南方熊楠は、博物学・フィールドワーク・エコロジーの実践者でした。熊楠の仕事から、〈大観→観察→総合〉という問題解決の3段階をよみとることができます。
生誕 150 年記念企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」が国立科学博物館で開催されています(注)。

南方熊楠は、百科事典その他の膨大な書物をよみあさり、博物学をなまびました。熊楠は博覧強記であり、身につけた知識はデータベースになりました。

一方で、フィールドワークをおこない、菌類の研究でとくに成果をあげ、調査結果はカード形式でまとめられました。情報は、ひとまとまりごとにファイルにしていくことが重要です。さらに、ファイルを構造化(ネットワーク化)すれば全体像がみえてきます。

そして えられた知見をエコロジー運動に結実させました。熊楠は、エコロジーの先駆者として特筆されます。

このように熊楠は、 情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)を無数にくりかえしながら、博物学・フィールドワーク・エコロジーにとりくみました(図1)。


170102b 熊楠 3段階
図1 熊楠の実践 




このような3段階は今日でも有効です。というか今日でこそ実践できます。

まず、世界を地球を広く大きく全体的に見て、幅広くとらえます。つぎに課題を決めて、現地・現場にいって、詳細な観察・観測をおこないます。そしてえられた情報を総合して環境保全活動をすすめます。こうして図1から、大観・観察・総合という本質がうかびあがってきます(図2)。


170102a 熊楠 3段階
図2 3段階モデル


調査・研究をすすめるだけでなく、環境問題の解決という問題解決にあらゆる成果をいかしていく、多様な情報を実践のなかに統合していくこのようはやりかたは「問題解決学」といってもよいでしょう。あたらしいタイプの実学です。熊楠は、問題解決学の先駆者でもあったのであり、現在の地球社会は問題解決学を必要としています。




熊楠は博覧強記でしたが、今日のわたしたちには、コンピューターとインターネットがあります。これらをつかった博物学的な巨大なデータベースが日々成長しています。個人であっても、ブログなどのツールをつかえばデータベースの構築が容易です。

また熊楠の時代とはちがい、現在のフィールドワークでは採集標本の分析をしたり、広域的な野外観測をおこなったりします。さらに人工衛星をつかった地球観測もおこなわれています。フィールドワークが、物理・化学的な方法とむすびつき、フィールドサイエンスが大発展しつつあります。

熊楠が生きたころと技術革新がすすんだ現在とは時代はあきらかにことなりますが、熊楠がのこしたメッセージからまなべることはたくさんあります。今回の企画展をとおして熊楠の仕事をあらためてとらえなおし、情報処理と問題解決にもとづく環境保全の意義を確信し、たいへん勇気づけられました。


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▼ 注
南方熊楠生誕150周年記念企画展「南方熊楠-100年早かった智の人-」
場所:国立科学博物館・企画展示室(日本館1階)
会期:2017年12月19日~2018年3月4日



▼ 関連サイト
南方熊楠記念館
南方熊楠顕彰館