太陽はいずれ、赤く大きくふくれあがって崩壊していきます。地球と生物は太陽と運命をともにします。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年1月号では、「輝く星々の一生」と題して、恒星の誕生から最後までを解説しています(注1)。わたしたち人間にも一生があるように、夜空をいろどる恒星たちにも “一生” があります。世界のさまざまな望遠鏡がとらえた貴重な画像をみながらその一生をたどることができます。



おうし座の方向、450 光年の距離(ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のハーシェル宇宙望遠鏡による遠赤外線撮影):分子雲の密度の高い場所がフィラメント状につらなっており、その中でもとくに白く輝いて見える部分では、今まさに原始星が誕生しようとしている。

タランチュラ星雲の一部、地球から 17 万光年の距離(NASAのハッブル望遠鏡が撮影):非常に活発に恒星が生みだされている。原始星は、重力による収縮で温度が上昇し、およそ1000万°C に達すると「核融合反応」がはじまり、重力による収縮と核融合の熱による膨張のバランスがとれ、安定した温度で輝くようになる。この状態の恒星は「主系列星」とよばれている。

さそり座の赤色超巨星アンタレス(ヨーロッパ南天天文台(ESO)が観測):水素を使い果たして核融合反応がおわると、恒星は大きく膨張するとともに赤色に変化して「赤色巨星」となる。

わし座の方向の超新星残骸 W49B、約 2 万 6000 光年の距離(NASA のチャンドラX線観測衛星などが撮影):太陽の8倍以上の質量をもつ赤色巨星の場合は、中心部が急激に崩壊して、その反動で大爆発がおきる。これを「超新星爆発」(注2)とよんでいる。

ダンベル星雲、1200 光年前後と推定(ヨーロッパ南天天文台(ESO)が撮影):超新星爆発をおこすほどの質量をもたない赤色巨星(太陽の8倍以下の質量)の場合は、外層のガスを放出したあと、中心核がのこる。この中心核を「白色矮星」とよんでいる。白色矮星は、強い紫外線を当初は発するので周囲のガスが輝き「惑星状星雲」(注3)として観測される。

直接観測することができない天体「ブラックホール」:太陽の 20 倍をこえる質量をもった恒星の場合には、超新星爆発の際に中心部がつぶれてブラックホールになる。あまりにも重力がつよいためにそこから光さえ脱出することができない。

ほ座パルサーから放出されたジェット、約 1000 光年(NASA のチャンドラX線観測衛星が撮影):太陽の8〜20 倍ほどの質量の恒星の場合は、超新星爆発ののち、中心部に「中性子星」がのこされる。

私たちの天の川銀河の中心方向(NASAのハッブル望遠鏡が撮影):白色矮星は、ゆっくりと冷えて暗くなっていく。


このように、原始星として誕生した恒星は、主系列星としてかがやいたのち、晩年にはいると赤く大きくふくれあがって赤色巨星になり、そのご超新星爆発をおこすか白色矮星になって、最後は、ブラックホール、中性子星、暗く冷えた白色矮星といった残骸になって、その一生をおわります。

  1. 原始星
  2. 主系列星
  3. 赤色巨星
  4. 超新星爆発あるいは白色矮星
  5. 残骸(ブラックホールあるいは中性子星あるいは白色矮星)




中学や高校の地学の時間にこのような用語を暗記した人もいるとおもいますが、言葉を暗記するよりも、実際の写真をみることのほうがはるかに重要です。視覚的・直観的に理解できます。

このように恒星の一生のようすがわかってくると、わたしたちの太陽はどうなのかといった疑問が生じてきます。主系列星として太陽がかがやける期間はおよそ 100 億年であり、太陽の現在の年齢は 46 億年と推定されています。この仮説がただしいとすると、太陽の一生は “折り返し地点” にちかづいているということになります。もはや “中年” です。

太陽も、主系列星の段階がおわると赤く大きくふくれあがってくるでしょう。すると地球はどうなってしまうのでしょうか? 地球は、ふくれあがった太陽にのみこまれてしまうでしょう。すると生物は? しかしそのかなり前に、太陽の膨張によって “灼熱地獄” に地球はなってしまって、あらゆる生物は絶滅してしまうのではないでしょうか。

絶滅だなんて悲観的だとおもう人がいるかもしれませんが、これは悲観でも楽観でもありません。宿命です。太陽の白色矮星化をくいとめることは誰にもできません。地球と生物は太陽と運命をともにします。



これはひとつの思考実験にすぎませんが、現代の宇宙科学者たちがあたらしい宇宙観をつくりだしつつあるのはあきらかであり、それが、人間の思考の根本的な枠組みを提供していくといえるでしょう。宇宙観は、思考あるいは運命のもっとも根本的な大枠あるいは大前提になります。

そしてこのような宇宙観のなかにくみこむようにして、あたらしい価値観や人生観が確立されていくのではないでしょうか。実際、このような精神的ないとなみをわたしたち人間は歴史的におこなってきているのです。これからも宇宙の探究から目がはなせません。


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▼ 注1
『Newton』(2018年1月号)、ニュートンプレス、2018年1月7日

▼ 注2:「超新星爆発」
恒星の一生の最後の段階であるのに「新星」とよばれるのは、突然の爆発によってかがやく様子があたらしい星が誕生したかのように見えるからこうよばれるようになったのであり、あたらしい星が生まれるわけではありません。

▼ 注3:「惑星状星雲」
「惑星」の名がつけられているのは、かつて望遠鏡で観測したときに惑星のようにみえたことに由来するのであり、惑星ではありません。