人間が主体になった情報処理をすすめることが大事です。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2018年1月号では「人工知能」について特集しています。




コンピューター上で脳の神経回路を模してつくられたシステムは、「ニューラルネットワーク」とよばれます。ニューラルネットワークは、データを受け取る「入力層」、学習内容に応じてネットワークのつながり方を変える「隠れ層」、そして最終データを出す「出力層」に分けられます。それぞれの層は、「ノード」とよばれる仮想的な領域からなります。(中略)

このニューラルネットワークを何層にも重ねる(深くする)ことでつくられたシステムが「ディープラーニング(深層学習)」です。


このように人工知能は、人間の脳の情報処理のしくみを模して開発がすすめられています。


2016年11月、Google の無料の自動翻訳機能(日本語⇄英語の翻訳)にディープラーニングが導入され、翻訳の質が大きく向上したことが話題になりました。(中略)

ディープラーニングを使う自動翻訳では、大量の対訳データから「こういう並び順で出てきた日本語の単語列は、こういう英語の単語列として翻訳されることが多い」という規則性を学び、それをつかって翻訳を行います。(中略)

いかにも正しい翻訳が行われているように感じてしまいますが、内容的にまちがっている可能性はのこっているのです。


このように人工知能は、単語の変換とならべ方は上手になりましたが、文章の内容を理解しているわけではありません。文脈や行間の解釈はできないのです。




人工知能(AI: artificial intelligence)とはごく平たくいってしまえば人間の脳を模した高性能なコンピューターです。

今日、パソコンやスマホ・家電・ロボット・将棋などのソフト・画像認識・翻訳・スマートスピーカーなど、人工知能は多方面で実用化されており、今後、自動運転・未来予測・病理診断などさまざまな分野でつかわれていくとかんがえられます。人工知能の「社会進出」はめざましく、人工知能なしでは人間社会は機能しなくなってきています。

一方で、人工知能が高度に発達すると、人工知能に人間は仕事をうばわれたり、人工知能によって人間が支配されたりするという「人工知能脅威論」もさけばれています。

人工知能は、これまでに蓄積された膨大なデータから規則性を抽出することが得意です。過去の経験に依存できる作業はロボットや人工知能の得意分野です。将来的にはすくなくとも、規則的・機械的な仕事はロボットと人工知能が人間にかわっておこなっていくことになるでしょう。

すると人間は何をすればよいのか?

それは創造的な仕事でしょう。究極的には直観を要する仕事です。具体的にいうと芸術的な仕事です。




しかしそのようなことを議論する前に情報処理についてよく理解しておく必要があります。情報処理をおこなうときにはかならず主体が存在します。主体は環境(外界)から情報をとりいれ(インプット)、それを処理し(プロセシング)、その結果を環境に出力します(アウトプット)。このときの主体は、あくまでも人間でなければなりません。人間主体の情報処理です。

人間は何もしなくてもロボットと人工知能がやってくれるという態度では、定年退職後などに認知症になります。人間は、環境と調和しながらみずから主体的に情報処理をおこなってこそ心身ともに健康をたもつことができます。体の病気もさることながら心の病気にかかる人が日本人にはとくに多いので要注意です。

今回の『Newton』の特集は、ここまでふみこんで論じてはいませんが、人工知能のしくみを理解するための参考になります。人工知能について知ることは、人間がおこなっている情報処理について認識をふかめるためにも役立ちます。


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▼ 注
『Newton』(2018年1月号)、ニュートンプレス、2018年1月7日