南方熊楠はエコロジーの先駆者でした。彼がもちいた方法は分析的方法ではなく、総合的方法でした。今日の地球社会は総合的方法を必要としています。
生誕 150 年記念企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」が国立科学博物館ではじまりました(注)。南方熊楠(1867-1941)は博物学者であり、菌類の研究でとくに知られていました。
熊楠は、人並みではない驚異的な記憶力をつかって博物学にとりくみました。またフィールドワークをおこなって菌類などの研究をすすめました。さらに自然の体系を重視して自然保護運動もおこないました。今日の用語でいえば、エコロジーに日本で最初にとりくんだ学者だったといってよいでしょう。生態系(エコシステム)という概念があるので、今日のわたしたちにとっては熊楠の仕事は理解しやすいです。
しかし熊楠がいきた時代は、博物学が自然科学に発展していく時代でした。自然を記載し分類していた博物学の時代がおわり、それぞれの学者がそれぞれに専門分野をもち、徹底的に対象をしぼりこんでこまかくくわしくしらべていく研究スタイルにかわりました。これは分析的方法であり、こうして物理学・化学・動物学・植物学・地質学などの分科がすすみ、その分科もさらにこまかく枝分かれしていきました。
このような時代的背景のなかで熊楠の仕事が理解されるはずがありません。かなりの変人とみられました。
自然科学の分析的方法に対して、熊楠あるいはエコロジーは総合的方法をもちいます。データ収集の方法としてフィールドワークをおこない、自然の体系を重視します。そしてえられた知見をふまえて自然環境保全活動をおこないます。ここには、分析的で “タコツボ” 化しすぎた科学への反動と反省があります。今日では、生態系にとどまらず地球を体系(システム)的に理解しようという動きが本格化しています。地球科学科や地球システム学科・環境科学科などが大学に創設されるようになったのはこのことのあらわれです。時代はかわってきました。
したがって今日、熊楠の業績と方法をとらえなおすことにはとても大きな意義があります。
ただし注意しなければならない点もあります。それは、熊楠が異常に強力な記憶力の持ち主だったということです。熊楠は、「難しい書物を、知人宅で読んで暗記し、家に帰ってそれを書き写すことを繰り返していました」(注2)。百科事典のような知識(データベース)をふまえて、フィールドワークをおこない、自然の体系を理解し、環境保全をおこなっていたのです。
このような事実を知ると、記憶力がつよくないと総合的方法は実践できないのではないかということになります。そこで登場したのが、コンピューターとインターネットです。今日のわたしたちには、熊楠のような異常な記憶力は必要としません。情報技術を道具としてつかっていけばよいのです。
技術革新・高度情報化のおかげで総合的方法が十分に実践できる時代になりました。ようやく今日、時代が熊楠においついたといってもよいでしょう。熊楠はまさに「100年 早かった」のです。
▼ 関連記事
総合的方法を実践する - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(1)-
データベースのうえにたって探究をすすめる - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(2)-
フィールドワークを実践する - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(3)-
ファイルをつくる - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(4)-
エコロジー運動をすすめる - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(5)-
ファイルを構造化する - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(6)-
フィールドワークからフィールドサイエンスへ - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(7)-
南方熊楠の情報処理 - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(8)-
問題解決を実践する - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(まとめ)-
フィールドワークを実践する - 中沢新一著『熊楠の星の時間』-
野生への扉をひらく -「野生展:飼いならされない感覚と思考」-
▼ 注1
南方熊楠生誕150周年記念企画展「南方熊楠-100年早かった智の人-」
▼ 注2:参考文献
栗田昌裕著『絶対忘れない! 記憶力超速アップ術』日本文芸社、2010年5月30日
※ 14〜15ページには、南方熊楠に関するたいへん興味ぶかい解説があります。記憶法の基本を知るためにも必読の書です。情報化がすすんだ今日、情報処理の一環として記憶法を実践することが大切です。
