古代アンデスの人々は、アンデスの大きな標高差をたくみに利用して野菜を栽培化しました。アンデスの野菜は世界にひろまりました。
古代アンデス文明展が国立科学博物館で開催されています(注1)。

ジャガイモ、トウモロコシ、トマト、カボチャ、トウガラシ、サツマイモ、インゲンマメ、ピーナッツ、キヌア・・・。これらの野菜が、アンデスや中米から世界にひろがったことをご存じでしょうか。

アンデスや中米の人たちは、ながい年月をかけてこれらの野菜を栽培化し改良してきました。そして16世紀になってから、スペイン人がヨーロッパにこれらをもちこみ、ヨーロッパそして世界の食文化はおどろくほどよくなっていきました。

たとえばジャガイモは世界でもっとも重要な野菜です。ドイツ人やイギリス人など、ジャガイモなしでは生きていけない人々がたくさんいます。あるいはトマトがないイタリア料理、トウガラシのぬけたキムチが想像できるでしょうか。インゲンマメもアンデスや中米原産であり、安価でおいしいタンパク源として世界中で食べられています。またアメリカ人はピーナッツバターが大好きです。

近年はキヌアも注目されています。これは、アンデス高地で昔から栽培されてきた疑似穀類であり、プチプチした食感があって木の実のようでもあり、栄養価がたかく、そのまま食べたり、サラダにまぜたり、スープにいれたり、コメのように炊いたり、ひいて粉にしてパンや焼き菓子にしたりします。アメリカでは「古代の穀物」として人気があります。

このように、古代アンデスには多様な栽培植物があったのであり、それらが世界の食文化をゆたかにしました。

この背景には、多様な気候帯(自然環境)があります。アンデス地域は、海岸低地から 7000 m 級のアンデス山脈まで、非常に大きな標高差があり、そこには、気温の高い熱帯から、乾燥帯、温帯、気温の低い高山帯まで、さまざまな気候帯が帯状に分布しています。そしてそれぞれの高度に応じてその環境に適応する植物がそだちます。たとえばつぎのとおりです。

  • 高地(およそ 3000〜4500 m):ジャガイモ、キヌア、ソラマメなど
  • 中間山地(およそ 2000〜3000 m):ジャガイモ、トウモロコシ、トマト、カボチャ、ソラマメなど
  • 海岸低地:トウガラシ、トウモロコシ、ピーナッツ、綿など

このようにアンデスの人々は、アンデスの高度差(ことなる自然環境)をたくみにつかって多様な農業をおこなっていました。これを「垂直統御」ということがあります。それぞれの栽培植物は、それぞれの自然環境とそこでくらす人間の「合作」だったといってもよいでしょう。

今後、コーンスープをのんだりポテトチップスをほおばるときに、アンデスの多様な自然環境をおもいうかべて、アンデスの人々の食文化への貢献におもいをはせてみてはいかがでしょうか。


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▼ 注1
古代アンデス文明展
特設サイト

▼ 注2
アンデスの人々は、リャマやアルパカなどのアンデス特産のラクダ科の家畜飼育(牧畜)もおこなっていました。

▼ 参考文献
島田泉・篠田謙一監修『古代アンデス文明展』(図録)TBSテレビ、2017年10月21日
小野雅弘(執筆)『古代アンデス文明を楽しもう』(特別展 古代アンデス文明展オフィシャル・ガイドブック)TBSテレビ、2017年10月21日