現地調査・野外観察では、課題を決めて、個体識別と長期観察を実践するとよいです。
『ナショナルジオグラフィック』(2017年11月号)では、「ジェーン・グドール - チンパンジーを愛する女性の素顔 -」と題して、チンパンジー研究のパイオニア、ジェーン=グドールの知られざる素顔をあらたに発見された未公開映像をつかって紹介しています(注)。
当時の動物学では、観察対象の動物に識別番号をつけて記録するのが常識でしたが、ジェーンは、人間でもそうであるように、それぞれのチンパンジーを個性をもった生き物としてあつかい、識別し、記録していきました。「個体識別」です。
また個体識別をしたたくさんのチンパンジーを長期間にわたって徹底して観察しつづけました。「長期観察」です。
こうしてつぎのような新発見をたとえばしました。
ジェーンの発見は定説をくつがえす画期的なものであり、それまでかんがえられていた以上に類人猿が人類にちかい(似ている)ことをあきらかにしました。
個体識別と長期観察という2つの基本的な方法は、京都大学・霊長類研究グループでも採用され、その後、チンパンジー研究を中心とした霊長類学は非常に大きな成果をあげ、人類進化の解明に貢献していくことになったのです。
個体識別と長期観察はあらゆる課題についてつかえる野外観察の基本的な方法です。課題が決まれば誰でも実践できます。ただし人間を観察するときには個体識別は個人識別といったほうがよいでしょう。
ペットを飼っている人は知っているように動物にも個性があります。個性があるということはその世界に多様性があるということです。個性と多様性をみとめるところから情報処理がはじまります。問題解決もすすみます。動物にあるいは国民に番号をふって識別・管理すればよいとかんがえている人々がいますが、それでは実際には情報処理はすすまず、成果もあがりません。
1962年、カメラマンのヒューゴ=ファン=ラーヴィックはジェーンの発見を記録にのこすためにタンザニア・ゴンベをはじめておとずれ、数千枚のスチール写真と65時間以上におよぶ16ミリフィルムを撮影、その一部は、1965年製作のドキュメンタリーとナショナルジオグラフィック誌につかわれました。つかわれなかった映像はフィルム缶などにいれられて倉庫にしまわれ、やがてわすれさられました。
しかし2015年に、米国ペンシルベニア州の保管施設の地下でそれらがみつかり、 ナショナルジオグラフィック誌は今回の特集記事を掲載、また新作ドキュメンタリー『ジェーン』を公開するとのことです。
▼ 注:参考文献
『ナショナルジオグラフィック』日経ナショナルジオグラフィック社、2017年10月30日
ジェーンは、1937年英国ロンドンで誕生、子供の頃から動物が大好きで、将来はアフリカへ行って動物に関わる仕事がしたいと周囲に話していた。家族にはジェーンを大学に通わせる経済力がなかったため、彼女は秘書の養成学校へ通った。最初はオックスフォード大学に勤務し、その後、ロンドンにあるドキュメンタリー映画の製作会社で働いた。1956年の夏には実家に戻り、ウエートレスをしながらケニアに行く船の運賃をためた。
1957年にアフリカへ渡った若きジェーンは、古人類学者ルイス・リーキーと出会う。彼の計らいで3年後にはタンザニアでチンパンジーの研究を開始。彼女の発見は、人間を特別な存在と位置づける従来の見識を覆し、世界中から注目を集めた。
彼女は、チンパンジーに自分で考えた名前をつけた。フィフィ、フロー、ミスター・マクレガー、灰色ひげのデビッドといったように。
ジェーンは双眼鏡を手に、起きている時間の大半をチンバンジー探しに費やした。そして、座り込んでメモを取る。
当時の動物学では、観察対象の動物に識別番号をつけて記録するのが常識でしたが、ジェーンは、人間でもそうであるように、それぞれのチンパンジーを個性をもった生き物としてあつかい、識別し、記録していきました。「個体識別」です。
また個体識別をしたたくさんのチンパンジーを長期間にわたって徹底して観察しつづけました。「長期観察」です。
こうしてつぎのような新発見をたとえばしました。
- チンパンジーは肉もたべる。
- 細長い葉をつかってシロアリを食べる(道具の使用)。
- 葉のついた木枝から葉をむしりとって、アリ塚の穴にいれてシロアリを「釣り上げる」(道具の製作)。
ジェーンの発見は定説をくつがえす画期的なものであり、それまでかんがえられていた以上に類人猿が人類にちかい(似ている)ことをあきらかにしました。
個体識別と長期観察という2つの基本的な方法は、京都大学・霊長類研究グループでも採用され、その後、チンパンジー研究を中心とした霊長類学は非常に大きな成果をあげ、人類進化の解明に貢献していくことになったのです。
個体識別と長期観察はあらゆる課題についてつかえる野外観察の基本的な方法です。課題が決まれば誰でも実践できます。ただし人間を観察するときには個体識別は個人識別といったほうがよいでしょう。
ペットを飼っている人は知っているように動物にも個性があります。個性があるということはその世界に多様性があるということです。個性と多様性をみとめるところから情報処理がはじまります。問題解決もすすみます。動物にあるいは国民に番号をふって識別・管理すればよいとかんがえている人々がいますが、それでは実際には情報処理はすすまず、成果もあがりません。
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1962年、カメラマンのヒューゴ=ファン=ラーヴィックはジェーンの発見を記録にのこすためにタンザニア・ゴンベをはじめておとずれ、数千枚のスチール写真と65時間以上におよぶ16ミリフィルムを撮影、その一部は、1965年製作のドキュメンタリーとナショナルジオグラフィック誌につかわれました。つかわれなかった映像はフィルム缶などにいれられて倉庫にしまわれ、やがてわすれさられました。
しかし2015年に、米国ペンシルベニア州の保管施設の地下でそれらがみつかり、 ナショナルジオグラフィック誌は今回の特集記事を掲載、また新作ドキュメンタリー『ジェーン』を公開するとのことです。
▼ 注:参考文献
『ナショナルジオグラフィック』日経ナショナルジオグラフィック社、2017年10月30日