1「熊楠の智の生涯」:熊楠は、おさないころから天才的な記憶力を発揮していました。2「一切智を求めて」:和歌山県の那智や田辺でフィールドワークをおこないました。3「智の広がり」:“隠花植物”(コケやシダ、菌類など花の咲かない植物を総じてさしてもちいられた昔の言葉)を収集し、研究しました。4「智の集積」:「菌類図譜」を作成しました。5「智の展開」:神社合祀反対運動を通じた自然保護運動をおこないました。6「智の構造を探る」:多様で膨大な情報をまとめていく思考力をもっていました。
熊楠は、人並みではない驚異的な記憶力をつかって博物学にとりくみました。またフィールドワークをおこなって菌類などの研究をすすめました。さらに自然の体系を重視して自然保護運動もおこないました。今日の用語でいえば、エコロジーに日本で最初にとりくんだ学者だったといってよいでしょう。生態系(エコシステム)という概念があるので、今日のわたしたちにとっては熊楠の仕事は理解しやすいです。
しかし熊楠がいきた時代は、博物学が自然科学に発展していく時代でした。自然を記載し分類していた博物学の時代がおわり、それぞれの学者がそれぞれに専門分野をもち、徹底的に対象をしぼりこんでこまかくくわしくしらべていく研究スタイルにかわりました。これは分析的方法であり、こうして物理学・化学・動物学・植物学・地質学などの分科がすすみ、その分科もさらにこまかく枝分かれしていきました。
このような時代的背景のなかで熊楠の仕事が理解されるはずがありません。かなりの変人とみられました。
自然科学の分析的方法に対して、熊楠あるいはエコロジーは総合的方法をもちいます。データ収集の方法としてフィールドワークをおこない、自然の体系を重視します。そしてえられた知見をふまえて自然環境保全活動をおこないます。ここには、分析的で “タコツボ” 化しすぎた科学への反動と反省があります。今日では、生態系にとどまらず地球を体系(システム)的に理解しようという動きが本格化しています。地球科学科や地球システム学科・環境科学科などが大学に創設されるようになったのはこのことのあらわれです。時代はかわってきました。
したがって今日、熊楠の業績と方法をとらえなおすことにはとても大きな意義があります。
ただし注意しなければならない点もあります。それは、熊楠が異常に強力な記憶力の持ち主だったということです。熊楠は、「難しい書物を、知人宅で読んで暗記し、家に帰ってそれを書き写すことを繰り返していました」(注2)。百科事典のような知識(データベース)をふまえて、フィールドワークをおこない、自然の体系を理解し、環境保全をおこなっていたのです。
このような事実を知ると、記憶力がつよくないと総合的方法は実践できないのではないかということになります。そこで登場したのが、コンピューターとインターネットです。今日のわたしたちには、熊楠のような異常な記憶力は必要としません。情報技術を道具としてつかっていけばよいのです。
技術革新・高度情報化のおかげで総合的方法が十分に実践できる時代になりました。ようやく今日、時代が熊楠においついたといってもよいでしょう。熊楠はまさに「100年 早かった」のです。
▼ 関連記事
総合的方法を実践する - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(1)-
データベースのうえにたって探究をすすめる - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(2)-
フィールドワークを実践する - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(3)-
ファイルをつくる - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(4)-
エコロジー運動をすすめる - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(5)-
ファイルを構造化する - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(6)-
フィールドワークからフィールドサイエンスへ - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(7)-
南方熊楠の情報処理 - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(8)-
問題解決を実践する - 企画展「南方熊楠 -100年早かった智の人-」(まとめ)-
フィールドワークを実践する - 中沢新一著『熊楠の星の時間』-
野生への扉をひらく -「野生展:飼いならされない感覚と思考」-
▼ 注1
南方熊楠生誕150周年記念企画展「南方熊楠-100年早かった智の人-」
場所:国立科学博物館・企画展示室(日本館1階)
会期:2017年12月19日~2018年3月4日
▼ 注2:参考文献
栗田昌裕著『絶対忘れない! 記憶力超速アップ術』日本文芸社、2010年5月30日
※ 14〜15ページには、南方熊楠に関するたいへん興味ぶかい解説があります。記憶法の基本を知るためにも必読の書です。情報化がすすんだ今日、情報処理の一環として記憶法を実践することが大切です。