民族と自然環境の相互作用(やりとり)から住居や衣装が開発されました。社会の発展とともに、住居や衣装は文化として発達しました。〈社会-文化-自然環境〉システムのモデルをもって展示をみると理解がふかまります。
国立民族学博物館(注)には、世界中の民族の住居(とその模型)や衣装のさまざまな展示・解説があります。


住居は人間の生活に欠かせないものであるが、その最大の機能の一つは環境から身を守ることにある。暑い地域と寒い地域、乾燥した地域と湿気の多い地域では、住居の携帯が自然と異なる。世界では、気候条件にあわせて多様な住居がつくりだされてきた。


たとえば日本の白川郷・五箇山では雪が多くふるため、掌をあわせたような急傾斜の屋根をもつ合掌造りの家屋により雪がつもらないようにしています。アイスランドでは、屋根から壁までを芝でおおうことで寒さをふせぐ「芝生の家」をつくっています。

逆に、暑くて湿気のつよい地域では高床式住居が多くみられます。住居の下は、農具や生活用品を置いたり、豚や鶏などの家畜を飼育する場所にしたりします。東南アジアやオセアニアでは、水上に、高床式住居をたてることもあります。

このように住居は、人間と自然環境のあいだにあって、緩衝装置としての役割をはたしています。それぞれの民族は、それぞれの自然環境のもとでさまざまな緩衝装置をかんがえだして、すこしでも快適にくらせるように工夫してきました。人間と緩衝装置と自然環境はひとつのシステムとしてとらえることができます(図1)。

171220 住居
図1 緩衝装置としての住居


しかしその後、社会が発展してくると、人間関係や社会的秩序などをあらわす住居がうまれてきました。


中国に点在する四合院は、四方を部屋や壁で囲み、中央に中庭をもつ。(中略)家長となる両親が一番奥の部屋、長男夫婦が東側の部屋、次男夫婦が西側の部屋でくらす。(中略)こうした建築構造とその使い方には、儒教の論理が表れている。

イスラーム地域の住居は、男性と女性の部屋が区分されている。(中略)玄関から近い表の空間(タシュカリ)は主に男性が、玄関から離れた奥の空間(イチカリ)は主に女性が住む。

沖縄のシーサーのように、家やその付近に置物をする文化が広くみられる。(中略)北アメリカの先住民族社会では、古くから、家や墓などの前に彫刻をほどこした柱を置く習慣があった。この彫刻柱トーテムポールと呼ばれる。


このように住居に、生活様式や人間関係、社会的秩序、人間の思考、価値観などがつめこまれるようになりました。生活様式や人間関係、社会的秩序、人間の思考、価値観などは総称して文化とよんでもよいでしょう。すなわち住居には、その地域の文化があらわれているのです。

歴史的にみると、最初は小規模な集団だった人間たちはしだいに社会を形成していきました。社会の発展とともに文化が発達しました。こうして、〈人間-緩衝装置-自然環境〉というシステム(図1)は、〈社会-文化-自然環境〉というシステムに発展しました(図2)。

171220 文化
図2 〈社会-文化-自然環境〉システム




住居と似たようなことが衣装でもみられます。もともと衣装は、進化の過程で体毛をうしなった人類が、体温調節や皮膚の保護のために毛皮などを身にまとったのがはじまりです。

そして、たとえば寒さから身をまもる防寒着が寒冷地では発達したように、それぞれの地域の自然環境に応じてさまざまな衣装が開発されました。つまり衣装も、人間(身体)と自然環境のあいだの緩衝具として機能したのであり、人間は、住居や衣装が開発されたからこそ多様な自然環境に適応して地球上にひろく拡散できたのです。

しかし社会が発達してくると、特別な意味や役割をもつ衣装があらわれます。たとえば、その人の地位や職業をあらわします。権力や武力、経済力などをしめします。芸術表現のためにつかわれます。その地域の文化の一翼をになうものとして衣装が発展します。図2のような〈社会-文化-自然環境〉システムが機能するようになったといってもよいでしょう。




このように住居と衣装に注目することは、それぞれの民族の文化を理解するだけでなく、その民族の社会と、その民族をとりまく自然環境を理解するためにも役立ちます。そもそも文化とは、民族と自然環境の相互作用(やりとり)によって生じ発達してきたものです。

国立民族学博物館の展示をみるときに、このような観点をもって、民族の社会と自然環境も想像してみると、世界に関する認識が一層ふかまるとおもいます。


▼ 関連記事
〈民族-文化-自然環境〉システム - ズーラシア「アフリカのサバンナ」(まとめ)-
自発性と切実性の双方をいかす - 安藤忠雄展 -

ガイドブックをみてからいく - 国立民族学博物館のあたらしい展示案内 -
世界一周の圧縮体験をする - 国立民族学博物館 -
パンにバターをぬって食べる人を想像する - 国立民族学博物館のヨーロッパ展示 -
ヨーロッパと日本を対比させて想像する - 国立民族学博物館の日本展示 -
ユーラシア大陸をモデルでとらえる - 麦作と稲作(国立民族学博物館)-
文化的にひとまとまりのある地域をおさえる - 国立民族学博物館の西アジア展示 -
行動しながら情報処理をすすめる - 博物館での体験 -
多様性を大観する - 国立民族学博物館のアメリカ展示 -
世界を理解するために、国立民族学博物館の世界地図をつかう
人類の移動と拡散を想像する - 国立民族学博物館のオセアニア展示 -
環太平洋地域をイメージする - 国立民族学博物館の展示を利用して -
すべての感覚を大きくひらいて情報処理をすすめる - 広瀬浩二郎著『触る門には福来たる』-
グローバルな観点をもって課題にとりくむ
言語の原則を身につける - 国立民族学博物館「言語展示」-

▼ 参考文献
国立民族学博物館編集・発行『国立民族学博物館 展示案内』(2017年11月8日)
国立民族学博物館 展示案内(Online Museum Shop)

▼ 注
国立民族学博物館