『ナショナルジオグラフィック 日本語版』2018年1月号の連載「人類の旅路を歩く」第６回では、「精霊が宿るシルクロードを行く」と題して、シルクロードの過去と現在を報告しています。




中国西部のロプ砂漠を横断していたマルコ=ポーロは、ずる賢いジンの話を耳にして『東方見聞録』に記しています。

ジンは、砂漠を進む隊商のメンバーを知っていて、名前で呼びかけるという。「すると名前を呼ばれた旅人は往々にして一行からはぐれ戻れなくなる。このようにして多くの人が命を落とすことがある」

草原地帯にくらす遊牧民によれば、「ジン」は、広大な中央アジアに出現する放浪の精霊で、旅人をくるしめることもあれば、たすけることもあります。夜になると、空を飛ぶことができ、ヘビやオオカミに姿を変えることもあるといいます。いずれにしてもかつての商人たちにとってシルクロードの移動は命がけでした。

シルクロードは１本の道ではなく、ひろがりのある複雑な網のようなものでした。それは、ラクダがとおる何千もの道、隊商がとまる宿、川辺の市場、港、道しるべの石塚などがつくりだすネットワークでした。古代の経済活動の中心であった中国とローマ帝国をむすび、その要衝に位置する中央アジアには商人たちの王国がさかえ、東の産物は西に、西の産物は東にひろまっていきました。また仏教やキリスト教やイスラム教といった宗教、腺ペストなどの伝染病などもシルクロードをとおってひろまりました。シルクロードの交易網は「現代のグローバリゼーションの原型」だったとかんがえてよいでしょう。

なかでも最大の「ヒット商品」はいうまでもなくシルクでした。ローマ帝国のエリートたちは、そのやわらかい光沢に魅了され、帝国を破産寸前においつめるほど買いあさりました。ネットワークとともにヒット商品（目印）があったからこそ、シルクロードは強力な「記憶」を歴史にのこしたのです。

今回の著者のサロペックらはシルクロードを徒歩で実際にたどっています。現在では、ポイント、ポイントの調査をする人はいるでしょうが、ルートをあるきとおす人はいないとおもいます。その意味で今回の報告はとても貴重です。地図をみながら写真をみて記事をよんでシルクロードを追体験してみるとおもしろいです。


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▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック 日本語版』 日経ナショナルジオグラフィック社、2017年12月30日