南方熊楠は、フィールドワークの結果をカード形式でまとめていきました。情報のひとまとまり、つまりファイルをつくるのがポイントです。ツールとして今日ではブログがつかえます。
生誕 150 年記念企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」が国立科学博物館で開催されています(注)。
熊楠は、「隠花植物」にとくに興味をもちました。隠花植物とは、花のさかない植物のことであり、現在はつかわない用語です。今日的には、藻類・地衣類・菌類などをさします。
熊楠は、「隠花植物」にとくに興味をもちました。隠花植物とは、花のさかない植物のことであり、現在はつかわない用語です。今日的には、藻類・地衣類・菌類などをさします。
大型藻類熊楠は、海藻ばかりでなく、淡水産の藻類も収集・記載しました。肉眼で確認できる大型藻類は緑藻・紅藻・褐藻におもに分類されます。現在では、世界に約1万 1000 種、日本では約 1600 種が知られ、藻類は、さまざまな系統のよせあつめであることがわかっています。微細藻類微細藻類は顕微鏡サイズの藻類の総称です。熊楠は、シアノバクテリア(藍藻類)・車軸藻類・緑藻類・紅藻類・珪藻類・渦鞭毛藻類など、ほとんどのグループについて収集し、『ネイチャー』誌に1903年に論文を発表しました。地衣類地衣類は、藻類と共生してなりたっている菌類の総称です。熊楠は、在米時代に地衣類の新種を発見しました。日本でも、700 点以上の地衣類標本を収集しましたが、大部分は未同定です。変形菌類変形菌類は、アメーバ状の変形体ときのこ状の子実体のあいだをいききする奇妙なライフサイクルをもっており、熊楠の時代には、動物と植物の中間的な原始生物とかんがえられていましたが、現在では、アメーボゾアという生物群であることがわかっています。熊楠は、収集とともに、日本産のリストをまとめて発表しました。菌類菌類は、カビ・キノコ・酵母のことです。熊楠は、大型のキノコから微細な菌類までを収集し、「菌類図譜」にまとめました。
「菌類図譜」の例
左:Boletus rimoso-scabrosus Minamata (F.17869)
左:Boletus rimoso-scabrosus Minamata (F.17869)
右:Phaeoporus captious Minamata et Tanoue (F.4208)
菌類図譜とは、水彩画で実物大に菌類を描写するとともに、スライスするなどして実物をはりつけ、余白には、採集地・採集年月日・採集者・形態・色・匂いなどの情報を記載したものです。1枚1項目主義のカード形式になっているのが特徴であり、国立科学博物館は、菌類図譜をすべてスキャンしてデータベースとして公開しています。
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このように熊楠はただの博覧強記だったのではなく、フィールドワークをおこなって専門的な研究にもとりくみました(注2)。
そしてフィールドワークの結果をカード形式でまとめていきました。カードをつかう方法は、梅棹忠夫の「知的財産の技術」や川喜田二郎の「KJ法」に代表されるように、1970年代〜80年代に大流行して一般的につかわれるようになりました。熊楠はカード法の先駆者でもあったのです。
カード法では、情報のひとまとまりを1枚のカードに記載します。1枚1項目に情報を単位化するといってもよいです。見出し(タイトル、要約、名称など)や場所・年月日なども記入します。このような情報のひとまとまりは情報用語でいうと「ファイル」ということです。カードとはファイルのことです。
そして今日では、紙のカードはつかわなくなり、コンピューターとインターネットをつかってファイルをつくり、ファイルしていく様式にかわりました。様式はかわりましたが、カードのかんがえ方はいまでもいきています。外見・形態にとらわれるのではなく、その本質を理解することが大事です。
現在は、ブログという便利なツールがあります。ブログの1本の記事はひとつのファイルであり、昔でいう1枚のカードに相当します。人間主体の情報処理の観点からみると、ブログは、ファイルづくりとアウトプット訓練が同時にできて有用です。そしてブログをつづけていけば、他者も利用できる自分のデータベースが構築されていきます。カテゴリやタグ、キーワード検索の機能もついているので、ファイルの活用も容易です。
わたしたちも熊楠のまねをして、フィールドワーク(旅行)などにいったら、その結果をブログにアップするようにしたいものです。技術が進歩して、このようなことが当時よりもはるかにやりやすくなりました。
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▼ 注1
場所:国立科学博物館・企画展示室(日本館1階)
会期:2017年12月19日~2018年3月4日
▼ 注2
フィールドワークは、急激に当時 発展していた、分析(解析)と実験をくりかえす物理学・化学の方法とはちがう点に注意してください。フィールドワークは科学的方法とは当時はみとめられていませんでしたが、現在ではみとめられています。