴史認識をこえたもっと高次元の理解を可能にします(注2)。
したがって特別展の会場にいったら、個々の展示品をみるだけでなく、アンデス文明の誕生・成長・滅亡という一連の大きな流れをつかむことが大事です。
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特設サイト
▼ 注2
より高度な文化を文明とよぶならば、たとえば狩猟採集民の文化とはいえても、狩猟採集民の文明とはいえません。一般的には、農耕と定住の開始以後が文明ということになります。
古代アンデス文明をとおして、「集落→都市国家→領土国家」という発展とそれにともなう文化成長を理解しておけば、これをモデル(見本、図式)にして世界のほかの文明も理解できます。このようなモデルはアンデス文明だけでなく、ほかの多くの文明についてもなりなつのではないでしょうか。
- 第1展示室:文明のはじまり
- 第2〜3展示室:文化が成長していく過程
- 第4展示室:都市国家から領土国家への移行
- 第5展示室:領土国家(帝国)の成立と滅亡
- 第6展示室:ミイラ文化
およそ 5000 年前に農耕と定住がはじまり、アンデス文明が誕生しました。カラル遺跡からその様子を想像することができます。古代アンデスの人々は、アンデスの大きな標高差をたくみに利用して野菜を栽培化しました。豊作への祈願の儀礼もさかんにおこないました。また特異な文化としてミイラ文化も発達させました。そのころの人々の生活様式・農業・儀礼・自然環境などを想像していると、人間と自然のやりとりによって文化が成長していくことがよくわかります。
そしてティワナク・ワリ・シカンといった都市国家が成熟し、膨張し、領土国家へ移行しようとする過程がありました。いくつかの都市国家が群雄割拠した期間は戦国時代といってもいいかもしれません。その後、南部高地のクスコからおこったインカがアンデスを統一してインカ帝国を建国しました。
しかし残念ながら、スペイン人 征服者がやってきてインカ帝国はあっけなくほろぼされました。インカ帝国成立後には本格的なアンデス文明が発達するはずでしたが、ヨーロッパ文明によってほろぼされたとかんがえてよいでしょう。アンデスの悲劇がよみとれます。
アンデス文明は滅亡しましたが、ジャガイモ・トマト・トウガラシなど、アンデスの野菜は世界にひろまりました。アンデスが、わたしたちの食文化をゆたかにしたことをわすれてはなりません。
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特別展会場の第1展示室から第5展示室までを順にあるいていくと、展示品がしだいに洗練され、高度化・芸術化していく様子がよくわかります。さまざまな道具類は、生活や農業・儀式・宗教などではじめはつかわれていましたが、時代がくだると実用からはなれた “芸術品” が登場してきます。これは、生活様式・技術・産業・社会制度・精神文化がしだいに整備され高度化していくことを反映しています。社会の体制も、集落→都市→都市国家→領土国家(帝国)としだいに発展していきます。第5展示室までいったあとで、第1展示室にふたたびもどってみると、この発展がよくわかります。
このような一連の過程は文化の成長といってもよいでしょう。アンデスでも、さまざまな国々の勃興と滅亡がありましたが、国はかわっても文化はひきつがれていき、社会の底流には継続性があり、歴史をつらぬく一本の伝統がありました。
そして素朴な文化に対して高度に発達した文化を文明とよぶならば、伝統の総体としてのアンデス文明をみとめることができます。この文明という概念が、通常の歴史認識をこえたもっと高次元の理解を可能にします(注2)。
したがって特別展の会場にいったら、個々の展示品をみるだけでなく、アンデス文明の誕生・成長・滅亡という一連の大きな流れをつかむことが大事です。
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より高度な文化を文明とよぶならば、たとえば狩猟採集民の文化とはいえても、狩猟採集民の文明とはいえません。一般的には、農耕と定住の開始以後が文明ということになります。
古代アンデス文明をとおして、「集落→都市国家→領土国家」という発展とそれにともなう文化成長を理解しておけば、これをモデル(見本、図式)にして世界のほかの文明も理解できます。このようなモデルはアンデス文明だけでなく、ほかの多くの文明についてもなりなつのではないでしょうか。
▼ 参考文献
島田泉・篠田謙一監修『古代アンデス文明展』(図録)TBSテレビ、2017年10月21日小野雅弘(執筆)『古代アンデス文明を楽しもう』(特別展 古代アンデス文明展オフィシャル・ガイドブック)TBSテレビ、2017年10月21日