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円盤をつかって田んぼをめぐる循環を解説
(交差法で立体視ができます) 
アジアの伝統的な稲作は循環システムのモデルとしてすぐれており、循環型社会をつくっていくための参考になります。
日本科学未来館が、「ビューティフル・ライス~1000年おいしく食べられますように」の特別展示をしています(注1)。アジア各地の農村で数千年にわたってつづいてきた伝統的な米づくりを科学でよみときながら、これからの 1000 年も「おいしく食べる」ためのアイデアをさぐるという企画です。

ステレオ写真はいずれも交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -



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水や泥を田んぼに溜める
川の水には、カリウムやカルシウムなどのミネラルがふくまれ、動物の死骸やフンや落ち葉などにふくまれる窒素やリンもまじっています。田んぼは、にごった水を溜め、ろ過し、養分をこしとります。



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生物がフンや草を分解する
田んぼにいる小さな生物は、土にまじった動物のフンやさまざまな植物をたべ、米が吸収できる形に養分をかえます。ミミズやダンゴムシ・タニシ・オタマジャクシ・カビの仲間・細菌などが重要な役割をになっています。



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生きものがいっぱいいる
田んぼの動植物のあいだには、食べる、食べられるの関係があり、病害虫や雑草の繁殖がおさえられます。さまざまな動植物が複雑に関係しています。



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お米が実る
村人総出で、実った米を収穫します。



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みんなで収穫を喜ぶ
米の収穫を感謝し、祭りをとりおこないます。アジアの稲作地帯には、田の神様や米につく精霊への信仰がひろくみられます。共同作業によって共同体意識が農村ではぐくまれ、知恵や文化が次世代へつらえられていきます。



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米を吸収する
人間は米を調理して食べ、消化し、栄養を腸から体内に吸収します。米のデンプンは、呼吸ですいこんだ酸素とあわさり、体温維持や体をうごかすエネルギーになります。



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排泄物を田んぼにかえす
人間や家畜の排泄物には養分がたくさんふくまれています。人がはこんだり、水にながしたりして、田んぼにその養分をかえします。そしてあらたな米づくりがまたはじまります。




これが、稲作の伝統的な循環システムです。この循環システムがあれば土地がやせることはなく、おなじ地域においていつまでも稲作がつづけられます。

この田んぼの循環システムにおいては、人間は、食料やエネルギーを自然環境から直接うけとるのではなく、田んぼをとおして、より効率的に食料・エネルギーをえています。この観点からみると田んぼとは、人間(あるいは人間の居住地)と自然環境のあいだに存在する、人間の手がはいった自然、半自然地帯だとかんがえられます(図1)。人間は、みずから半自然をつくりだして、それを介して自然環境からエネルギーをえて、定住してくらすようになったということでしょう。

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図1 田んぼの位置づけ


田んぼをめぐる循環システムを理解するときに図1のモデルが参考になります。物質やエネルギーが自然環境から人間の領域にはいってくるのは「インプット」、その逆に人間が、排泄物を放出したり、自然環境に作用をくわえるのは「アウトプット」といってもよいです。

ところがこのような循環システムは伝統的な稲作でのことであって、現在の日本の稲作では、たとえば人糞などはつかっておらず、かわりに化学肥料や農薬をつかっています。すると循環システムははたらかず、自然の循環からはずれた人工物質がどこかに移動したり蓄積したりします。それが公害や環境破壊あるいは人体への悪影響としてあらわれているのです。

しかしいまさら人糞にはもどれません。循環システムを復活させる有機肥料や薬品を再発見するか開発しなければなりません。これは、植物工場で農作物を生産すればいいというのとはことなります。

工業の原理にしたがって自然の資源を一方的につかいはたしていくのか、それとも循環システムを復活させるのか、わたしたちは岐路にたたされています。

今回の展示のメッセージは循環システムの方です。 伝統的な水田稲作は循環のモデルとしてすぐれており、循環型の世界をつくっていくための参考になるにちがいありません(注2)。


▼ 注1
特別展示「ビューティフル・ライス ~1000年おいしく食べられますように」
会場:日本科学未来館 1階 コミュニケーションロビー
会期:2017年11月11日~2018年1月8日

▼ 注2
南アジア〜東南アジア〜東アジアの稲作地帯には循環の思想が根本的にあります。これはアメリカあたりの工業の思想、直線的な持続的発展の思想とはことなる点に注意してください。